第14話:究極の防御と、神剣の輝き
<カノーの裏切りと、剣聖の覚悟>
義輝は、背後でカノーが魔導カメラを構え、正面からヴァニタスの毒糸が迫る、絶体絶命の状況にいた。
(カノー!貴様、この期に及んで推し活の邪魔をするか!だが、この毒糸は私の鎧の隙間、心臓の傷を撫でてもらった部分を狙っている!)
義輝は、毒糸から逃げることは不可能だと悟った。彼の体は、フローラが触れてくれた場所(胸の傷)を、何よりも優先して守ろうと反射的に動いていた。
「推しが触れた場所を、魔王軍の毒で汚されてたまるか!」
義輝は、毒糸から胸部を守るため、あえて身体をひねり、毒糸を右肩の鎧の隙間に受けた。
ズブリ
毒糸が鎧を貫通し、義輝の右肩を深く抉った。激痛が全身を走るが、彼は微動だにしない。
「義輝!」レオンが叫び、カノーに向かって駆け寄ろうとする。
カノーは、義輝が毒糸を受けたことに一瞬怯んだが、すぐに高笑いした。「ふはは!義輝!貴様はもう動けない!フローラ様は私のものだ!」
ヴァニタスは、義輝を無視し、フローラたちに向かって新たな糸を放った。
<シズクの献身と、レオンの決断>
「させるか!」レオンは叫び、ヴァニタスに攻撃を仕掛けるが、ヴァニタスは巧みに回避し、フローラへの攻撃の手を緩めない。
その時、聖女シズクが、義輝のそばに駆け寄った。
「義輝!毒が回る前に、回復魔法を!」
「シズク、無駄だ!これは呪いの毒だ!時間がかかる。それよりも、フローラ様を!」義輝は、激痛に耐えながら叫ぶ。
シズクは、義輝の腕の傷に手を当てたが、彼の右肩の傷が、フローラが触れた胸の傷をかばうために受けたものであることに気づいた。
(この人は、命の危機に瀕しても、推しとの触れ合いの尊さを優先したのね…。魔王討伐より、推し活…本当に、バカげているけど…)
シズクは、義輝の推し活への異常なまでの「誠実さ」に、涙が出そうになった。そして、レオンを見た。
レオンは、カノーを牽制しつつ、義輝が普通の剣で戦っている姿、そして毒糸を受けたにも関わらず、フローラたちから目を離さない姿を見て、一つの大きな決断を下した。
彼は、腰に携えていた神剣に手をかけた。
「義輝!お前の推し活のせいで、世界が危機に瀕しているのは事実だ!だが、お前の命を懸けた献身は、本物だ。もういい!剣聖のプライドをこれ以上、普通の剣で汚すな!」
レオンは、義輝に向かって、神剣を投げ渡した。
「レオン!?」シズクが驚きの声を上げる。
<剣聖、神剣の力で推しを守る>
神剣は、義輝の手に収まると同時に、激しい光を放った。
「レオン…貴様…!」義輝は、驚きと感謝で言葉が出なかった。
「感謝するな!さっさと魔王軍の刺客を片付け、魔王城に戻るんだ!私たちが、お前の代わりにフローラたちを守る!」
レオンは、シズクと共に、フローラたちの前に立ち塞がった。
義輝は、神剣を握りしめ、ヴァニタスに向き直った。右肩の毒は全身に回り始めているが、神剣の強大な魔力が、その毒の進行を遅らせている。
「ヴァニタス!貴様の悪趣味な芸術は、ここで終わる!」
ヴァニタスは、神剣の出現に驚愕した。「な、なぜ神剣が!?勇者パーティは、剣聖を諦めていなかったというのか!」
義輝は、神剣の全魔力を込めて、一撃の『無心剣』を放った。しかし、その無心剣は、ヴァニタスの本体ではなく、彼が操る「呪いの衣装」の最終デザイン画を正確に貫いた。
デザイン画が消滅した瞬間、店内の衣装は力を失い、静かに地面に落ちた。呪いは、デザインの具現化によって完成する。義輝は、それを根元から断ち切ったのだ。
「私の、私の芸術が…!」ヴァニタスは叫んだ。
義輝は神剣をヴァニタスに向け、静かに言い放った。
「貴様の芸術は、他者を傷つける。私の推し活は、推しを守り、輝かせる。貴様は、推し活哲学の敗者だ」
ヴァニタスは、絶望的な表情を浮かべ、黒い煙となり店外へ逃走した。
戦闘が終わり、フローラたちは義輝に駆け寄った。
「佐々木さん!神剣…!」フローラが義輝の手に輝く剣を見つめる。
義輝は、神剣をレオンに手渡した。「感謝する、レオン。魔王討伐は貴様たちの使命だ。私は…フローラ様のボディーガードの使命を全うする」
レオンは、義輝の神剣を素直に受け取り、そして微笑んだ。
「ああ、義輝。一ヶ月後、必ず戻ってこい。お前がいなければ、魔王城は攻略できん。…そして、推し活も、ほどほどにな」
勇者パーティは、義輝に神剣を渡し、彼を王都に残すという、苦渋の決断を下した。義輝の推し活は、ついに世界の平和と並び立つ、一つの「使命」として認められたのだ。
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第14話 完




