第11話:剣聖ドッペルの弱点と、オタクの「完璧なコール」
<模倣された剣聖の危機>
王都の高級仕立て屋は、一瞬にして戦闘エリアと化した。目の前に立つ「剣聖ドッペル」は、義輝と同じ鎧、同じ普通の剣、そして完全に同じ剣技を構えている。
「ふふふ。どうした、剣聖。貴様の神速の『無心剣』が使えないぞ?貴様の剣技は、全て私のものだ」剣聖ドッペルが嘲笑した。
義輝は、フローラたち三人を背後に隠し、冷や汗を流していた。神剣を預けている今、自分の必殺技である『無心剣』を、模倣されないよう無意識に封印しているのだ。
「義輝!剣を抜け!」カノーが安全な場所から叫ぶ。「このままでは、フローラ様が危ない!」
「黙れ、カノー!このドッペルは、私の剣技を模倣する。同じ技では勝てない!剣聖のプライドよりも、フローラ様の安全が優先だ!」
義輝は、普通の剣を地面に突き刺し、あえて素手になった。
剣聖ドッペルは不敵に笑う。「武力を捨てるか。愚か者が。私は、貴様の体術、回避能力、全て模倣できる」
ドッペルは、義輝の体術を模倣し、神速の拳を放った。義輝は、それを紙一重でかわす。完全に同じ動き、同じ速度だ。このままでは、ジリ貧になる。
<推し活の経験値が導く「奇策」>
(そうだ…模倣できるのは、私の『身体の動き』と『魔力の流れ』だけだ。私の真の強みは、体術ではない…『推し活で培った、異常なまでの情報処理能力と、現場の空気を読む力』だ!)
義輝の脳裏に、フローラがライブで歌う姿が蘇った。
「佐々木さん、何を…?危ないです!何か攻撃をしてください!」 フローラが不安そうに叫ぶ。
義輝は、ドッペルとの距離を取り、突然、仕立て屋の店内に響き渡る大声で叫び始めた。
「ああああ!あああああ!!」
それは、雄叫びでも、戦闘の掛け声でもない。それは、ロイヤル・アクアのライブで、ファンが最も熱狂する瞬間に叫ぶ「アイドルコール」だった。
ドッペルは、突然の行動に戸惑った。
「なんだ、貴様!?狂ったか!?」
「狂ったのは貴様だ、ドッペル!貴様は、私の剣技を模倣できても、私の『推しへの愛を表現するコール』は模倣できない!」
義輝は、フローラの曲のサビに合わせて、全身の魔力を微細に調整しながら、特殊な周波数でコールを叫び始めた。
「フロ〜ラ!フロフロフロ〜ラ! (低音で、フローラの立ち位置を特定) リ〜リア!アリス! (高音で、リリアとアリスの心を鎮静化)」
<ドッペルの脆弱性と、完璧な「コール」>
ドッペルは、義輝のコールの異様な魔力と周波数に混乱し始めた。彼の模倣能力は、戦闘に特化した魔力の波動や身体の動きしか処理できない。しかし、義輝のコールは、推しへの感情という極めて複雑で、無意味な情報を大量に含んでいたため、ドッペルの処理能力がオーバーヒートを起こし始めた。
「くっ…この音はなんだ…!戦闘と関係のない、無意味な魔力のノイズだ!」
義輝は、さらにコールを激化させた。
「世界で一番可愛いよ、フ・ロ・ラ! (最大音量) 次のトーク券も、絶対買うぞ! (狂気の雄叫び)」
義輝のコールは、仕立て屋のガラスが割れるほどの音圧と、推しへの異常なまでの執着心が生み出す「精神的な攻撃」となって、ドッペルを襲った。
ドッペルは、模倣の限界に達し、頭を抱え始めた。模倣の対象である義輝の行動が、戦闘論理から完全に逸脱したため、その存在そのものが矛盾をきたしたのだ。
「私には、この『非合理的な愛の波動』が理解できん!なぜ、戦闘中に推しの名を叫ぶ!?」
「それが、私の『推し活剣法』だ、ドッペル!」義輝は叫んだ。「推しへの愛は、全ての剣技に勝る!」
ドッペルの身体は、義輝のコールの異常な魔力周波数によって、ひび割れ始めた。
<カノーの協力と、勝利の条件>
その時、カノーが、義輝の姿を見て、何かを理解したかのように、懐から「フローラの最新ライブDVD」を取り出し、仕立て屋の魔導プロジェクターにセットした。
「義輝!貴様のコールだけでは、破壊力が足りん!フローラ様のライブ映像で、推しへの愛を増幅させろ!」
カノーは、敗者として一度は義輝を邪魔したが、今回は、推しを危機から救うために、物質的な貢献、すなわち「ライブ映像の提供」という形で、義輝と協力したのだ。
画面には、ライブで完璧に輝くフローラの姿と歌声が映し出された。義輝は、その映像に合わせて、狂気的なほど正確なコールを続ける。
「愛してるぞ、ロイヤル・アクア!永遠に推すぞ!」
義輝のコールと、フローラの映像と歌声が重なり合った瞬間、ドッペル・アサシンの全身の鎧が砕け散り、黒い煙となって消滅した。
ドッペルは、最後まで「推し活という名の非合理的な感情」を模倣できず、敗北した。
義輝は、勝利の雄叫びを上げることなく、疲弊しきった体でフローラの方を振り返った。
「フローラ様、ご無事ですか?…私は、私自身の剣技を使わずに、貴方を守り切りました」
フローラは、義輝の狂気じみたコールと、その献身的な姿を見て、涙ぐんでいた。
「佐々木さん、ありがとう。でも、もう二度と、そんな危ないことはしないでください」
義輝は、推しから心配されたことに、再び恍惚とした表情を浮かべた。彼のボディーガードとしての使命は、まだ始まったばかりだ。
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第11話 完




