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剣聖・佐々木義輝は魔王討伐より推し活が大事  作者: 北大路京介


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第1話:剣聖、アイドルを推す。~今日の特典会に命を懸ける~

<序章:剣聖の朝と世界の危機>


 世界は、魔王軍の脅威に晒されていた。


 光の勇者パーティは、魔王の城を目指し、大陸を横断する厳しい旅を続けている。そのパーティの核となり、世界の命運を握るのが、大陸最強の剣技を持つ男——佐々木義輝(32)である。


「義輝!急げ!偵察隊からの緊急報告だ!奴らがついに『嘆きの森』を抜けて、『白銀の砦』に進軍を開始したぞ!」


 勇者パーティのリーダーである金髪の勇者、レオンが血相を変えて叫んだ。レオンの隣では、聖女のシズクが不安げに手を組んでいる。


 しかし、佐々木義輝は動じない。分厚い銀色の全身鎧に身を包み、腰に差した神剣の柄を撫でながら、彼は遠い目で窓の外の青空を見つめていた。その視線は、王国の危機ではなく、今日という一日のスケジュールに注がれていた。


「……レオンよ。その報告は、今日の特典会には間に合うのだろうな?」


「特典会だと?何を言っている義輝!王国の危機だ!王都が危ないんだぞ!」


「王都の危機は、私の個別トークが終わってからでも構わん。だが、『ロイヤル・アクア』のセンター、フローラ様の個別ロングトーク券(3分)は、今日午後三時で期限が切れる。魔王軍の進軍速度と特典会の終了時間を天秤にかけるのは、剣聖たる私の最も重要な使命だ」


 レオンは頭を抱えた。義輝の剣技は疑いようもなく世界最強だが、その最強の剣聖は、魔王討伐よりも「推し活」を優先するという、常人には理解不能な論理で動いていた。


「いいか、義輝。白銀の砦には、魔王軍四天王の一人、『毒のリッチ・ロード』がいる。あいつを倒せば、一週間は砦の防衛ラインを維持できる。お前の個別トーク券など、その後にいくらでも——」


「甘いな、レオン」義輝は、冷たくレオンの言葉を遮った。「リッチ・ロードの討伐証明書は、『リッチ級』。つまり個別ロングトーク券に交換できる。だが、その証明書は特定の会場でのみ有効。そして、フローラ様の特典会は今日で最終日だ。つまり、リッチ・ロードを倒すことは、フローラ様との3分間を確保するための最短、かつ唯一のルートなのだ!」


 義輝の理論は、特典会という一点において、完璧に、そして狂的に理路整然としていた。


 剣聖の推し活論理

 義輝にとって、魔物との戦闘は全て「推し活資金」か「特典会チケット」のための手段である。最高ランクの特典会チケットは金銭では買えない。代わりに必要となるのが、最高ランクの魔物を討伐した証である「討伐証明書」だ。


 義輝は、懐からくしゃくしゃになった一枚のチラシを取り出した。


【ロイヤル・アクア 秘密の特典会開催!】


  《剣聖特別ルート》


  オーク級証明書:サイン入りチェキ


  リッチ級証明書:個別ロングトーク(3分)


  魔王軍幹部級証明書:シークレットイベントご招待(ツーショット撮影会)


  彼の指が、強く「リッチ級証明書」の項目をなぞる。


「今日、私はフローラ様に、先日のライブのMCで仰っていた『新曲のテーマは海賊』という情報の、詳細な背景を聞き出さねばならない。それが分からなければ、次のライブの私のコールも、推しTシャツの配色も、全てが中途半端になる。中途半端な推し活は、剣聖の名折れだ」


「もういい!好きにしろ!だが、魔王軍四天王は手強いぞ。お前一人で仕留められるのか?」レオンはついに諦め、ため息をついた。


「愚問だな」


 義輝はついに神剣を抜き放ち、眩い光を放った。


「推しとの約束を果たすために命を懸けるオタクを、誰が止められる?」


 白銀の砦、3分間のために

 義輝は単身、白銀の砦に到達した。


 砦はすでに魔王軍の先遣隊に囲まれていたが、義輝の目には雑兵のオークやゴブリンなど映らない。彼らが纏っているのは「スライム級」の価値しかない、無意味な存在だ。


「無駄だ。今日のお前たちでは、せいぜい握手券にしかならない」


 義輝は、雑魚を避け、迷いなく砦の深部、リッチ・ロードの居場所へと突き進む。


 そして、ついにその魔王軍四天王の一人、毒のリッチ・ロードと対峙した。全身から紫色の瘴気を噴き出し、禍々しい笑みを浮かべる不死の魔物。


「フフフ…勇者の残党め。この私を討伐するなど、愚かな——」


「うるさい。長引かせるな。私の命は今、残り二時間の特典会時間と直結している」


 義輝は、リッチ・ロードの言葉を完全に無視し、神剣を構えた。その一撃は、魔力と情熱が極限まで凝縮されたものだった。


「推しへの愛よ、力となれ!」


 義輝の剣は光の軌跡を描き、リッチ・ロードの核を瞬時に貫いた。推しに会うためだけに発揮された、世界最強の瞬発力と破壊力。リッチ・ロードは断末魔を上げる暇もなく、塵となって消滅した。


 その場に、リッチ・ロードの討伐証明書が輝きながら浮かび上がった。


 決戦後の焦燥と、特典会会場へ

「よっしゃ!リッチ級確保!」


 義輝は迷わず証明書を懐に収め、全速力で特典会会場である「王都地下アイドルホール」へ向かい始めた。


「待て!義輝!四天王の一人を討伐したのだ!この場で防衛ラインを構築せねば!」


 追いついたレオンが叫ぶ。


「馬鹿を言え!リッチ級証明書は即日交換しないと効力が失われる可能性がある!魔王軍など、私に個別トークを終えさせてからでも遅くはない!」


 義輝はレオンを振り切り、王都へ向かう。全身の鎧は戦闘で傷つき、血に汚れていたが、彼の顔は歓喜に輝いていた。フローラ様との、貴重な3分間。その時間があれば、今後の推し活の戦略を練り直すことができる。


 剣聖・佐々木義輝は、走る。王国の命運より、神剣の輝きより、たった一人のアイドルとの3分間のトークを勝ち取るために。


(特典会場まで残り一時間。まだ間に合う。今日のトークテーマは『新曲の歌詞は誰が書いたのか?』これで決まりだ……!)


 義輝は、熱に浮かされた表情で、血塗れの鎧を揺らしながら王都の賑やかな通りを駆け抜けていった。


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第1話 完

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