第六話 死がふたりを分かつまで
ツヴァルは三人のことを異性としてではなく、命を預ける仲間として大切に思っていた。本当に異性として彼女たちを見ていたのなら、ツヴァルは未だに童貞を貫いてはいない。
妹ポジションのイエルはともかく、ガレンとレンフィーからは事あるごとに言い寄られていた。だが、ツヴァルはそれを全て受け流していた。一生諦めようとしない二人にツヴァルは『魔王を倒したら』と約束を交わした。それからの二人の活躍は目に見映えるものがあった。
が、その約束が延々に叶うことはなかった。
ツヴァルは聖剣を引き抜いた勇者という立場上、彼女たち以外にも色々な思惑はあれど性別問わずモテていた。にもかかわらず、彼はその好意に一ミリ気づくことはなかった。
それもそのはず、エタニティはツヴァルに群がる人々を秘かに亡き者にしていた。近づかないように暗示をかければ済む話なのだが、聖剣はあえてそうしなかった。
飴に群がる蟻に慈悲をかけるようなバカはいない。プチっと潰して駆逐するでしょ? というのが聖剣の見解だった。
そもそも今まで三人を手にかけなかった理由も、多少なりとも戦力として勇者の役に立っていたからだ。それでも一線を越えてしまえば、無慈悲に刃が振り下ろされる。
エタニティにとって、ツヴァル以外は全て取るに足らない塵芥に過ぎなかった。
魔王を唯一倒すことができる聖剣は……僕にとっては魔剣でしかなかった。そのことに気づくのがあまりにも遅すぎた。
ツヴァルは何度も何度も何度も頭を掻きむしった。指の隙間に髪の毛が纏わりつこうが、床に散らばろうが手が止まることはなかった。
エタニティはその様子を終始隣で満足げに観察していた。
そして締め括りとして、いつもの光景を彼に見せてあげることにした。
「ねえ……旦那様? 魔王を退治した後の世界、知りたくはありませんか?」
その言葉はどん底のツヴァルに酷く心に刺さったが、それが今の彼にとって唯一の救いでもあった。
どれだけの犠牲を払ったとしても、世界が平和になったのなら彼らの犠牲は無駄ではなかったと思うことができたからだ。
ツヴァルは魔王を倒した日から今日まで魔王城がある孤島から一歩も出たことがなかった。唯一外界とつながる吊り橋は前述により使えなくなっていたからだ。
最果ての地にあるため集落もなく人も住んでいない孤立無援。孤島から望む景色も何もない枯れた大地と荒れ狂う大海原のみだった。
「僕を外に連れ出してくれるのか⁉」
ツヴァルは目を輝かせ今日イチの歓喜の声を上げた。
「ごめんなさい旦那様。私の力でも外に連れ出すことはできません。ですが、外の世界を見せることはできます。さあ旦那様、目を閉じてください」
「そうか……でも、平和になった世界が見れるのなら今はそれでいい!」
ツヴァルは期待を胸に目を閉じた。
「旦那様、嬉しいのは分かりますけど。呼吸を穏やかにリラックスですよ、リラ~ックス♪」
エタニティの声が心身と沁みていく。しばらくすると、真っ暗闇に一寸の光が差した。その光は徐々に広がり、単色が多色に変化し最終的には色鮮やかな景色に変貌を遂げた。
「……なんだ、これは? これが僕が救った世界?」
「ええ、旦那様が救った世界のその後です」
「嘘だ、嘘だ、嘘だ! おまえ僕にまた暗示をかけただろ! そうだろ! そうだと言ってくれ。頼むよエタニティ……」
「私は暗示も嘘もついておりませんよ。旦那様はあまりにも人が良すぎます。そこがあなたの魅力でもありますが、人間とは愚かな生物なのですよ。共通の脅威がいなければ、あのゴミムシ共は互いに潰し合うのですよ」
赤い空を覆うように黒い雲が漂い大地はひび割れ草木は枯れ果て、建造物は瓦礫と化し廃墟となった王都には生命が一つも存在していなかった。王都どころか王国を含めた各国全てが同じ状況だった。
勇者が魔王を討伐した結果、世界は終焉を迎えた――。
ツヴァルは痛哭し……何も考えれなくなった。そして最後には糸の切れた操り人形のように動かなくなった。
「ああ~なんて可愛そうな旦那様。大丈夫ですよ、私がずっと一緒にいます。死がふたりを分かつまで……十二回目の輪廻。あなたの傍にいます」
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