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7 高橋由里,7

     七


「いい加減に姿を見せなさい!!!!」

 びしっと、由里の人生史上最大の声量と迫力で他人へ要求を突きつける。

 しかし、声は呆れたように溜息を吐くだけだった。

《……まあ、それが出来たらいいのですけれど。それは無理なことですわ。》

 やれやれといった様子でため息とともに呆れた声で吐き出した後、声は由里に口を挟ませることなく続けた。

《どうやらまだ気づいてないようですから、説明いたしますけど。貴女は私で、私は貴女なのです。ですから、姿も何も無理ですわ。》

 説明すると言いながら、全く理解できない言い分を繰り広げる声。理解できないのだから、説明責任が果たされているとは言い難い。由里は怒りのボルテージを維持したまま、再び声に向き合う。

「全く分からないんだけど?分かるように説明してください!」

《……まったく。いいかしら?由里。》

 声の主からすれば分かりやすく説明をしてあげているつもりなのだろう。その上、素直に早く自分の言うことを聞くのが当たり前で、だというのに特別に説明を親切にしてあげているというような心持ちだと表明するかのように、ため息は深くなり声音にはうんざりするような響きが混ざり始めた。

《何て言ったら貴女は理解して下さるのか分かりませんけど……。そうね……。とりあえず耳を塞いでみたらいかがかしら?》

「はあ?」

 会話中に耳を塞げなどとどういうつもりなのだ、この相手は。由里は意味不明の言葉に憤慨する。この相手は真面目に由里と会話するつもりもないのだ。

(そっちがその気ならいいわよ!もう絶対会話してやらないんだから!)

 憤慨した勢いのまま、由里はきつく耳を塞ぐ。もう二度と、この相手の声を聴かないつもりで。

《聞こえますかしら?私の声。》

 だが、由里がどんなに耳を塞いでも、その声はクリアに由里に届いたのだった。

「ど、どういうこと?」

 驚いて耳を塞いだまま、怒りを忘れて慌てる由里。

 声は慌てる由里に構うことなく続けた。

《聞こえて当然ですわ。私は貴女の頭に直接語りかけているんですから。》

「は?何!?」

《どう言ったら貴女にご理解いただけるかは分かりませんけれど、そうね……。端的に言うと、私は貴女の魂を異界から召喚し、私の身体に降ろしたのです。これで分かっていただけるかしら?》

「あ、貴女の身体?」

 声の説明の全ては理解出来なかったが、唯一理解できた部分だけに由里は反応する。

 森の中では近くに鏡もなく、全体像は何も確認できないが見える範囲だけでもと由里は今の自分が所有している身体を確かめ始める。

「……、……っ。……うそっ!?……何で!?」

 由里が見れば見るほど、その身体は自分のモノであるはずだというのに、全く見覚えのないモノだった。

 突然森の中にいたことや知らない傷などに慌てていて全く気付いていなかったが、由里が生まれてこの方見ていたモノとは全く違っていた。

 元々黒い髪は金髪になっていて、その上緩いウェーブがかかっている。何より、今日は結婚式用に美容院でハーフアップに結い上げてもらったというのに、どれだけ触ってもハーフアップの跡も無くなっている。というか、髪の肌触りがそもそも違う。よくはねる上に手がかかって仕方なかった髪質が全く異質なものへと変わっていた。

 由里から見える手だって違う。すぐに外せるようにとネイルチップを張りつけていたはずの由里の爪は、天然で綺麗に整えられたものになっており、大して自慢できなかった生まれ持っての手は姿かたちも無くなり、手のパーツモデルでもやれそうなほど長く美しい指を持つ白魚のような手へと変化している。

 先程まで着ていたのは紺色の膝丈のレンタルドレスだったが、今は何故か肌が全く出ていないロングのワンピースのようなものを着ているし、履いていたはずのヒールも踵のない靴になっている。少し上げて裾から足を確認してみるが、由里のモノよりも長くて細い気がするし、何より肌が全く違う。白くきめ細やかな陶器のような肌は、どれだけ由里が手入れしても手に入れられるはずもなかったものだ。

「……貴女の、身体?」

《そうよ。私、リリィ・マクラクランの身体です。》

 リリィ・マクラクラン。そう堂々と宣言する声は、自らの存在に大いなる誇りを持っていると感じさせる響きだった。


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