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【裏置き】血刃の妾集落(下)

はい、後篇です。

つじつまやっぱり変です。

にゅアンスで読んでいただければ幸いです。

               銃.

        


―――そんなの…そんなの嘘です。

   僕が……僕が父様を殺したなんて…。


―――だって僕は父様の顔すら覚えていません。

   そんな幼い時に「西の腕」の剣帝といわれた父様を殺せる訳がありません……。


―――何より僕の刀がそれを証明しています…。

   父様を殺しているのなら僕の刀は紅蓮に染まっているはずではないですか。



―――きっとねえさまが嘘をついているに違いありません。

   きっとねえさまが嘘を……………。


―――では…何の為にねえさまはそんな嘘を?

   ねえさまが僕にそんな嘘をついてまでして何か得るものがあるとでも…?


―――……………。


―――僕が父様を殺した…仮にこれが本当だったとしてどうしてそこに「(しょう)」にい様と

いう人が出てくるのでしょうか?

そして何故父様を殺した僕でなくその人だけが父様の血を吸っているのでしょうか?


―――……………。



――――そもそも…父様がすでに亡くなっているという事自体本当の事なのでしょうか?



「珍しいな…「白子(しらす)」。

 てめぇが一人でうろついてるなんてよォ。」

堯湖(たかこ)が夕闇迫る里の外れの墓場近くで一人物思いにふけっていると集落の男子の一人「丹霄子(たんしょうじ)」が堯湖に声をかけてきた。


「丹霄子」は一番の古株の男子だった。

気性が荒く性根の悪い男子で集落の男子達から疎まれている存在だった。

「丹霄子」と同年代の男子は皆とっくの昔に外へ連れていかれていた。

この事からもわかるように「丹霄子」はそこまで剣の才がある訳でもなかった。

けれど一方で次の御殿の使者が訪れた時には必ず外へ連れて行かれるだろうとひそかに言われていた。

普通はその才をもって出ていくものだが閉鎖的な集落に「丹霄子」のような存在は危険だからだ。

故にそういった男子がある時使者に「お願い」すると連れて行ってくれるという。「丹霄子」は次回のその「お願い」候補に挙げられていた。



「っ……!」

「おい…待てよ…逃げんじゃねぇよ。」


とっさに逃げようとする堯湖の腕を「丹霄子」が思いっきり掴んだ。

「ッ……。」

「なに…ちょっとてめぇにお願いがあるんだよ。

 この俺様がてめぇみたいな雑魚にだぜ…。

 嬉しいだろ?」


「丹霄子」は思い切り掴んだ堯湖の腕を堯湖の背中の上にひねり上げた。

「うッ……。」

堯湖の顔が苦痛にゆがむ。その横顔を見て「丹霄子」はにたりと笑い堯湖の背後からそっと耳元に口を近づけいやらしく囁いた。


「なぁ…あのお夕とかいう女。良い女だよなァ…。

 やりてぇんだよ…だからよォ…あの女俺の所に呼び出してきてくれよ……。

……な、いいだろぉ?もちろんお前にも良い思いはさせてやるからよ……なんだかんだもう女には興味あるんだろ?お互いいつ外に出れるかわかんねぇんだしよォ…な?

一人旅の女だからそれなりに腕はあるんだろうが……なぁに俺ら男二人がかりなら何とかなるって…。」

堯湖は自分の耳が熱くなるのを感じた。

とっさに背後から堯湖の腕をひねり上げる「丹霄子」の足の甲を思い切り踏みつけていた。

「……ッテ!」

「丹霄子」が足の痛みに一瞬ひるみ堯湖の腕をひねり上げていた手の力を緩める。

堯湖はその隙を逃さずひらりと「丹霄子」の腕から逃れるとその流れを利用したまま「丹霄子」のそのこめかみに拳を食らわせた。


「………ごっ。」


「丹霄子」は墓場の生垣に突っ込みそのまま白目をむいて崩れ落ちた。


「おっ……。」

堯湖の両目から涙がこぼれた。

「お前なんかと一緒にするなァッ!」

堯湖はそれだけ叫ぶと里の中の自分の家へと向けて駆けて行った。


「丹霄子」に二人がかりで無理矢理女を抱く事しか出来ない、そしてそうしたいと思っている男と見られた事に非常に腹が立った。

堯湖は情けなさと悔しさと惨めさと恥ずかしさとでとめどなく流れ出る涙を止める事が出来なかった。こんなに今ある自分を嫌だと感じた事はなかった。


―――悔しいっ…悔しいっ……悔しいっ!


堯湖は里の中を駆け抜けた。女達は夕餉の準備に家にはいない。ほとんどの男子達も夕餉にありつこうと早々と里の広場に移動していた。それでもまだ家の軒先で腰を下ろす幾人かの男子が堯湖を見とがめ呼びかけた。けれど堯湖はその声を無視してそのままに駆け抜けた。


―――僕が父様を殺したなんて絶対嘘だッ!そんなの嘘だッ!

   だってそんなに強いなら僕はこんな所にいないっ!

   僕はこんな所でこんな悔しい思いなんかしたりしてないっ!

   こんなっ……こんな思いなんかっ…。


堯湖は自分の家の中へ駆け込んだ。中では堯湖の実母「儁湖(しゅんこ)」が沢山の壜や壺に囲まれて薬草を煎じている所だった。堯湖の実母「儁湖」はその知識をもって妾集落で医者のような事をして暮らしていた。


「お帰りなさい堯湖。

 全くどうしたというのです?そんなに急いで―――」

「儁湖」は顔を上げ今だ涙を止めどなく流す悲しげな堯湖の顔を見て次の言葉を失った。

「…堯湖……。」

「母さま……父さまは…「霾翳猩紅(ばいえいしょうこう)」はすでに亡くなっているというのは本当なのでしょうか?」

「ッ!」

突然の質問に「儁湖」は絶句し取り繕う事なく固まった。


―――あぁ…それは本当なんですね…。


堯湖はすぐさま家の外へと飛び出し駆け出した。

「堯湖っ!」

「儁湖」が壜や壺が倒れるのも構わず、飛び出していった堯湖の後を追いかけた。


「堯湖!待って…待ちなさい!」

堯湖の耳に「儁湖」の声が痛く響く。それでも堯湖は止まらない。

「儁湖」は途中で力尽き膝に手をつき肩で息して立ち止った。



「そのまま走って……どこへ行けるというのですかッ?」



――――どこへ……?


堯湖はぴたりと立ち止った。

そして遠くで自分を見ている母親に向かってゆっくりと振り返った。


―――そう…ですね……僕は…ここからどこへも行けない…。


そう感じた途端、堯湖はまた一筋の涙を流していた。


「こちらへいらっしゃい…堯湖。」

「儁湖」が先程出した大声とは違った優しい響きで堯湖を呼んだ。

そう…堯湖がいつも耳にする、厳しくけれどそれ以上に優しい母の声で…。

堯湖は大人しく母親の元まで引き返した。そんな堯湖を「儁湖」は優しく抱きしめた。


「堯湖……。」

「儁湖」の声が堯湖の耳に優しく響く。先程屈辱を注ぎこまれた耳に優しさが流れ込んでくる。堯湖は母の腕の中で先程とは全く違う熱い涙をこぼしていた。

「僕が……僕が父様を…?」

「いいえ…それは違います。きっと違うのですよ堯湖。

 あなたは悪くありません。あなたは何もしていないのですから…。」

「母様…。」

「あなたの刀が何よりの証…。その白さが何よりの潔白の証。」

「母様…。」

「それにしても一体誰が貴方にそんな事を……。」

「………。」

母の腕の中で堯湖は身を固くした。そんな堯湖の肩をつかむと「儁湖」は己の腕から堯湖の顔を引きはがしその顔を覗き込んだ。


「いいでしょう…堯湖。貴方ももう何もわからない子供という訳でもありません。

 私の知っている事を全て貴方にお話しします。よろしいですね?」

堯湖の母、「儁湖」はいつもそうするように堯湖の瞳を見ながら堯湖の言葉を待った。

堯湖は母のこの聞き方が苦手だった。堯湖はよく考えて込んでしまう癖があった。その為目をさ迷わせて答える事が多々あった。その度に母から人に心の隙を見せてはなりませんとたしなめられていた。


「はい…教えてください母様。僕は僕の事を知りたい…。」


不安でどうにかなりそうになりながらもその時の堯湖はきっぱりと母の眼をまっすぐに見て母の言葉に答えていた。



            六



「貴方が父様にお目見えしたのは貴方が生まれてすぐの事…。

 その一度きりの事でした。」


儁湖(しゅんこ)」は堯湖(たかこ)を連れて家に戻ると堯湖に話をし始めた。


「父様は一言仰りました。

「これが本当に俺の子か?」と……。そして御殿の中でも一番辺境の土地に家を賜り私達はそこで暮らす事となったのです。」


――――これが本当に俺の子か?


初めて聞く、そして最初で最後の言葉になるであろう父様から贈られた言葉…。

堯湖はきつく唇をかみしめた。


「それから数年後、ちょうど貴方の刀が脇差程に成長した頃、父様からの使いが参りました。その者は父様からの命により貴方の刀を取りに参ったのです。」

「僕の刀を?どうして…。」

「ほんの戯れだったのでしょう…。純白の刀にどんな力があるのかあの方はきっと試してみたかったのですよ、堯湖。」

「どんな力って……。」


―――力なんて……何も……。


「それから一夜明けるとまた使いの者が刀を返しに参りました。けれどその使いの者は父様、「霾翳猩紅」様の使いの者ではなく貴方の兄様のお一人で「霾翳猩紅」様から実子として認められていらっしゃる「(ばい)」様の使いの者でした。

しかもその使いの者は多勢の護兵を引き連れてまいりました。彼らはすぐさま私達を捕えると牛車に乗せこの妾集落まで連れてきたのです。

使いの者は言いました。「以後お前達はここで暮らす事。またその間その子供は女子のように農作業をし、男子のように刀を振るい鍛錬を積む事を禁ずる。」と……。

突然の事に納得がいきませんでした。私は使いの者を詰問しました。何故「霾」様の使いの者にそう言われるのか?「霾翳猩紅」様はどうしたのか?と…。

けれど使いの者は何も答えてはくれませんでした。

そして私達をこの集落の中へ閉じ込めたのです……。」


「儁湖」の瞳が鈍く光った。

知識をつけた堯湖が外の世界に興味を持つように「儁湖」もまた外の世界で生き知識を高めたかったのだろう。外の世界で生きその広さを知っている「儁湖」ならなおさら…。幼い頃から堯湖はいつも何とはなしにこの母の悔しさを感じていた。


「……しばらくしてからです。私が御殿で何が起きたのかを知ったのは…。

 後からここに送られてきた一族の方が教えて下さいました。

貴方の父君「霾翳猩紅」様は「霾」様同様「霾翳猩紅」様から実子と認められていた「(しょう)」という方に殺されたのだと…。

 その日「霾翳猩紅」様はその「猩」という方と手合わせをしたのだそうです。

 そう……「霾翳猩紅」様は貴方の刀をお使いになって。

 そこに立ち会っていた者は誰もいなかったのでそこでどうしてそのようになったのかは誰も知りません。けれどしばらくしてその鍛錬場に人が入った時には「猩」という方の姿はなく「霾翳猩紅」様唯お一人が事切れて仰向けに倒れていたのだそうです。

 その胸元には一突きの深い刺し傷、そして傍には貴方の純白の刀を投げ出した状態で…。」


―――「猩」にい様は……父様の血を吸って姿をくらましたんだ。


―――だが殺したのはお前だ…堯湖。


―――姉さまの言った事の意味がわかったような気がする。

 父様にとってほんの戯れだった手合わせ。

 刀に一族の血を吸わせる事で強くなれる血族。

 父様は僕の刀で手合わせをしたからおそらくその「猩」というにい様の前で隙を突かれてしまったんだ。

 「猩」というにい様がその時何を考えていたのかは僕にはわからないけれど僕の刀がそのにい様の心に魔を差してしまったんだ。そうです…やはり僕が…。


ぱんっという音と両頬に走る痛みに堯湖は物思いから我に返った。痛みの後に温かさが頬に広がる。それは「儁湖」の手だった。


「母様……。」

「言ったでしょう?貴方は悪くないと…。

悪いのは戯れや魔に憑かれたその者達の心の有様です。

仮に貴方の存在に罪があるとしましょう…。ですがその場合でもまず罪があるのは貴方を生した「霾翳猩紅」様と私。「霾翳猩紅」様などご自分で撒かれた種の実でなのですから自業自得というものです。わかりますね?」

堯湖は母の眼に向かってゆっくりと頷いた。それを見て「儁湖」は堯湖の頬から手を離す。


「堯湖……公には知らされておりませんが「霾翳猩紅」様の一族は同族の血を刀に吸わせる事でその者の力を己のものとする事が出来るのです。

「霾翳猩紅」様がご健在の頃はその事実を隠され、また知る者に対してはその行いを禁じてきました。そして皆がそれに従いました。

何故なら「霾翳猩紅」様の力に及ぶ一族の者は一人足りともいなかったからです…。

けれど「猩」という方はその「霾翳猩紅」様の力を己の力としてしまった……。」


――――私達一族の刀は一族の血を吸えば吸う程に強くなる…。


「紅」の言葉が堯湖の脳裏をよぎる。

「…「霾翳猩紅」様がお亡くなりになられた事を知った「霾翳猩紅」様の実子が一人、現在一族の長についている「霾」様は本殿に住む兄弟姉妹を次々に斬りつけては己の力にしようとしました。誰もその行いを止める事が出来る者がいなかったのです。そしてその為にほとんどの本殿暮らしの者はいなくなったそうです。」


「どうして……僕達は殺されなかったのでしょう…。

まず真っ先に殺されていそうなのに…。」

堯湖は思わず呟いていた。


兄弟姉妹を問答無用で斬りつけ自分の力にしようとするそんな気性の激しい人物が母様のように堯湖は全然悪くないなどと考えるとは到底思えない。父様「霾翳猩紅」の力を「猩」にい様に奪わせる契機を作った一番の原因と考えているに違いない。それなのに…。


「それは貴方の刀が純白だったからです…。もし血に染まっていたとしたらおそらくすぐに殺されていた事でしょう。」

堯湖はその答えに納得がいかなかった。

純白だから罪が無い。そんな考え方をする人間とは思えなかった。

「わかりませんか?堯湖。」

不満そうな顔をしている堯湖に向かって「儁湖」は言った。堯湖は首を縦に振った。


「普通あり得ない事なのですよ。そんな事は…。

いくらご自分の刀でないとはいえ「霾翳猩紅」様がご自分の子に一太刀も浴びせられずに絶命するなんて……。

 ですから「霾」様は貴方を持て余しているのです。貴方を見くびる一方で同じ位貴方を恐れているのです。」

「僕を……恐れているって。」

「貴方に関わる事でご自分の命が奪われる事を…。」

「っ……そんな……そんな事僕に……。」

「……誰も「霾翳猩紅」様の最期を知りません。ですからそのような事が貴方に出来ないと言い切る事も誰にも出来ません。

 ですから貴方と私は妾集落に閉じ込められた。そして貴方はその刀を使う事を禁じられたのです。」


―――そんな……そんな事って……。


そこで「儁湖」は口をつぐみ家の戸に目をやった。堯湖もそちらを振り返り耳を澄ませる。

しばらくすると遠くからぱたぱたと歩いてくる音が近づいてきた。

そして家の戸に隙間があくとそこにぬっと足が差し込まれその足がゆっくりと戸を押し開いた。

「「(しゅん)義母(かあ)さま。今日の夕餉です。今日はですね、お漬物に芋粥、それと蛙使(あし)の汁物です……て、あれ堯湖?何であなたここにって……あらあらぁ?」

足で戸をあけて堯湖の家の中に入ってきたのは、薬の調合に忙しい「儁湖」の為に夕餉を持ってきた堯湖の義母姉の一人「莠嶌(ゆしま)」だった。


「いやぁ~ん、堯湖ったら。鼻真っ赤っ赤ぁ~の目ぇぐずぐずぅ~。

すっごく久しぶりじゃない泣き顔なんてぇ~。え~やだやだどうしたのぉ?

 おねぇちゃんに相談してみなさい?」

そういうやいなや「莠嶌」は眼を爛爛とさせて草鞋を脱ぎ棄て家に上がり込んできた。

とっさに堯湖はそっぽを向いたが「莠嶌」はお膳を置くと問答無用で反対側からじろじろと覗きこむ。


「なっ…何でもないです、本当に何でもないですから……姉さま。」

堯湖が慌てて己の顔に右手の甲を当てて顔を隠しながら答えた。

「嘘よ嘘。最近じゃ男子にいじめられても全然泣かない堯湖がそんな顔になるまで泣くなんて絶対何かあったに決まってるじゃない!おねぇちゃんの目は節穴じゃないんだから。」

弁解する堯湖の右手を顔からひっぺがそうとその手首を掴んで引っ張りながら「莠嶌」が反論する。


―――よりによって今日の夕餉の当番が「莠嶌」姉さまだったなんて……。


堯湖は必死に抵抗しながら今日の己の運の悪さを呪った。

堯湖の義母姉の一人「莠嶌」は妾集落の中でも一番のおしゃべりだったからだ。

きっと明日の朝には集落中に泣いた事が知れ渡ってしまうにちがいない。

堯湖はまた別の意味で泣き出したくなった。


「そうですか…。今日は「莠嶌」でしたか…。」

堯湖ははっとして母の顔を見た。


―――母様…!どうか姉さまに口止めを…!


しかし次に「儁湖」の発した言葉は堯湖の祈りと予想を完璧に裏切るものだった。


「ちょうど良い所にいらっしゃいましたね。」

「どこがァッ!」

思わず堯湖は叫んでいた。そんな堯湖の顔に「儁湖」の氷の眼差しがすかさず突き刺さる。


「―――で…しょうか…?」

「そう……言葉は綺麗に使いなさい、堯湖。」

「儁湖」は穏やかに堯湖に言った。


「何ですか?「儁」義母さま。私がちょうど良い所に来たというのは…。」

「母様……。」

「今堯湖にお話ししていた所だったのですよ。「霾翳猩紅」様がお亡くなりになられた時の事を……。」

「母様ッ……!」

「大丈夫ですよ堯湖。「莠嶌」はその事を知っています。そして私が知らなかった事を教えて下さったのは「莠嶌」なのです。」

「姉さまが…?」

堯湖はもう顔を隠すのも忘れて「莠嶌」の顔をまじまじと見つめた。

「なる程…そういう事でしたか。「儁」義母さま。だから堯湖は泣きはらして……。

わかりました。そういう事でしたら堯湖が泣いてた事とか誰にも話したりしませんから。」

「莠嶌」はとんと自分の胸を拳で叩いた。

堯湖はこの集落一のおしゃべり姉さまが誰にも口外しないと誓った事に大層驚いた。


「じゃあ堯湖。堯湖の分も夕餉持ってきてあげるわね。

そんな顔じゃ広場に行けないでしょ?大丈夫!皆には「儁」義母さまの調合のお手伝いで手が離せないからとか言ってくるから。」

そういうと「莠嶌」はたっと立ち上がると草鞋を履き戸に手をかけた。

「……有難うございます。姉さま。」

「かわいい弟の為ですもの!」

「莠嶌」はにこっと笑うと戸を開けてまたぱたぱたと広場に向けて駆けて行った。



「堯湖……。」

「儁湖」が少し改まった様子で堯湖の名を呼んだ。

堯湖はそんな母の顔を見つめる。

「もう一度聞きます。

………誰が……あなたにそのような事を言ったのです?」

堯湖は体をびくりと震わせた。そんな堯湖を見つめながら「儁湖」は話の先を続ける。

「………「霾翳猩紅」様がお亡くなりだという事、それに加えて貴方がそこに深く係わるという事まで知っている者はこの妾集落に数える程しかおりません。

そしてその事を貴方に突然告げるような者の顔を私は思い浮かべる事が出来ません。」

「……………そ、それは。」

「誰なのです?堯湖。」

「………。」

「堯湖?」

「………それは。」


堯湖が「儁湖」に問い詰められて言葉に詰まっていると、遠くからまたぱたぱたと誰かが近づいてくる音が聞こえてきた。

地面を蹴りつけるような、それは何か鬼気迫るものを感じさせる足音だった。

胸騒ぎがした。それは予感だった。その音はこの家を目指している…。

思わず堯湖と「儁湖」が家の戸に目をやると、その戸が勢いよく開き先程軽やかに駆けて行った「莠嶌」が青ざめた顔をして飛び込んできた。


「……どうしよう…。」


「莠嶌」はそれだけ言うとそのまま草鞋も脱がずに堯湖の胸に飛び込みその体をきつく抱きしめた。



     七




「……姉さま…?」

「どうしたのです?「莠嶌(ゆしま)」。」


「莠嶌」の放つ緊迫した空気に堯湖(たかこ)と「儁湖(しゅんこ)」の顔も強張る。


「……殺されて…死んじゃった……。」

堯湖の胸に顔を埋めながら呻くように「莠嶌」が言った。とても聞き取りづらかったけれどその言葉は堯湖の心に深く響いた。


「………え…。」

「誰が……誰に殺されたというのです?」

「「丹霄子(たんしょうじ)」……「丹霄子」が皆殺してた。」

そこで「莠嶌」が堯湖の胸から顔を上げた。その瞳は深く涙を溜めていた。けれど「莠嶌」はそれが流れるのを必死に堪えていた。

今はまだ涙を、感情を溢れさせてはいけない、冷静にならなければいけないと必死に堪えていた。

「皆って……具体的には誰をです?」

「儁湖」が青ざめながらも毅然として「莠嶌」に尋ねる。

「広場にいた男子はほとんど………今も殺してる……。どんどん男子だけを殺していってるの……。女の人は皆逃げまどってる。

でも皆殺すって叫んでたから……男子が終わったら女子も……。私達、ここから出られないし…っ……。」

そこで「莠嶌」は口元を手で押さえ声を出さずに涙をこぼした。

そんな「莠嶌」を堯湖がしっかりと抱きしめる。


「そんな……「丹霄子」が……あの子は血の事を知らないはず…。

 いいえ、それ以前に「丹霄子」の腕でそんな事が出来るはずが……。」


「……姉さまだ……。」


堯湖はぽつりと呟いていた。

「え……?」

「……姉さま?」

堯湖の言葉に「莠嶌」は顔を上げ「儁湖」も堯湖の顔をまじまじと見つめた。

「……そうです……そんな事が出来るのは姉さましかいない……。

 そうだ…姉さまがやったんだ…。」

堯湖は熱に浮かされたような顔をして宙を見つめたまま呟いた。

「姉さま?姉さまって……。無理よ、ここの集落の女子で男子にかなう子なんている訳ないじゃない……男子は皆刀を持ってるのよ…………ッ!」

「……ッ……堯湖…まさか…。」


「………お夕さん?」


「莠嶌」と「儁湖」の声が重なった。そして重なる声が二人にその事を確信させた。


「………どういう事なの?堯湖…貴方何を知っているの?」

「儁湖」の声がかすかに震えた。堯湖は母の顔にゆっくりと顔を向ける。

「お夕さんは……本当は僕達一族の一人なんです。

本当の名前は「(べに)」。女子であるにもかかわらず己の刀を持って生まれた、父様「霾翳猩紅(ばいえいしょうこう)」の皇女(むすめ)なんです。」

「娘ですって……?」

「「べに」ってまさか……父様の一字?」

「そうです。父様に認められた子の一人なんです。」

「っ……嘘でしょ……。」

「皇女様が…どうして……。」

「儁湖」ははっとして堯湖を見つめた。

「堯湖…まさか貴方に父様の事を教えたのは……。」

「姉さまです。」

「なんて事…………。」

「儁湖」は完全に絶句して堯湖を見つめたまま固まった。


自分の腕の中で涙を流して打ち震える「莠嶌」、いつも気丈に自分を諭してくれるはずの母のそれまで見た事のない途方に暮れた顔…。


―――こんな顔二人にさせちゃいけない……させたくないっ……。


堯湖は一度また「莠嶌」をきつく抱きしめると己の体から「莠嶌」の体を引き離して立ち上がった。そしてそのまま草鞋も履かずに土間に降り家の戸口へと向かって歩み始めた。


「……母様…「莠嶌」姉さまを頼みます。」

堯湖は戸口に手を掛けぴたりと止まると一言言った。

「っ……いけませんっ!堯湖!行っては駄目ッ…!」

「儁湖」は堯湖がこれからどこへ何をしに行くのか察して堯湖に向かって声を上げた。そして堯湖と同じく裸足のまま土間に降り立ち堯湖の腕をつかんだ。


「……姉さまの目的はおそらく僕です。

そして姉さまが僕にさせたい事は…たぶん僕や母様が今考えている事で間違いないはずです。

その後の事やどうしてそうさせたいのか…そういった事は全くわかりませんけれど……。」

堯湖は戸口に掛けた手を離しその手をそのまま自分の腕を掴む母の手に重ねた。

「……駄目…駄目よ…堯湖…殺されてしまうッ…。」

母の声が耳を打つ。堯湖は母が泣いているのを背中で感じた。

「このままでは必ず皆殺されてしまいます。

 けれど……僕が死ねばそこで全てが終わるかもしれません…。」

「………っそんな事言わないでッ……。」

「今まで……僕を育てて下さって有難うございました……。」

「やめなさいッ!堯湖!」

「堯湖ッ!」


「儁湖」と「莠嶌」が叫んだのを合図にするように堯湖はそこで母の手を振り払うと勢いよく戸を開けて広場へ向けて駆けて行った。




        八



―――――どうして……これだけ多くの人間が刺されて死んでいるのに――。


堯湖(たかこ)は皆の集まる広場に駆けつけた。そこには夕餉がこぼれ散乱した器と一緒に沢山の男子の亡骸が転がっていた。

けれど……。


―――――血の匂いが殆どしない……。


堯湖は近くの亡骸に手を伸ばしその体の傷口に触れた。

心の臓を一突き。けれどその突き傷のみに朱を見せるだけで血は一切流れていない。

堯湖は辺りの亡骸に目を転じ息を飲んだ。

一突き、一突き、一突き。目の届く限り全ての亡骸が体のどこかを一突きにされていた。

その傍らに必ず黒ずんだ刀身を転がして…。

そう……主が死んだように刀も死んでいた。

夜の闇に掲げられた広場のかがり火に照らされて、亡骸の影はゆらゆらと揺れ動いたが、そこに生きて動く人影は何処にも見当たらない。


「姉さまっ!姉さまっ!」

堯湖は声を張り上げて「紅」を呼んだ。けれどそこに「紅」の姿は見えなかった。

その気配を辿ろうとしても集落の中の何処にもその気配を感じ取る事が出来ない。

そこには「紅」どころかその他の気配も―――――


体が泡を吹くように総毛立った。その気を察した堯湖は瞬時に体をひねりそれを避けようとした。しかしそれを完全に避け切る事は出来なかった。

堯湖の右肩に焼けるような痛みが走る。と同時にその痛みは堯湖の中へ侵入し、内側からざらついた舌で舐めつくすような感覚を堯湖に与えた。

ほんの一瞬だったがその感覚は堯湖の腕の力を完全に抜き取った。


――――なッ……。


堯湖は戸惑いながらも腕の力を奪ったそれの間合いから逃れる為に後ろへ飛んだ。


「……さっきはよくもやってくれたじゃねぇかぁ。雑魚のくせによぉ……。」


「「丹霄子(たんしょうじ)」……。」


堯湖は傷ついた右肩を押えながら目の前に立つ「丹霄子」を見てぞっとした。


充血した瞳の瞳孔は常に小刻みに震え、だらだらと滝のように汗を流し肩で息する姿はとても尋常なものではなかった。そしてその手に握られた刀の柄からは血がごぽごぽと溢れ刀身を廻る血にすでに一定の流れはなく大小様々の渦を描いていた。


「「丹霄子」だとぉ…?」


「丹霄子」が口の端から泡を飛ばしながら呟き堯湖の方へのそりと一歩踏み出した。

堯湖は右肩を庇いながらそっと右手で己の刀の柄を握りまた一歩後ろへと引いた。


「手前ェが俺を呼び捨てにすんじゃねェヨぉッッ……!」


堯湖が「丹霄子」の絶叫を耳にした直後、堯湖の体は後方へと吹っ飛んでいた。

堯湖の体は広場の中央にあるかがり火の傍まで飛び、兄弟の亡骸の上にどさりと落ちた。

「………っ。」

自分の身に何が起きたのか堯湖はすぐに理解出来なかった。

気付くと自分の両手は己の刀の柄と鞘をきつく握りしめ白々とした刀身を半ば覗かせた状態でいた。両の手が焼けつくように痛い。


「……はぁ~~?雑魚のくせに止めやがったァ……。」


少し離れた所で「丹霄子」が呟いている。

その呟きで堯湖は自分が我知らずに「丹霄子」の刃を受け、その力でそこまで吹っ飛ばされたのだという今の自分の状況を把握する事が出来た。

けれど――――


――――……刀で受けようと…僕は全く意識していなかった……。


堯湖は己の無意識の動きに驚いていた。思えば「紅」との始めての出会いでその刀を受けた時も、我知らず振り下ろした刀の軌道をずらし「紅」の刀を受けやすくしていた。

結果的にその行動に自分は救われた。けれどそれも自分の意思でした事ではなかった。


―――一体…・・・・・。


「そうそう…びっくりしただろ?

 それ……全部この俺の刀でやったんだぜ……すげぇだろ。」

「………え。」


堯湖は自分の視線がある顔を捉えいていた事にそこで気づいた。

「丹霄子」は堯湖がその顔に見入っていると思ったらしい。

堯湖はその顔を認めた。次の瞬間自分の中の不安など一気にどこかへ消し飛んでいた。何故ならその顔は―――


「「夏砦(かさい」兄様……。」


堯湖の眼の先には集落で一番の実力者であった「夏砦」の死顔が横たわっていた。

目を見開いたままのその顔には恐怖や苦痛の色は見受けられない。そこには何の感情も浮かんでいない。

信じられない事だが何の自覚もないうちに殺されてしまった人の死顔だった…。


「……「丹霄子」が…「夏砦」兄様を殺したのですか……?」


「ん?…あぁ、まぁな。」


「丹霄子」がにたりと笑った。さも自分が称えられるべき偉業を成し遂げたとでも言うように……自慢げに、自信ありげに……。

「ッ!」

体の中を血が巡り頭の中が熱くなるのを堯湖は感じた。

とっさに体を動かそうとしたが柔らかい足場に体を取られ思わず片手をその場で付いていた。指先がまだ生暖かい起伏に触れる。見るとそれは兄弟の鼻先だった。

堯湖は自分が幾人かの兄弟の亡骸の上に己の足場を気づいている事にそこで初めて気が付いた。

「ッ……!」

突如込み上げてきた不快感に耐えきれず、堯湖は亡骸から降りるとその場で嘔吐していた。

一度噴出したそれは止まらない。

自分の体の中の全ての負の感情を取り除こうとするかのように、悲惨な現実を完全に拒絶しようとするかの様に堯湖はその場で何度も何度も嘔吐し続けた。

息もつけず、眼尻に涙を滲ませながら堯湖はただただ嘔吐する。

そんな堯湖の様子を満足そうに眺めながら「丹霄子」はゆっくりと堯湖に向かって歩き始めた。堯湖を目指して真っすぐに…己の兄弟の亡骸を平然と踏みつけながら近づいてきた。そして「夏砦」の亡骸の上に腰を下ろし堯湖の蹲る様をねっとりとした目付きで一しきり愛でた。


「……よく見せてみろよ。」

「丹霄子」ゆっくりと腰を上げると堯湖の髪をつかみ堯湖の顔を己に見えるよう無理矢理上げさせた。

「ひひ……俺好みの良い面構えになったじゃねぇかァ…。」

「丹霄子」は堯湖の瞳いっぱいに己の顔が映る位顔を近づけにたりと笑った。

「………。」

堯湖は虚ろな瞳で見つめ返した。その瞳から涙が流れる。掴まれた髪の痛みを感じる事も出来なかった。感情が、感覚が全てが麻痺してしまっていた。

ただ疲れて……荒い息を繰り返しながら「丹霄子」のなすがままになっていた。


「お前は俺と同じだからなァ……お前だけは助けてやってもいいとも思ったんだぜ……?

 だけどよォ―――」


――――俺と……同じ……。


堯湖の心にその音が落ちた。その響きは堯湖の心の中を波紋のように広がる。

髪を引かれる頭が痛い。次第に意識がはっきりとしてきた。


「あの「お夕」って女がよぉ…刀の力で結界を裂くかここの男を全員殺して男が一人になるかしないと出れないって言うんだよなァ…。これはそういう結界なんだって……。」


――――「お夕」……。


堯湖の瞳に光が戻る。堯湖は「丹霄子」の顔を意志を持って見つめ返した。


「……で、今試してきたんだよ。この刀で結界が切れるかどうか……。」

そう言って「丹霄子」は己の刀をやや持ち上げ見つめた

「丹霄子」の刀は絶えず血を吐き出し続けている。身に余る命の多さに耐えかねそれを拒むかのように……。


「これが駄目だったんだよなぁ……全く。そもそもここにいる奴等が弱すぎるんだよ……。

 だから悪いな…「白子(しらす)」。お前でこの集落の男は最後。斬らせてもらうぜ…?」

「……う。」

「あ…?」

「違う…皆が弱いんじゃない…。お前が…お前が弱いからだ!」

堯湖は「丹霄子」を睨みつけて言い切った。

「……っの!」

「丹霄子」は眼を見開くと掴んでいた堯湖の頭をそのまま地面に投げつけた。

「………ゥ。」

「弱い?弱いだと?

 この馬鹿がッ……ほらっよく見ろッ!

 皆死んでるだろがッ……俺がやったんだぞッ!

この俺がッ……皆ッ…皆だッ!お前にこれが出来るかよッ!

あァ?出来るのかよォッ?」

「……こんな事…したくもないっ!」

「…………なッ!」

「それに……「丹霄子」一人にこんな事が出来るはずがないッ!」

「……んだとォッ!」

「丹霄子」は怒りで体を小刻みに震わせながら地面に崩れ落ちている堯湖を睨んだ。その手に握られた刀からはその震えに合わせてさらに血を溢れさせている。

「己一人の力で成し得たというのなら、どうして刀が血を吐いているッ?

どうしてそんなに刀が苦しんでいるッ?答えてみろッ!」

堯湖は顔を上げて「丹霄子」に向かってどなりつけた。

「丹霄子」は核心を突かれた為か、堯湖の剣幕に驚いた為か一瞬怯んだ。

「…始めにその刀で兄弟を斬ったのは姉さまだったのだろう?

 今姉さまは何処にいる?答えろ「丹霄子」。」

堯湖は額から血が流れるのもそのままに起き上がりながら「丹霄子」に尋ねた。

「丹霄子」はそこで自分が堯湖に怯んだ事実に気づき、それまでより一層怒りで体をぶるぶると震わせ始めた。真っ赤だった顔色は紫めいてきて唇は何かを呟くように動いている。

「答えろ…「丹霄子」。姉さまは―――」

「……誰だよ…姉さまって…。」

「……お夕さんの事だ…今お夕さんは―――ッ?」


――――熱い……?


堯湖は自分の腹に焼けつくような感覚を感じた。その直後激痛と内側を(えぐ)り取られるような不快感に襲われそれは続き、みるみる体の力が抜けていく。

堯湖の腹に「丹霄子」の刀が突き刺さっていた。



「ッ……関係ねぇッ!関係ねぇッ!関係ねぇッ!関係ねえッ!

 俺がやったんだ!全部この俺がやったんだッ!

 出来もしねぇくせに馬鹿にしやがってッ…見てもねぇくせに馬鹿にしやがってっ…!

 俺をっ…俺を馬鹿にしやがってッ!」

「丹霄子」はぐりぐりと堯湖の腹に己の刀を押し込んでいった。

堯湖は両手でその刀身を掴みそれ以上の侵入を防ごうと耐えた。

刀身を握る手に刀が食い込む。肉が切れる。血がにじむ。

そこからまた何かが体の内側に入り込み何かが己の力を奪っていく。

刀身をよく見ると自分の腹と握り込む指の辺りから「丹霄子」の刀の柄を目指して赤い流れが出来ているのが見えた。


―――力を…吸っている……。


堯湖は次第に朦朧とする意識の中その流れを眼で追った。

刀を掴む指の力が抜けていく。両手が力無く刀から滑り落ちた。


「…殺すッ……ッ……てめェみたいな生意気な奴は殺すッ……!

 それで俺はここから出て行く……ッ……ハハッ……ハハハハッ!」

近くにいるのに遠くで「丹霄子」の笑い声が聞こえる。それ以上に自分の心臓の音が体中に響いて聞こえる。痛みとなって響き渡る。まるで命の警鐘を鳴らすように……。


―――僕も……死んでしまう……。


堯湖は薄れゆく意識の中でそう思った。悔しかった。例え一生外に出れないとしてももっと生きたかった。もっと自分に出来る事を、したい事を出来るだけしたかった。

でも―――


堯湖はそのまま後ろへゆっくりと仰向けに倒れた。その上に嬉々として「丹霄子」が馬乗りになり満身の力を込めて堯湖の腹に己の刀を突き立てる。


――――僕がここで死ねば……全てが終わる……。


堯湖は浅く息を吐き目を閉じた。まるで安らかな眠りに就こうとするかのように……。

そんな堯湖の穏やかな表情に気づいた「丹霄子」がさらに堯湖の体の奥深くへと刀を差し込んだ。刀はすでに堯湖を貫通している。堯湖は痛みに顔をゆがめたが叫び声一つ上げずそれに耐えた。

そしてその顔はやはりどことなく穏やかなままだった。


「……ッ気に食わねぇなァッ……。

 もっと絶望しろよっ……もっと苦しめよッ!もっと怯えろヨッ!

 いてェだろ?「白子」!

なのになんでそんな落ち着いた顔してんだよっ……!

 糞がッ……詰まんねぇだろっ……このッ!」

「丹霄子」はぐりぐりと刀を動かした。

それでも堯湖はきつく目と口を閉じそれに耐えている。

「っ……てめェ……自分だけ死んで楽になるつもりだろ……?

 それで終わるとか考えてるんだろ…?

 はッ……そうだな、確かにてめェはそれで終わるな……。

 だがそしたら俺は女共を殺しにかかる。

男殺しゃもうここから出られるとか関係ねぇんだよ……全員皆殺しだ……。

今まで散々俺を馬鹿にしてきたんだからなァ……。

 特にてめェのすかしたあの母親、心の臓を一突きなんて優しい殺し方はしねぇ…。

 じっくりいたぶって喉が枯れて声も出せない位になるまで鳴かせてから逝かしてやるよ――――」


―――……………・・


もう一人の自分がしたとか…そういう事を僕はもう言うつもりはない。

例え自分の中のわからない自分だろうと、それは確かに僕の中のものの事なのだから……。

それにその時の僕は確かにその部分を感じていたし、その部分の自分がする事を許していたのだから……。


―――心臓の音が……よく聞こえる。


「……あ?」

「丹霄子」は一瞬何が起きたかわからずに固まった。そしてそれに気づき堯湖に突き刺していた己の刀から手を離しそれから逃れようとした。


「イッ……あっガぁ……ひッ…。」


「丹霄子」の胸には堯湖の刀が突き立てられていた。

その刃はあばら骨に阻まれ深く突き立てられてはいなかったが、純白だった堯湖の刀をみるみる朱へと染めていく。


「やめロォッ!いてぇッ……いでェよォ~~!」


「丹霄子」は先程堯湖がしていたように堯湖の刀を掴みそれを引き抜こうともがき、逃れようと後ずさりした。

自信に溢れ不敵に笑みを浮かべていた表情はすでになく、痛みと己の死を恐怖したその顔は青じらみ絶望を浮かべていた。

堯湖は腹に「丹霄子」の刀を突き刺したまま起き上がり「丹霄子」の胸に己の刀を突き立てていった。


「やめッ……いッ…いてェよッ……やッやめろよォ~~ッ!」


「丹霄子」が絶叫した。そして兄弟の亡骸に行き止まりそのまま仰向けに倒れた。

堯湖はその上に馬乗りになり両手に力を込めてその胸に刀を突き立てていった。

そう…先程「丹霄子」がそうしたように…。

けれど堯湖の表情は決して先程の「丹霄子」と同じものではなかった。

むしろ今の「丹霄子」と同じ表情を浮かべていた。

…殺める者の痛みとその死を恐怖する絶望に青ざめた顔を…。


「やダよォッ…死にだくねェよォ~~~~ッ!」


「丹霄子」の胸元から血は流れない。一切の血が堯湖の刀の中へと流れていった。



――――どくどくどくどくどく……。


刀を通して「丹霄子」の絶望と早鐘の様な心臓の音が伝わる。


「……・・あ……ゥ……。」


「丹霄子」の指が刀から離れた。浅く息を吐きながら何も見えないような遠い眼差しで虚空を見つめている。それはもう生きる事から離れた顔だった。


――――とく…とく…とく……。


次第に弱まる「丹霄子」の胸の音。それとは対照的に温かみを増していく自分の刀。

堯湖は涙していた。けれどその死から決して目を逸らさなかった。


――――僕は……死にたくないと叫ぶ者を手に掛けているんだ…。

    だから――――


堯湖は最後に己の満身の力を込めて「丹霄子」の胸に己の刀を突き立てた。

「丹霄子」のあばらが砕けずぶりと深く刀が刺さる。

刀は完全に「丹霄子」の体を貫いていた。


―――僕は…決して目を逸らしてはいけない……。


「――――――・・。」


刀を流れる血の流れが止まった。そして堯湖の刀は深い命の色をともしていた。

温かく、炎のように揺れる紅。かがり火に照らされたそれはとても美しかった


「丹霄子」は絶命した。




            九



何処までも何処までも続く荒野…。

枯れ木が思い出したように傾いでいる。


―――いっそ何も無い方が侘しくないというものを…。


「紅」は妾集落の入口の門に寄りかかりながらその殺風景な風景を眺めていた。

背後に人の気配を感じる。「紅」はゆっくりと後ろを振り返りその者を捉えた。


「……さすが剣帝殺しだな。

 「それ」すら奪うか……。」


「紅」は冷めた目で門のかがり火にうっすらと照らされて堯湖(たかこ)を見つめながら呟いた。

堯湖の両手には刀が握られていた。

一つは「丹霄子(たんしょうじ)」の命を吸い紅く染まった己の刀を…。

そして今一つは集落の兄弟の命を吸いつくし堯湖の血を吸った―――


今だ紅蓮に息づく「丹霄子」の刀を……。


「奪いたくて…奪った訳ではありません。」

堯湖は疲れを見せながらも強い眼差しで「紅」を見つめて言った。





―――「丹霄子」は絶命した。


堯湖は刀の柄を握りしめその手に己の額を当てながら声を限りに泣いた。

広場には堯湖とかがり火以外に音を発するものはない。

ただただ堯湖の悲痛な声と時折はぜるかがり火の火の粉の音だけが響き渡った。


堯湖がそれに気づいたのはひとしきり泣いた後だった。

目を開けると自分の腹に「丹霄子」の刀が貫通している。

けれど先程の苦痛が嘘のようにそこに全く痛みを感じない。まるで―――


――――まるで…僕の体の一部の様に……。


堯湖は「丹霄子」に突き刺した刀から手を離し己の腹に刺さる刀の柄に触れた。


――――とくとくとくとく…


――――僕の命に合わせて……生きている。


堯湖は己に刺さる刀の柄を両手で握ると一息にそれを引き抜いた。

引き抜く時そこに痛みが走り血が溢れた。まるで体の一部が引き離されるのを拒むかのように…。そしてそこには先程のような体を廻る不快感はなかった。

目の前の「丹霄子」の亡骸に刺さる自分の刀と同様に赤い命を揺らしている。

「丹霄子」の刀は完全に堯湖のものとなっていた。



「何故…僕にこんな事をさせたんですか?

 答えて下さい…姉さま。」

「紅」は寄りかかっていた門から体を離し堯湖の方を向いてまっすぐに立った。

集落の門の内と外。数歩先にいる「紅」が内にいる堯湖にとっては全くの別世界に立っているように感じられた。


「お前が全てだからだよ…堯湖。

 父様が死んだ事。「(ばい)」が野放しになった事。「(しょう)」にい様が行方をくらました事。そして私が旅人にならなければならなかった事。

 その全ての原因がお前にあったからだよ…堯湖。」

「……姉さま。」

「何故原因のお前が生きている…。何故原因のお前が何も知らない。

 何故原因のお前が「霾」を何とかしない…。それが許せなかった。」

「………僕には何も…出来ません。そんな力なんて…ありません。僕は―――」


―――父様の…「恥」……。


「何も出来ないだと?出来るはずなんだよッ…お前ならッ!

 父様の刀を真っ二つにした刀の持ち主のお前ならなッ…!」


「え………。」


――――父様の刀を真っ二つ…?


堯湖は自分を睨みつける「紅」を見つめた。


「そうだ…。あの日鍛錬場で父様は「猩」にい様と手合わせをした。

 私は鍛錬場に向かう「猩」にい様に会っている。

「猩」にい様は私に言った。」


――――見てごらん?「紅」。これは僕達の兄弟の刀なんだ…。

    綺麗だよね…純白なんだ。母親の腹を裂かずに生まれてきたからなんだって…。


――――そう…これから鍛錬場へね…。

    父様がこの刀と手合わせしたいそうなんだ…。

    この持主の子はまだとても小さくて相手を出来そうにないから。

うん、私が相手役を…はは…もちろん嫌だよ…父様はすぐ本気になるから…。

    

――――どうだろうね…。

    確かに優しい刀だけれどとても芯のある刀のようだから…。


――――わかったわかった…。

    必ず行くよ…じゃあまた後でね。


「…しばらくして鍛錬場に入った者が父様の亡骸を見つけた。

 私は「霾」が来る前にそこに駆けつけていた。

 そこに「猩」にい様の姿はなかった。

 そこには父様だけが倒れていた。

 心の臓を一突き。そしてその傍らにはお前の刀と―――」


「―――父様の真っ二つに折れて黒ずんだ刀が転がっていた。」


「……それは。そんな…父様が僕の刀を使っていたのでは…。」


「それは「霾」が流した嘘の事実だッ!

 考えてもみろ!どうやったら「西の指」の剣帝といわれる父様を一突きで殺せる?

 例えお前の刀だったとしても動きまで鈍るものではないだろう?

 父様は己の刀をお前の刀に折られたんだ。

刀は己の命の一部。主が死ねば刀が死ぬように刀が死ねば主も死ぬ。

そんなゆっくりと死に向かう父様の胸に「猩」にい様は――。」

そこで「紅」は口を閉ざし下を向いた。その両の手がきつく握られている事に堯湖は気づいた。

「しばらくして「霾」が来た。「霾」は父様の亡骸を眼にすると絶叫しその場にいた者達を全て殺した。そこに生きているのは「霾」と私だけになった。

しばらく「猩」にい様に対する呪詛の様な罵詈雑言を吐き散らしていた。そして「霾」は私に気づき言った…。


―――「紅」ィ…俺の子を産めよ…。


刀を持つ男と女、同じ父を持つ兄と妹、より強く色濃い血を交えれば父様を超える鬼子

 を生す事が、引いては「猩」にい様を倒す事が出来るだろうと…。冗談じゃない、誰があんな気違いの餓鬼なんか身籠るか…。誰が「猩」にい様に仇なす事に力を貸すか…。

その当時まだ私の力は「霾」と大差なかった…。だから私はあいつと一戦交えて御殿を何とか後にする事が出来た。それ以来ずっと「霾」の追手から逃げている。

そしていつの間にか私は旅人となっていた。」


皇女でありながら常に各地を転々とし、真実を知りながら手を打つ事の出来なかった「紅」。

その果てに身につけた処世術と知識。そして自由という名の孤独。

そんな「紅」の絶望に自分の理想を求め憧れていた呑気な自分を堯湖は恥じた。


俯いていた「紅」が顔を上げ真っ直ぐな鋭い視線で堯湖を射抜いた。


「お前に関わりのない事じゃないッ!お前の「命」が生した因果だッ!

 多くの一族が血染めになりながらお前だけ血に染まらずに生きるなど私は許さないッ!

責任を取れッ!堯湖!」


―――そう……その目的の為に貴女はここへ来たのですね…。

   でも……僕は………。


「……つまり姉さまは僕に「霾」というにい様の命を断てと仰りたいのですね…?」

「そうだ……。「霾」を殺せ…。

それでお前が死んだとしてもだ。その行動を起こせ…。まずお前がしなければならなかった事だ。

兄弟が兄弟を殺し、犯し、虐げる…。そんな一族の因果を断ち切る責任がお前にはある

のだからな。」

「一族の因果を断ち切る責任…。」

「そうだ…。」

堯湖は己の両の手の刀を見つめた。そのどちらも兄弟の血を吸った忌むべきものだった。あの恐怖と絶望が、手の平を打つ次第に弱まる命の鼓動の感覚が蘇る。


――――責任はあります。…けれど僕は……。


堯湖は「紅」の顔に瞳を戻した。そこに決意の光を宿らせて……。


「それでも僕は「霾」というにい様を殺しません…。」


「……臆したのか?ならば……。」

「紅」は己の刀に手を掛けた。そこにはすでに鞘抜けを防ぐ縄紐は結ばれていない。

滑らかに刀は鞘を走り抜けその深く赤い色を露わにした。

「ここで私に斬られて死ね…。

そしてその刀を私によこせ。

父様の「命」を絶った刀だ…。少なくともそれにも充分力はある。それで私は「霾」を討ちに行く…。」

「紅」はすっと刀を構えて目を細めた。

恐らく始めに草原で会った時より激しい殺気を放っているに違いない。

けれど門を隔てた位置に立つ堯湖にその気を感じる事は出来なかった。

堯湖は数歩先で構える「紅」を目にしながら、構える事無く刀を握った両腕を自然に垂らしたままで言った。


「兄弟が兄弟を殺める因果を断ち切る方法として僕はその因果を使いたくありません!

僕は二度と一族の者を手に掛けたりしたくありませんっ!

僕は誰の命も奪わない方法で一族を救いますっ!その方法を探してみせますっ!」

「紅」は堯湖を見つめて薄く笑った。

「……誰の命も奪わない方法を探すだと…?愚かな…。今この時もどこかで一族の者が命を落としているというのに――。」

目の前にいた「紅」の姿が消えた。次の瞬間、背後に「丹霄子」とは比べ物にならない程重く荒々しい殺気が突如として生じた。

背後を振り返ると己に背を向けてすらりと綺麗に立つ「紅」の姿があった。

「姉さま……?」

「……私は待った。…私は探した。これまで随分と時間をかけた。

 その術を知り目の前にしながら私はもう待つ事など出来ない…。」

かがり火の炎がはぜた。

「私によこせッ!その刀ッ!」

次の瞬間「紅」が左の脇腹に柄を構え堯湖に向かって突進してきた。

それは明らかに突きを狙った構えだった。

心の臓を一突きで捕え確実に堯湖の命を奪おうという動きだった。

初めて堯湖と出会った時に見せた動きの何十倍もの速さの動きだという事が堯湖にはわかってしまった。

そう…「わかってしまった」のだ。


両手に握る刀の先端にまで己の感覚が行き渡るのを堯湖は感じた。

それまでわからなかった自分の中の部分、それが手に取るように感じとれた。

実際それはこれまでずっと堯湖の手の中に握られていた。それは自分の刀から発せられたものだったのだ。

自分の鼓動に合わせて刀も息づく…。それは今まで純白だった堯湖の刀にはない感覚だった。刀の力が己を生かし己の力が刀を生かす。

堯湖は刀が本当の意味で生まれた事をその時悟った。


あまりにあっけなかった。

初めて「紅」に会った時無意識に読んでいた刀の動きが刀を通して堯湖にもはっきりとわかるようになっていた。


…………遅い。


堯湖は「紅」の突きをゆっくりとかわすとその刀身に己の刀、もとは「丹霄子」のものだった刀を振り下ろした。


本気を出したら折れてしまう……。


そんな予感がした。堯湖は加減しその刀が「紅」の手から離れる程度の衝撃をそこに与えた。「紅」の手から刀が離れる。堯湖はそのままそれを刀で己の背後にほおった。

少し離れた所でかしゃんと刀が落ちる音がした。

「紅」は何が起きたのかもわからず突進した勢いそのままに激しく転んだ。

崩れ落ちた体勢のままこちらを振り返ろうとする「紅」の鼻先に堯湖は己の刀を突き付けた。

「紅」は肩で息をしながらそれを見つめ堯湖を見上げた。

まるで、化け物でも見るかのように……。


―――きっと僕はこれから…刀を振るう度に人からこうした目で見られるのでしょう…。


堯湖は「紅」の鼻先から刀を引き「紅」の傍らを通り過ぎた。

そしてそのまままっすぐに集落の門を目指した。


「待て堯湖!何処へ行くッ?」

「紅」は崩れ落ち膝をついて座ったまま堯湖に呼びかけた。

「…御殿に行きます。

 そして「霾」にい様に会ってきます。」

「……それでは…。」

「いいえ……僕はもう一族の誰の命を奪うつもりはありません。

 お互いの命を奪わず、一族の誰もが生きられる方法を見つけてきます。」

「……そんな事……無理だ…。」

「紅」は悔しげに唇をかみしめて呻くように呟いた。

「どうして…どうして殺してくれない…。

 今のお前ならそれが簡単に出来る。それなのにどうして……どうして私達を救ってくれない…。」

「……救います、必ず。……母様達をよろしくお願いします。」

堯湖はそれだけ言うと振り返る事無く集落の門を目指した。

荒野の地平線の空は青白み前方より朝日の香りが立ち上る。

すでに夜明けが迫っていた。

荒野に思い出したように傾ぐ枯れ木が、その光を受けてその根元から細く長い影を伸ばしそれまで味気なかった荒野に文様を広げる。

堯湖は眼を細めてそれを見つめ集落の門の前で息を吸った。


―――綺麗だ…。

   


堯湖は門に向ってまた一歩前へと踏み出した。そこに結界の薄い膜を感じたが今の堯湖を阻むものではなかった。



堯湖は門の外へと一歩足を踏み出した。



 

    

言い訳タラタラ作るにあたって終心表明


とりあえず誤字脱字つじつま合わず必至のとんでも作品間違いなしであると自信を持って言える事でしょう!相変わらず最悪です!はい!


さてさて初心表明ならぬ終心表明と相成った訳ですがぶっちゃけ今回の話、途中から……。


――――疲れた……非常に疲れた。


以前宣言したと思いますが自分、小説なるもの初めての人間ですのでこんな長ったらしい文章を書くのは卒論以来でして…。

いやぁ……堯湖というメガネ人間のメガネのフレームがいかに形作られたか書くのは楽しいって言ったら楽しかったんですがねぇ……いかんせん長くて疲れました。

なので色々細々としたエピソードは全て省き、ピンポイントだけしか書きませんでした。てか書けませんでした。(疲れて)

そうですねぇ……なんかこう「紅」との触れ合いエピソードを散りばめるべきだったと思っております。

まぁ……いつか気が向いたら話の間に追加して調整しようかなぁとは思ってますが、予定は未定です。


ていうかこの話…普通に皆さんお気づきでしょうが――――


―――終わってない…ですよね。


区切り的にここがベストと判断した為ですがそれじゃ今の堯湖とつながらんとお思いの方がほとんどでしょう。

そんな訳で要約してここに堯湖が「極楽貪主」の護兵になったいきさつを書いておきたいと思います。



〈その後の要約〉

集落を出た堯湖は御殿に行きました。

本殿にいる「霾」の所までそこを守る護兵を峰打ちだか何だかして突破して辿りつきました。

「霾」は馬鹿ですが相手の力量が読めない人間じゃあありません。

すぐに堯湖が恐ろしく強い事に気づきました。(そして命乞い)

堯湖は「霾」を殺すつもりはなく、「霾」に兄弟殺しや虐げをやめるよう言いました。

でもそれまで集落に閉じ込めてた自分の寝首をいつかどこかで掻くに違いないと「霾」は信じて疑いませんでした。

そこで「霾」は己の意思で差出しさへすればどんな屈強な者の魂でも永遠に縛るという「西の指」の「極楽貪主」の所に奉公に出るならその申し出を飲んでもいいと言いました。(何だか色々とやりとりがあった模様。友人とかじゃなく商売仲間って感じでですかね。)

堯湖は本や「儁湖」の話で「極楽貪主」がどんな人物か知っていました。信用はならないけれど「霾」と共謀して自分の命をだまし取る、そんな事はせずむしろその複雑な命のやりとりの関係を長く愛でて楽しむ人物だと考えました。そこで堯湖はそれでOKしました。

早速「霾」は「貪主」に無償で一族最強の男を貸し出す代わりにもしもの時は「貪主」にその魂をくびるよう依頼。「貪主」はそれを快く了承。

そして堯湖は「貪主」の護兵となり今に至るという訳です。

(宴休みやたまにお暇もらって集落に帰ったりしています。)



…とまぁ、堯湖のいきさつはこんな所です。

さてさて今回のこの話の登場人物設定のようなものを載せて終わりにしたいと思います。

ではでは、また…。



登場人物設定



堯湖たかこ」……今回のこの裏置きの主人公。この時の見た目年齢は12から13歳って所でしょうかね。さて彼の得物が赤い刀の二刀流という事ですが、はっきり言ってそれ、堯湖の腹に刀が刺さった時点で決めました。

堯湖の得物どうしようかの経過を語りますと「普通の刀」→「一族の血を吸って強くなる刀」→「一本の白い刀案」→「赤くなっちゃった一本の白い刀案」→「赤くなっちゃった白い刀と「丹霄子」の死んだ黒い刀案」→「最終案」となった訳です。だけどこれ、無駄に堯湖を強くする結果になっちゃって本当良かったのかなぁとちょっと考える今日この頃です。



べに」…………堯湖の義母姉。見た目年齢は22,3歳位でしょうか…。

はっきり言ってあの初登場のシーンを書くまでその存在すら考えていなかった人物です。じゃあこの話どう作るつもりだったんだと言われたら本当になんとお答えしていいものやらって感じですねぇ…。(はっきりいって自分、いつもラストしか考えていません。

今回のこの話で始めに考えていた事は堯湖が主人公で、集落から出て行く、これだけでした。あとは書きながら勝手にだらだらです。)

堯湖を集落から出すには契機が必要…じゃあ敵だ!(短絡メガネ設定)とまず考えました。

結構男にしようか女にしようか悩みましたが、集落の奴等がやけに男女区別にうるさかったので強い女を出そうと思いました。

で、結果が「紅」です。

そして「紅」という名前の姉が生まれた事によりあと三人強い兄弟が必要だと考え、「ばい」「かげ」「しょう」が生まれました。(この時点で「霾翳猩紅」死亡案が浮上)

あとはこの四人をからめて何とか堯湖を外に出せないものかと模索。で、結果がこのお話です。つまり「かげ」はあぶれです。名前も存在感無いし御殿の奥でうじうじさせとけばいいやと……つまりやっぱり適当です。

さて、集落での偽名が何故に「お夕」かというと夕方集落入りしたからです。(適当ここに極まれりですね)


儁湖しゅんこ」…堯湖の実母。見た目年齢30歳前後。名前の由来はとりあえず堯湖との関連付け、ただそれのみです。人柄も堯湖のメガネを作り上げるに足る教育ママ(転じて高い知性の持ち主)と考えてこうなっていきました。

書き終えて考えたのですが堯湖の強さが尋常なものではなくなってしまったのでこの母親の血筋も実は高名な誰それの御落胤的な設定にしていこうかなと今更考えている所です。


丹霄子たんしょうじ」…堯湖の力を開花させる為のかませ犬としか言いようがありません。(酷い…。)「紅」は堯湖と戦うけれど殺すのはちょっと、じゃあ誰が堯湖の力を引き出す為に死ぬかとなった時にぽっと出で出来た悲しい人物です。あまりにかわいそ過ぎる役なので出来るだけ死んでもいい(?)ような性格にしました。

ちなみに名前は「丹霄子」(赤く染まった空の子、のちの「霾翳猩紅」設定を見ていただければわかりますが彼との関連付けです。)という意味です。可哀想なので名前だけはちゃんとした強そうなのを付けてあげようと思いこんなのになりました。

でも何だか文字だけ見ると何かの丸薬みたいに見えるのは自分だけでしょうか…。



霾翳猩紅ばいえいしょうこう」…「西の腕」の剣帝と名高き堯湖の実父。見た目…全然思いつきませんでした。

自分は絵を描くのが好きなので自分的登場人物理想像を色々描いているのですがこの人についてはアメーバ(転じて形すらない)にしかなりませんでした。

無骨、優男、、幼年、青年、中年、壮年、老年、温和、変態いきなりなどと色々考えていたのですがどれで行っても色々行けそうだなァと……。

なのでとりあえず無しです!皆さん適当に妄想してください!(そんなもんです、自分の想像力なんて…。)

さてこの人の名前ですがとりあえずキーワードを決めて結構悩みました。

キーワードは「偉そう」「偉いので「肆号(しごう)」←4文字の難しそうな名前」「貪主みたいに語呂が良くてその人っぽい意味のある言葉」「血もしくは刀を連想するもの」……等々。

始めは堯湖が福音(自分のリアルに所縁ある名称)なのでそれ系でいこうかと思ったのですが「偉い人」だからなァと却下しました。

で、結果が「霾翳(巻き上げられた土砂が空を覆って暗い)猩紅(あざやかな真紅の色)」になりました。

「猩紅霾翳(赤い巻き上げた土が空を覆う)」の方が意味が綺麗に通るなとも思ったのですが「猩紅しょうこう」転じて「将校」(偉そう)と思ったのでこの並びにしました。(つまりこの人しょうもないダジャレ名前です。)


 とりあえず主要な所はこんな所でしょうか?

にしても本当に舞台裏書くと自分の作品ってなんて適当というかなんというか……。

後々この設定がどう影響していくか戦々恐々ですねぇ…。


2008年9月15日



というのが前回でした。

今回の感想……やはりつじつまが……文面も……(恥)

そうそう、これまだ残暑の時に書いたのですよねぇ…。

我が家はクーラーつけないので最悪室内で36度いくのでまさに地獄の冥獄でした。←パソコン熱でさらに加熱

まぁうだった頭で書いたものですので(ふぅン…)と流していただければこれ幸いです。(まぁうだってなくても拙文ですが。。。)

また宜しくお願いします。

ではではまた…。

                     2009年3月26日


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