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僕は見えない、でも動けるんだ

 サト君は8歳。

 リーちゃんも8歳。


 二人は共に障がいのある学校へ通っている。

 少ないクラスだけど、互いに喧嘩しながらも、仲良く学校で勉強している。


 そんなある日の事。

 サト君は夢の中でおかしな出来事を見た。


 それがきっかけで勇気を出したサト君。

 これは短い物語。

 だけど、心温まる物語。

 冬の空。眩い光に包まれて、黒色の空は一つ一つがお日様の光のように明るく

なるんだ。

 でもね。僕は目が見えない。明るいっていう色は分からない。


 そんな僕にも今だけは見える。

 あの明るくお日様のように光る満点の【星】が。


 なぜかは分からないけど、星を見上げるこの場所に、リーちゃんと二人きり。

 学校なのに屋根が無い。

 リーちゃんは僕のお友達。

 リーちゃんは僕といつも喧嘩をするけど、いつもリーちゃんが先に謝る。

 僕は目が見えない。リーちゃんは足が不自由。

 

「リーちゃん。今日、僕の目が見えるんだ。何でかな」

「それは、私が見てるから。私の目を通してサト君に見せてるの」

「そうなの? でもリーちゃんの足。動かないままだよ。どうして?」

「それはね。いつも私がサト君をからかうから。自分で歩けていいなって。

ずるいなって」

「じゃあ僕がリーちゃんを歩かせるから」

「それは、無理だよ。危ないよ」


 リーちゃんはそう言うと、悲しい顔をしていた。

 どうして僕だけ見えるようになって、リーちゃんは歩けないの? 

 そんなの。おかしいよ。


 僕はまよったけど、リーちゃんに手を伸ばして、リーちゃんを

背負おうとした。

 誰かを背負って歩いた事なんて一度も無かった。

 リーちゃんは僕より全然小さかった。

 リーちゃんの手は僕よりももっともっと小さかった。

 

 大丈夫。今の僕ならきっと出来る。


「リーちゃん。僕が連れて行くから」

「危ないよ。危ないよ」

「どうしよう。止めた方がいいの?」

「サト君ならきっと、出来るよ。私の目。そろそろ閉じちゃう。ごめんね」

「えっ?」


 ……そこではっきりと見えていたリーちゃんも、僕が見ていたお星さま

も、見えなくなってしまった。


 あれは何だったのかな。夢の中? 

 僕が、やりたかった事なの? 


 その日もいつものように学校へ行った。

 リーちゃんはいつも、車いすで学校に来てる。

 僕は白い杖をついて学校に来てる。

 帰りは危ないから、僕たち二人はお母さんたちが来るまで、教室で

待っているんだ。

 その日もそうだった。 


「リーちゃん」

「なぁに。今車いす、動かしているから待っててね」

「うん」


 でも直ぐに、バキっていう音が聞こえた。

 ドサっていう音が聞こえて。

 リーちゃんが痛そうにして泣いていた。


「リーちゃん。大丈夫? どうしたの」

「痛いよ。車いすが壊れて、車いす。どけれないよ。腕が、痛いよ」


 僕は昨日みた夢を思い出した。

 

 ――サト君ならきっと、出来るよ。


「リーちゃん。直ぐに気付けなくてごめんね。僕、助けるから!」


 白杖を地面に置いて。

 昨日見た光の感覚を思い出してた。

 リーちゃんがどれくらいの形だったのか。

 リーちゃんの車いすの形はどうったのか。

 ずっとずっと。触って覚えてた。

 光が無くても僕には見える。

 手の感覚が。指の感覚が。

 リーちゃんと車いすの全てを覚えていたんだ。


「サト君? 見えているの?」

「ううん。見えてないよ。でも、いつも一緒だったから。

僕にはわかってたんだ。それに昨日、勇気をもらったから」

「昨日? でもサト君。危ない。危ないよ」


 昨日、夢の中で言えなかった事。

 今、言おう。


「大丈夫。僕を信じて。リーちゃん」


 リーちゃんの位置を確かめて。

 車いすの状態を確かめた。

 車いすは左向きに倒れていたけど、机があったお陰で全部が

リーちゃんに乗っかっているわけじゃ無かった。

 誰もいない時、こうやって僕でも助けてあげられるんだ。


 服に引っかかっていた部分を外して、リーちゃんを助けられた。

 でもリーちゃんは自分じゃ立てない。

 両手でリーちゃんを抱えてあげて、僕のいすに座らせてあげた。


「大丈夫? 痛い所はない?」

「うん。有難うサト君。私ね。おどろいたの」

「僕もおどろいた。ケガが無くて良かった」

「ううん。ちがうの。おどろいたのはね。サト君が私に謝ったこと」

「そうだった? 僕、気付いてなかった」

「いつも、からかってごめんね」

「ううん。僕の方こそごめんね。もっと早く助け出せてあげれなくて」


 夢の中ではリーちゃんを、自由にしてあげられなかった。

 でも僕は今、リーちゃんを自由にしてあげる事が出来たんだ。


 これからは僕からもちゃんと謝ろう。

 だって、大変なのはお互い一緒だもの。

 そうすればきっと、僕たちはずっと仲良しでいられるはずだから。

 私は視覚障がい、一種一級を患っております。

 けれど、そういった学校で学んできたわけではありません。

 ですが、盲学校で三年だけ、国家資格を取るために勉強した事があります。

 

 そこでは、重複の子を含め、多くの体の不自由な幼稚園児から高校生まで

おりました。


 道すがら、大きく挨拶をする子。

 大きな声をあげて通っていく子。

 全盲、全ろうで英語を教える先生。


 その学校で、国家資格以上の勉強を、私は体験しました。

 そして、こうも思いました。

 どれだけ障がいがあろうとも、そこに差異は無いのだと。

 

 自分が今おかれている環境が、最も不幸なんて事はあり得ない。

 常に誰かが苦しんでる。その苦しみを少しでも和らげてあげる事が出来るのは、精一杯の

優しい気持ち。

 それを少しでも誰かに差し出せたなら、周りは少し、苦しみから解放される。

 その積み重ねが苦しい環境を変える。


 私はそう考えています。

 世界中の多くの子供たちが、他者を思いやる優しい気持ちで接せるなら、それは大きな

優しさとなり、社会はきっと良くなると、信じています。


 ご覧頂いて有難うございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 胸に響きました! お互いを思いやる優しさを感じる素敵なお話でした。
2024/01/14 10:51 退会済み
管理
[良い点] 目が見えなくても、助けたい、悲しみを和らげたいという思いに、とても心動かされました。 大切なのは「優しい気持ち」と「勇気」なのですね。 リーちゃんを助けられたサト君に拍手です! 心が温かく…
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