表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第1話 【虎太郎という男の子】#異世界

(あやかし)』。

 この言葉を聞いたことがあるだろうか。

 江戸時代辺りから伝説として伝わり、今もなお受け継がれる昔話。

 本当かもしれない、嘘かもしれない。

 今でもカッパやマーメイドが出たなどと言われる世の中で、嘘だと言うには浅はかとは思うものの、見た事のある人は少ない。

 果たして、妖は存在するのだろうか。



 

 真夏のある日。

 山に囲まれたその土地で、少年は虫取り網を握って走り回っていた。

 「今日は何しようかなっ!」

 遊具も何も無いそんな土地でも、まだ幼い少年が走り回るには十分な広さがあった。

 と、そんな時。


 「ちょっと!やめてよ!!」

 「は?なんだよ小学生が、歯向かってんじゃねぇ!」

 「そもそも女子小学生がなんでこんな山の上にまで来てんだよ!」

 「おうちでおままごとでもしてろよ!」

 「もぅ、うるさい!」


 小学生の女の子と、男子中学生3人が言い合いをしているのを見つけてしまった。

 どうしようか、どうするべきかも考える前に少年は走り出す。

 しかし――。


 「あ?なんだお前?」

 「へっ!?」


 間に割って入る前にガンを付けられ、怯えてしまう。

 怖気付いて前に進めなくなってしまった。

 そうしてる間にも口論は続き、最終的に女の子が大泣きして終わった。

 その間、ただじっと見ていることしかできなかった。


 「大丈夫?」


 一応、聞いてみる。


 「なんで見てるだけなの!?助けてよ!!この意気地なし!!」


 そう吐き捨てられてどこかへ行ってしまった。

 その通りだろう。

 でも、ただ、それで、こんな。

 少年は口に出さずただ心の中で言い訳ばかりしていた。

 そうするしか、この気を紛らわす方法が思いつかなかった。


 次の日。

 

 「今日も『もみじ街』に行くの?」


 母親にそう言われたが、行く気になれなかった。

 『もみじ街』とはあの広場の総称で、秋になると美しい紅葉がそこら中に広がることからそう呼ばれるようになった。

 いつもなら喜んで行っていたし、『もみじ街』という単語を聞くだけでワクワクしていた。

 でも、またあの広場に行ったら、あの中学生がいるかもしれない。

 あの子がいるかもしれない。


 「今日はいいや!神社行く!!」

 「急に神社だなんて、どうしたの?」

 「うーん、なんとなく!」

 「そう?お弁当作っておいたから、お昼になったらちゃんと食べるのよ?水筒もね、ちゃんと水分補給すること」

 「うん!わかった!いってきまーす!!」


 元気のいい声を上げて、玄関を飛び出していく。

 元気の良さそうな声を上げて、とりあえず何も考えず前へと進む。


 鳥居をくぐる。

 目の前には長い長い階段が見上げるほどに続き、ところどころに見える鳥居がほんの少し不気味に感じながら登っていく。

 登ってみれば、真夏だというのにとても涼しく、神秘を感じるなんとも不思議な感覚に陥った。

 上を向けば、風邪でなびく木々に心を落ち着かせ、下を向けば、アリやスズメ、猫など、様々な生き物がゆったりと過ごしている。

 

 「キレイだなぁ……」


 幼くして感じるであろうか、この感覚を。

 田舎だからこそ感じられるその景色に見とれているものの、まだ幼い少年が『神秘的』という単語に気が付ける訳もなく。


 「鳥居さがしごっこしよ!!」


 遊びに場所を選ばず。

 そのアイデア力にはもはや賞賛に値するだろう。

 さすが子供と言うべきだろうか。


 だが、そんな子供でも、この涼しく穏やかな空間には逆らえず、とうとう少年は深い眠りについてしまった。


 「ジジジジジ……」

 「ピピピピーピピピピ」

 「ピロロロロロロ」

 「ホーッホーッホー……」


 様々な夏夜の虫の声に起こされ、少年は目を開ける。

 賽銭箱の前でボケた視界を起こそうと目を擦る。

 空を見てみれば、もう既に月が上っていた。

 満月が辺りを照らし、穏やかだった雰囲気を、不気味なものへと早変わりさせる。


 「ピロロロロロロ……」

 「トトトトトトトト……」

 「ジジジジジ……」

 「クルルルルルルルル……」

 「ぽぽぽぽぽぽ……」


 虫たちの声も、不気味なものに聞こえてしまう。

 眠りについたことを後悔するのもつかの間、少年の目の前に手招きする人の手が現れる。

 

 (助けに来てくれた)


 そう思った少年は涙目になりながらその女性の手を取った。

 真っ赤なネイルに、色白で艶やかな細長い手。

 幼い少年にでも分かるその綺麗な手は、ただ前へ前へと進むべき方向へと導いてくれている。

 前へ、前へ、前へ、前へ、まえへ、まえへ、まえへ――。


 ようやく涙が拭えた少年は、女性の顔を見ようと上をむく。

 が、そこに女性の姿はなく、あるのはただまっすぐと伸びる女性の腕。

 その先では、様々な妖が少年に手招きしている。


 「おいで。」     「おいで。」      「おいで。」

「おいで。」 「おいで。」     「おいで。」「おいで。」

   「おいで。」  「おいで。」        「おいで。」

「おいで。」    「おいで。」   「おいで。」  「おいで。」

  「おいで。」   「おいで。」      「おいで。」

 「おいで。」 「おいで。」       「おいで。」

「おいで。」      「おいで。」      「おいで。」

  「おいで。」   「おいで。」  「おいで。」


 いくら手をはなそうとしても、離れることはなく、引きずられても構わずあの妖の方に連れていかれる。


 「嫌だ……!やめて……怖いよ……!!」

 「おいで。」

 「ヤダ……やだってば!!」

 「来なよ、たのしいよ」

 「嫌だ……っ!!」

『おいで。』『こっちに』『おいで。』


 と、その時。

 背後から誰かが少年の右肩に手を添えた。

 悪寒と同時に感じたのは、暖かな優しさだった。


『よく、頑張ったな。』


 少年か、少女か、はたまた青年男性か、それとも女性か。

 声を聞いただけでは人かどうかも怪しまれるほど透き通った声。

 そして――。


『ばんっ』


 前に向けた人差し指を、もう目と鼻の先にまで来ていた妖に向け、そう呟く。


 その瞬間、赤やピンク、紫に緑、オレンジなど、様々な色に輝く花火のようなものが一面に開く。

 その瞬間に見えた彼は、狐の耳を持った短髪の男性の顔だった。


 少年の手を握っていた色白の手は離れ、手招きしていた妖も蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 それを見て安心してしまったのか、視界は暗くなり、眠りについてしまった。


『おまえは、勇気のあるいい男だな。』


 少年かも少女家も分からない声で、そう言われた気がした。




 目が覚めると、またあの賽銭箱の前にいた。

 しかし空は赤い夕暮れで、まだ暗くはなかった。


 (今すぐ帰らなきゃ)


 少年は階段を駆け下り、家へと帰る。

 定時にはほんの少し遅れてしまったものの、無事に帰ってきたことに安堵し、両親は少年を食卓に案内した。



 次の日。

 この日は、なぜかこの場所に来たくなった。

 できればもう来たくはなかったが、足が勝手にその方向へと進められた。

 あの時と同じ、虫取り網を持って広場の中心に立つ。


 (どうか今日は、あの中学生とあの子が来ませんように)


 そう願うのもつかの間、まるで願ったことを嘲笑うかのように、あの時をリピートしたかのような声が耳に届く。


 「ちょっと!やめてよ!」


 思わず振り向けば、そこにはあの子がいた。

 しかもその隣には中学生が5人。

 前よりも2人も多いじゃないか。


 「うっせぇなこのガキ!」

 「一昨日からいったいなんなんだよ!!」

 「あーくそ、腹立ってきた」


 走っている間に、そんな会話が聞こえてきた。

 あれ、なんで走ってるんだ?

 本当は怖いのに。本当は気まずくて仕方がないのに。


 「あ?なんだお前?」


 足が止まりそうだ。

 とてつもない恐怖の一瞬、あの言葉が蘇る。


『お前は、勇気のあるいい男だな。』


 止まりかけた足を前へと進ませる。

 今の自分に、怖いものなんてない。

 あの人みたいにカッコよくなりたい。

 あの人みたいに怖いものに立ち向かえるようになりたい。

 女の子の前に立ち、間に割って入った。


 「や、やや……やめろぉぉーーーっっ!!」

 「な、なんだ??こいつ……」

 「んだようるせぇなぁキィキィと」


 今、自分の後ろで女の子がどんな顔をしているかは分からない。

 でも、たった今この時だけは、この子の『ヒーロー』っていうのになってみたくなったんだ。


 「うぉらぁぁぁ!!女の子を泣かせるなんて、お、おお男としてし、しぃっかくだぁぁぁ!!」

 「な、なんだ?」

 「このボク……超うるとらスーパー強いマンが相手だぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁ!!!」


 そう少年に言われ、5人の中学生の間ではどっと笑いが起こる。


 「な、何笑ってんだよ!!」

 「そりゃそうだろ!ネーミングセンス疑うわァ」

 「……っく!なめるなよ!!超うるとらキーック!!」

 「痛っっ!!」

 「こいつ殴ってきやがった!!」

 「超ウルトラパーンチっ!!」

 「痛ってぇ!!」

 「や、やめろやお前!!」

 「超超うるとらスーパーみぞおちパーンチっ!!」

 「ッッッぐぅっ!!」

 「こいつヤバすぎだろ!!」

 「わ、悪かったからこんなことすんな!!」

 「必殺!超スーパーウルトラハイパーめちゃくちゃ強い……えと、その、パーーーーンチッ!!!」


 そう言って、最後に思い切り相手の金的を……蹴り上げた。

 そいつからは声とも呼べない鳴き声が叫ばれ、バタリとうずくまってしまった。


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ハハ!超ハイパースーパーウルトラめっちゃ強いマンの力、思い知ったか!!」

 「こ、こいつ……!」

 「小学生がイキるなよっ!」


 そう言われ、相手から強烈な横蹴りを食らったものの、ぷるぷるとしながら何とか耐えた。


 「クソが」

 「ほら、行くぞ」

 「……ッぐぅぅぅっ」

 「みぞおちまだ痛てぇ」

 「うるっせぇ黙ってろ」


 文句を言いながらも、それぞれを抱えながら去っていく年上たちを見て、フンスと鼻を鳴らした。


 「え、えと……大丈夫?」


 女の子が聞いてくる。


 「だ、大丈夫……めちゃくちゃ平気だし……!だって僕は超強いマンだぞ……っ!!」


 プルプルと足を震わせて、蹴られた腹部の痛みを我慢しながら、そう言った。


 「ふっ、アハハハ!!」

 「な、何笑ってんだよ!」

 「いいや、なんでもないっ!」


 ニカッと笑って、向日葵のような明るい笑顔が大きく咲く。

 ほんの少し、胸が鳴った。


 「当たり前のことをしただけだし!」

 「そっか。すごいな。強いんだね!その……カッコよかった!えへへへへ」


 先程とはほんの少し変わって、こんどはにへらと緩く笑う。

 恥ずかしさを紛らわしているようにも見えた。

 また胸が踊らされた。


 「あっ、そうだ!名前はなんて言うの?『ヒーロー』さんっ!」


 そう言われ、思わず即興のポーズをとる。


 「俺の名前は【平岸(ヒラギシ) 虎太郎(コタロウ)】!超うるとらスーパー強いマンだっ!!」


 僕が最初に出会った狐のヒーローさん。

 僕は、狐さんみたいに強くカッコよくなれるのかな。

このショートストーリーを読んでいただきありがとうございます!!


今回の作品は、現在製作途中(投稿日2023/09/02時点)の、『Hello My,HEROS』というTRPGシナリオの二次作になります。


このシナリオをプレイするにあたって、このショートストーリーはなんの差支えもないのでご安心ください。


また、このショートストーリーを読んで、シナリオと僕自身に興味が湧いてくだされば幸いです。


どうぞこれからもご愛読よろしくお願いします。(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ