同行者
階段を下り切ると、地下室のドアがあった。
警戒しながらドアノブを回す。
開けると、そこには四畳ぐらいの小さな空間が。
その狭い空間を、さらに半分ぐらいで格子が区切っている。
そして、その格子の奥に少女がいた。
俺のほうが2〜3ぐらいは年は上だろうか。
少女が口を開く。
「あの…!牢屋の鍵を、開けてください…その机の上にあるので…」
見ると、銀色の鍵が光っていた。
しかし、俺は一旦その願いを拒む。
「お前が敵の可能性もある。人間は簡単には信用しないって決めているんだ。」
「だから、まずお前は何者なのか教えてからだ。」
少女は口を重たそうに開きながらゆっくりと話し始めた。
「私はこの家に住んでいる夫婦の隠し子なんです…」
「でも、私には魔紋という痣があって、それを持った人は痣持ちと呼ばれて不幸を呼ぶとされていて…」
彼女ははめていた左手の手袋を外す。手の声に歪な紋様が浮かび上がっていた。
「村の人に見られたら私だけでなく自分たちも何を言われるかわからないって言われて、牢屋に…」
自分と似たような境遇に普通の人なら同情するのだろうが、俺はまだ信じるまでには至らない。
「その魔紋とやらが付いていると何か特別な能力を持っていたりするのか?」
「はい、これがついている人間は、魔法を使うことができません。」
「その代わり、魔力を使って自分の身体能力をとても高めることができるんです。」
「身体強化の魔法というのは普通の人でも使えますが、それとは比べ物にならないほどで…」
「で、それが忌み嫌われて隔離されていたと?」
「はい。昔話では痣持ちが村を滅ぼしたとか山賊になって一般人を襲ったりとかいう話がたくさんありまして…」
つくづく、人間というものは愚かだと感じる。
痣があろうが、その力の使い方を決めるのは人間自身だというのに。
「お前、名前は?あと、年はいくつだ?」
「サラ・ナタリーです。年は、たしか今が14で今年で15になるはず…」
「14だと?とてもそんな年には見えないが…」
「対して食事も与えられていませんでしたので…体もあまり成長することなく…」
たしかに、頬がかなりやつれているし、さっきから立ってはいるが足元がふらついている。
少なくとも自分を襲う体力は残っていないと判断し、ようやく気を緩める。
「俺はステラ。簡単に言ってしまうと、異世界から来た。」
「異世界から…!?」
自分の話をなるべく手短に済ませる。
死んだら異世界に転生したこと。
悪魔の力を宿していて村人に拷問されたこと。
…それらを全員殺してしまったこと。
「そんなひどい仕打ちを受けていたなんて……
人を殺してしまうのはいけないことですが、それも仕方のないことだったのでしょう…」
サラは涙を流していた。
こんなひどい環境で育てられたというのに、人のために涙を流せる人間はそうはいないだろう。
サラはひとまず信用してみてもいいのではないか。
というか、信じないと俺はこの世界について何も知ることができない。
「俺は今からこの牢の鍵を開ける。その代わり…」
「俺はこの世界のことを全く知らない。だから、お前は俺にいろんなことを教えてくれ。」
「と言っても、ずっとこの部屋にいたならお前が知らないこともたくさんあるだろうが…」
サラは目を輝かせて即答する。
「もちろん構わないです!それでここから出られるのなら…!」
「交渉成立だな。」
14年間閉ざされていた牢の鍵が、カチリと開いた。