ヤバいやつと教会と
____1ー2教室____
『本当に大丈夫なのですか!?何かあったとか...ではないのですか!?それとも.........』
うーん。また始まった。私がアークスオンライン始めた途端髪色が黒から白金色で後ろ髪の毛先の方はグラデーションになるような綺麗な銀色、果てにはインナーカラーとしてピンク色もあるときた。美容師さんに感謝を。その時の慌てようはほんとにすさまじい...というか怖かった。うん。忘れよう。
未だにまだ心配?してくれるのはいいんだけど1週間ほどずっと言われ続けたら少し気が滅入るのよね。まぁ、悪い子じゃないのはわかるんだけど。
この子は朝霧 凪沙。腰にまで届きそうな金色に近い栗毛色の長い髪の毛で、左側の横髪部分を耳にかけている。常に耳が出ていて非常によき。私が『こっちの方がいいよ。』なんて言ってからはこの髪型を何故か維持している。
瞳は木々を思わせるような翡翠色だ。彼女の優しさを詰め込んだような色をしている。とてもよい。
彼女は中学時代にこっちに転校してきた私のクラスでいじめられていた子だ。聞いたところによると、最初の原因はその容姿への嫉妬だったかな。そこからズルズルいったそうだ。可愛くなろうとする努力を怠り、あまつさえ可愛い子に牙を剥こうとする。これにはさすがの私も少し暴れちゃったね。
あの頃のこの子は何を言われても「はいわかりました。ごめんなさい。」とか、話しかけても、私には価値がありませんので。とかよく言ってたっけ。猫背と諦観の目。それと、目の下のくまが酷かったなぁ。しかし、私は磨けば光るのでは?とビビビっ!!!ってきたからいじめの場面に突入して彼女を攫い、そのまま家に押しかけて『そなたは美しい』と、あの不朽の名作のかの御仁も仰ってたことをそのまま言ったらめっちゃ懐かれた。高校にも着いてきた。猫背も全てを諦めたような瞳も目の下のくまも今は見る影もない。猫背なんかは恐らく意図的にやってたんだろうね。しかし、未だに人の顔色をうかがうクセは抜けないようだ。
『ちゃんと聞いていますか!?祈!?』
「っだぁぁぁ!!!聞いてるよ!!何も無い!!私は私の道を往く!凪はついてきたまえ!!!」
あらら。少し昔を思い出していたら怒られちゃった。ゴメンね。どこにいった?あのころのお淑やかな凪沙ちゃんは?今や事ある毎に口をすっぱくして言ってくるお母さんみたいになっちゃった。
『はぁ〜...本当に何も無いのですね?』
「問題ナシ!ヨシ!」
あぁ!!帰って早くアークスオンラインの世界に浸りたい!!!
「ところで、そろそろ向こうで合流出来そう?」
『そうですね。祈のお義姉様と一緒に今日にでも合流できるかと。』
「おねぇがベータ組で、凪はサービス開始と同時に始めて今はおねぇと一緒にやってるんだっけ?」
『えぇ。ギルドと言うプレイヤー同士が集まる所を一緒に立ち上げました。祈も勧誘予定です。』
なんか姉がギルドマスターで凪沙がサブマスターだっけか?恐らくなにか恩恵があると思うんだけど詳しくは知らない。だってこのアークスオンラインのチュートリアル受けてないんだもん。...少し調べるか。
「ちょ、すまん。調べもの。」
____1ー2教室____
このクラスには良くも悪くも目を引く人が二人いる。1人は言葉 祈。もう1人は朝霧 凪沙。言葉の方は少し小さめな背丈を利用して入学早々女生徒や女教師に飛びかかったり抱きついて吸ったりスカートめくりをする変態だ。しかし見てくれだけはいい。先週はいきなり髪色が変わってて皆は、またアイツ変なことしないだろうな?と勘ぐっていた。今のところは何も問題は起きていない。
それに対して朝霧の方はいい所のお嬢様らしい。仕草、口調。などなど節々から明らかにいい所の育ちというのが見て取れる。しかし、いつも一緒と言わんばかりに言葉についてまわっている。理由はよく分からないが噂によると朝霧がいじめられていたところを助けたのが言葉なのだとか。信じられないなあんなやつズケズケと人の心に土足で踏み荒らしていくだろうに。眉唾ものもいい所だと皆が口を合わせてそういうだろう。
しかし、2人ともいかんせん容姿がいいのが目立つ。この2人は学年では有名だ。言葉は何をしでかすのか分からない。朝霧はその言葉の抑制剤として機能しているようだ。まるで立場が逆だな。笑えてくる。
『なぁ、アークスでたまにだが、いきなり結界が張られたログが流れてそのまますぐにキルされる【亡国の不死姫メルティ】が倒されたってまじかよ?コレ見てみろよ。公式の板で話題になってる』
そんな風にふたりを見て思っていたらふらりと友人がやってきた。
「俺そのメルティってやつも知らねぇんだけど?」
『俺も1回キルされたんだけど、まだエルメスの東西南北にしか街や村が見つかってないだろ?』
「まぁ。それと、ダンジョンなんかは複数発見はされてるけど踏破までは出来てない所が多いんだっけか?」
『そうそう。それでな?このメルティってボスは場所なんか問わずにほかの魔物との戦闘中でも構わず結界のログが流れてその瞬間キルされるんよ。姿、形も分からん。ログも?で埋め尽くされて何をされたかもわからん。』
「セーフティエリアでも?」
『やられるらしい。しかも1回で複数人やられたこともあるみたいだな。これで初めて徘徊型のフィールドボス徘徊者なる存在が判明したらしい。公式に抗議もあって、セーフティエリアにはもう来ないらしいけどな』
「へーすげぇな。俺はあった事ねぇわ。どこらともなくいきなり死ねって言われるのか」
『ねね、今メルティちゃんの話してたよね!?』
ヤバいやつが釣れた。こっち来んなよな...。おい朝霧ちゃんと手綱握っとけ。エルメスにヤバい髪色したやつが居るって言われてたけどこいつの事か?いやでも、さすがにアイツでもリアモジュとかこのご時世で使わないだろ...。あんま関わりたくないんだけどな......
「え、まぁしてたな。」
『メルティちゃんってそんなに強かったの?』
......なんでこいつはメルティちゃんと言っている?姿、形も分からないんじゃなかったのか?おい友よ。情報が違うんじゃないのか?
「ええっとね...いきなりキルされてるってことだけしか分かってないんだよ...」と、たじろぎながら友達が言う。
『ほーん...?ごめんっ!邪魔したね!ありがとう!じゃぁね!』
嵐が去った。助かった。アークスオンライン知ってるのか...?あいつは?なんか首かしげてたし、他のメルティって何かと勘違いしたんだろうな。何も聞かなかったしな。間違えたからすぐに去ったんだろう。アイツもそこまで馬鹿じゃないだろう?
____自宅____
クラスメイトが教室でメルティちゃんの話をしたからつい話に割り込んでしまった。なんでもワンダリングという徘徊型のボスだったらしい。こんにちは!死ね!と言わんばかりにキルされるし姿、形も見えないって言ってたな...それで公式の掲示板も見たけど話題になってるっぽい。...私だとバレたらどうしよう。これは課金コンテンツで出来るアカウント転生をする時が来たのか...?
あの後調べてみたけど基本となる属性も色々あったし、【斬】【突】【打】という攻撃もあった。【斬】は剣などで切るような攻撃、【突】は突いたような攻撃と弓とかの貫通力がありそうな攻撃のタイプだね。【打】は殴ったりする攻撃だね。あと個人的に気になってた【不死】と【死霊】属性についてなんだけど、これに関しては【不死】はボスなどの強敵で【死霊】はゾンビやスケルトンのザコ敵っぽい。不死は死霊の上位互換って感じなのかな?ネクロマンサーとかいそうだよね。
あとは忘れてたダイブマシンと携帯を連携してっと...ヨシ!......じゃなかった念の為に転生チケット買おっと。貴重な情報は粘着PKして聞き出そうとするのはこの手のゲームだとよくある話だし、メルティちゃんの情報吐き出させようとPKとか仕掛けてくるかも...いまはプレイヤーが少ない土地にいるとはいえ念には念を入れておこう。これでヨシ!いざ参らん!!!
____【???】____
「およ?」
『ようきたイノリよ。』
あっれぇ〜?なんか見たことあるところに来たなぁ!?しかも銀髪ゴスロリのじゃロリ神様のアンノウン様じゃないですか!!!
「えっと...?」
『いやお主転生チケットを持ってるじゃろ?それでワシが出てきたという訳じゃ』
お、ここら辺メタいな...ちょっと困った顔してるその顔も可愛いよ!!
『転生するとな?全てリセットされるんじゃよ。しかもワシらが頼んだ事もすんでおらんのでのぉ。少し話を聞きたくての。』
なるほど。全てリセットされる確認と共に【双神のお願い】というクエストにも関連するからあーちゃんが出てきたと...
『教会の事はすまんかったと思っておる。しかし、あれを乗りきるとは大したもんじゃ。しかし、あの苦行を乗り越えたお主がなぜ転生チケットを持ってるのか聞きたくてのぉ...』
「えっとですね...私メルティちゃんデコピンで倒した。異邦人は周知の事実。情報錯綜。異邦人血眼。我討伐者也。PK!PK!我緊急事態。現実異邦人多数。近辺異邦人多数。ゆーあーおーけー?」
『何を言っておるんじゃ、お主は...分かったのじゃ。メルティを倒したことにより異邦人に狙われるとそう言いたんじゃな?』
「おー!ソウデース!」
『そうじゃな...お主を今スキャンしたんじゃがこっちはもう保存した故、髪色を元に戻して貰って構わんぞ?あとは瞳の色を青に変えてじゃな...ほれこれでどうじゃ?』
え?そんな事までしてくれるの?せっかく染めたのに戻していいですよと?はいそうですかと、そうは問屋が卸さないですよ!アンノウン様!しかも私の瞳の色も青になってるホログラムが投影されている!......この子可愛いな...?やばい危うく自分自身をネタにしてしまう所だった。危ないぜ...まったくあーちゃん様よぉ!!
『その転生チケットを使って容姿変更だけに留めておいて欲しいのじゃ。よいかの?』
「え、そんなことできるの?」
『お主がキャラクリチケットだとピーちゃんに任せたんじゃのぉ転生までさせられたらワシらの悲願が叶わなくなるのじゃ』
「キャラクリチケットなんてあったのか...」
【悲報】見た目を変えるチケットも存在した。その場合はピーちゃんが出てくるという。もしかして私、情報収集能力低い?ちゃんと公式で書いてあったのを読んだ気がするんだけどなぁ...
『値段は同じじゃ。あまり気にするでない。』
うーん...この時々明らかにゲームですよ!って発言がマイナスなんだよね。なにぶん、ほかのNPCが生身の人間と大差ないからからより違和感がある。運営に報告しようかなぁ?公式も自由と人間のようなNPCをウリにしてるっぽいし?
「では、それでお願いします。もう現実の方は髪の色を戻しても大丈夫で、こちらでは神様の加護を受け続けれるんですね?」
『ん。そうじゃな。すまなかったのじゃあの時はワシらも余り力が残っておらんくてのぉ...変わりと言ってはなんじゃがメルティの事とか興味ないかの?人体錬成とかも教えてやるぞ?』
「おなしゃーーす!!!」
やった!!!これは転生チケットを買うことであーちゃんが出てくるフラグなのでは?しかもメルティちゃんを知れる上に、人体錬成とか明らかに禁忌っぽいのを教えてくれるらしい。私知ってる。昔の漫画で人体錬成で弟が鎧になるやつ知ってるもん。腕と足も無くなってたっけ?
『まずはメルティのやつからじゃな。あやつは聖クリスティ教会に国を滅ぼされておる。まだ一神教じゃなかった頃なんじゃが、だんだんと力をつけてきていた聖クリスティ教会に異端の国とされてのぉ、クリスティ様以外を信仰するとこうなるぞ。と、みせしめとして初めて滅ぼされた国なのじゃ。それが始まりじゃった。』
そう言いながらあーちゃんは悲しそうな困ったような顔をしながら座り込んでしまった。しかも膝をポンポン叩いているこれは膝枕!?ハイ!喜んで!もうね、野球選手並のヘッドスライディングしちゃう。目にも留まらぬ豪速球よ。うん。いい匂い...全力で飛び込んだのに押さえつけられた。さすが神。侮れないぜ…
『最初はほんの僅かな嫌がらせ程度じゃった。それなりにある力のある一国の王がクリスティ様を信仰してない国や村とは取引をしないと。つまりは、交易をしないと言い始めよったのじゃ。それにより聖クリスティ教会が力を強めたのじゃ。なにせかの王が同じ神様を信仰して尚且つ、支援してくれるのじゃからな。』
ほえ〜。昔、力のある国が同じ教徒以外の国には貿易を停止させたのか。それでそれで?
『しかしそれに反発する国や村も多々あった。クリスティ教じゃない同士で仲良く貿易をしてたんじゃな。貿易停止宣言から異教徒の国の民たちは知らぬ存ぜぬで日々は過ぎていったんじゃよ。しかし、王都はそう長く続かなかった...もちろんじゃな。なにせその国は王都と呼ばれ貿易に頼っておったのじゃからの。商人たちは貿易先を狭まれ、食糧の質、量の低下。など貿易停止の弊害が出るわ出るわ。そのおかげで王都を出ていく民は少なくはなかった。聖クリスティ教会とやらになぜか税を取られる。神官、騎士など教会に属する物には無償で食べ物を与えよと。教会を蔑ろにするモノは問答無用でその場で処刑という名の殺人が当たり前になったのじゃ。』
え...?マジで?クリスティ様それを容認してたの?アンノウン様も知ってるとなると見過ごした...?いや、違うな。この顔は。出来なくても、できなかったという顔だ。恐らくなにか制約があるのだろう。さすがにそこまでは話してくれないかな。頭の片隅に置いておこう。
『民は教会に背いたら殺される。そんな事が当たり前になる頃になると民は簡単に王都を出ることも容易ではなくなったのじゃ。検問の強化、職場の視察などを教会が始めよった。あやつらは民草を駒としか見ておらぬ。駒が減ると飯が減る。不味くなる。そんなことに遅かれ早かれ気がついたのじゃ。もはや普通の民は王都を出ることが許されず、商人たちもクリスティを信仰していることを確かめなければ交易ができなくなった。勿論、反乱もあったが王の...いや、国の騎士団、魔道連中はもれなく聖クリスティ教会じゃ。すぐさま鎮圧された。民はそれを見て耐えるしか無かったのじゃ...。』
ホントに胸糞悪いな...ホントにゲームなのか?これは?ストーリー重くない?一応R15だけどさぁ...一般市民は盾突いたら殺されるのが当たり前。王都からは出られない。商人はクリスティ様を信仰してないとダメ。しかも国の上部は全てそれらに肯定。力を持って制圧される。ホンっとにムカつくね...
『民の殺戮。貿易の停止。商人の選定。それらを繰り返しているうちに、貿易として栄えてた王都はみるみるうちに変わり果てていったんじゃ。民は覇気がなく、栄えていた城下町は教会関係者が闊歩する所になった。いつ殺されるか分からない日々に怯え、騎士に怯え、教会に怯え、国に王に怯えた。そして目下の問題は食糧の低下じゃった。王都には食糧を育てる場所が少なく、自国と自ら制限した貿易に頼るしかなかった。そこで王と教会は貿易を停止した異教徒に目をつけた。』
あー...この後の展開ほぼ読めちゃったな。他国に食糧をタダで寄越せとかいう感じだろうなぁ...
『王と教会は商人に対して異教徒共に食糧を提供しないと武力行使するといったのじゃ。商人の護衛と評し、教会騎士や神官が同行したのじゃ。そこで剣やら槍やら魔法で脅し奪い去って行った。その事は瞬く間に他国にも広まったんじゃ。そしてどこも相手をしてくれなくなると強硬手段に及んだ。お主の思う通り、村や町、他国の民を殺し食糧を奪い去ったのじゃ。その犠牲になったのがメルティの国じゃ。年寄りは殺され、使えそうな男は捕らえて労働力に。女は慰みものに。子供には聖クリスティ教会が信仰という名の洗脳を。そして王族や貴族は散々遊ばれて殺されたッ...!!』
救いようのないクズ集団だな本当に。しかし何故王都の騎士や魔道の人たちはそれに従ったんだ...?何かが引っかかる。あーちゃんも苦虫を噛み潰したような顔で...可愛い顔が台無しだよ。全く。
『ワシには何もできんかった。ただ観測しておることしか...の。そして、1つの国がみせしめに滅ぼされたのじゃ。そしてこう言われた。聖クリスティ教会に逆らうと殺される。王都に食糧を渡さないと殺される。クリスティ様を信仰しないと殺される。とな...それからは表ではクリスティを信仰しながらも裏では憎んでおった...しかし、時の流れとは残酷なもの。いつしかクリスティが心の底から神のように信仰されるようになったのじゃ。そして教会が牛耳っておる国も少なくない。神官や騎士になるのは良い事だ、偉いことだと言われるようになったのじゃ。そして今、お主がこの世界で見てきたようにワシらの加護は悪とされ広く知れ渡っておる。』
そうか...長い年月をかけて聖クリスティ教会はいいものだと浸透しちゃったんだ。でも私がいるコライユ村の人達は対抗してるけどなんでなんだろう?反抗したら殺されるのが当たり前で聖クリスティ教会はなんでもすることが日常茶飯事だと洗脳されているはずなのに...?何かを見落としてる...何かが足りない...そんな気がする。




