少女の価値
私はどうやら可愛いらしい。そう気づいたのは小学生の頃だったでしょうか。小さい頃からかわいい、可愛いと言われ続けこれが当たり前なのだと。そう勘違いをしていました。裕福な家庭、恵まれた容姿。それらひとつでも持たない者がいるというのに...。私はその2つを持っていました。2つとも持っているのは贅沢だと言われ時にはイジメの標的になる。ですが、このしがらみから本当の意味で抜け出せたのはあの子がいたから...
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小学生の頃は自分の考えをよく口にしていたような気がします。会社を経営している両親も先生もよく褒めてくれました。自分の考えを口にできるいい子だと。ですがこれは小さい子供故の特権。分別がつくような年になると考えた事をすぐに口に出す人からは距離を置くようになる。そんなのは当たり前な話。ですが、私は分からなかった。言われなかった。空気を読めなかった。思ったことはすぐに指摘し、私こそが正しいのだと。そう思い込んでいました。皆もそれを肯定してくれる。私を中心にみんなが居ると。しかし、子供の成長とは早いもので、小学生の高学年ぐらいになると私の周りには友達はおろか、クラスメイトすら近寄ろうとしませんでした。キッカケは何か分からない。聞いてみたらみんながそうしているから私も。僕も。俺も。という風な流れが出来てしまい完璧に孤立してしまいました。最初の頃は無視だけだったのですが、そのうち過激になっていきモノを隠される、ゴミ箱に入れられる。壊される。聞こえるような悪口。明らかな罵倒と言うことが続きました。それが先生の耳に入るのも時間の問題で、クラスで問題になりました。1つの授業を無くしてまでそういうのはダメ。いじめはよくないことだと。先生が仰っていました。両親にも連絡がいきましたが、幼いながらに迷惑をかけまいと大丈夫だと言い張りました。お金の力で何とかしたと言われるのは目に見えていました。
それからというもの私には無視、最低限の必要事項の時のみには関わるといった態度に変わりました。この時誰がチクったんだ!みたいなのもありましたが、私のあずかり知らぬ所で解決したみたいです。不登校にならなかったこの頃の私を褒め称えたいですね。
辛かった小学校を卒業し中学生になりました。
ようやくこの学校から去れると思うととても嬉しかったです。しかし、現実は非情なもの。同じ地区だと中学校も同じなのです私の場合は半分、半分程に別れました。私はその知らない小学校から来た子と仲良くなる...つもりだったのですが同じ小学校出身の子達にアレコレ吹き込まれ、また孤立しました。そして2年生になる頃。1人の転校生がやって来ました。その頃の私は自分の殻にこもるので精一杯で外の世界など、自分以外など、どうでもいいと。なるべく波風を立たないように、人の顔色ばかりをうかがうような子に成り果てていました。いつ壊れて爆発してなにかをしでかすのかと、とても不安定な状態だったらしいです。
『ドーモこんちわー!あっちの方からやって来ました!言葉 祈です!皆の者!是非によろしゅう!!』
と変な自己紹介と共にとてもおかしな人が転校してきました。彼女は綺麗な長い黒髪に毛先がくるっと軽くカールしていて、身長も少し低めで元気そうな子だなぁと思いました。
この頃になると私は同学年、年下、誰に対しても敬語で話すようになっていました。不快感を与えない為にと思って始めたことです。タメ口だとまたいじめがエスカレートするかもしれない。そんな思いで敬語をずっと扱い続けていたらいつの間にかこんな口調に...今となってはもういいんですけどね。こんな私を見てくれて。見つけてくれて。何も言わずに話を聞いてくれて。必要だとしてくれて。
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ある日。いつも自分の席でじっとしてる私なんかに告白をしてくる男の子が出てきました。クラスの中心にいるかっこいいとよく言われている子でした。ぼっちの私でも噂話が聞こえてくるぐらいの。お話したこともあまりなく、必要最低限ぐらいしか関わったことが無いのですが、こんな私に好意を抱いたと。正直実感が湧きませんでした。これはいじめなのかと。罰ゲームかなにかでは?と。疑ってしまいました。しかも勢いのままにそれを口に出してしまいました。そうすると彼は「そんなんじゃない。本気なんだ。」と言っていました。本当に訳が分からなくなりました。一言、二言しか交わしたことの無い地味な私なんかがこんな人に......?どこから好きになる要素が?私の何を見ているの?何を見てきたの?という感情が頭の中でぐるぐるぐるぐる...思考が纏まらず私はその思考のままお断りしました。そうしたら彼は「そうか...」とだけ言い残し去っていきました。あまり悲しく無さそうだったのは気のせいでしょうか?
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次の日学校へ行くとクラスで私にわざと聞こえるような陰口をたたいている人達がいました。「顔だけの女」「根暗」「○○君呼び出して振った」「私が狙ってたのに」「体でも売ったんじゃない?」...と先日の彼の告白があたかも私が悪いように広まっていました。この時点で私は気づきました。やっぱりかと。こういう経験値が増えるのは嫌ですね。と思いながら席につこうとしたらクラスの中心人物の女子集団がやって来ました。
「何様のつもり?」「あんた○○君を振ったんでしょ?」「小学校の時からずっといじめられてるってまじ?」「もっといじめてやろうか?」
などなどありがたい言葉を頂きました。この程度なら流せるぐらいにはなりましたので、「申し訳ありませんでした。」と頭を下げて謝ったらそのまま土下座をしろというので流石にそこまでは......と思ったら周りで静観してた野次馬も土下座コールをし始めました。これは諦めてやるしかないですね。土下座をしたらそのまま足で頭を押さえつけられました。これはくるものがありますね...。そろそろ先生が来るのでその時は終わりましたがまたいじめがエスカレートするのだと思うととても辛かったです。
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案の定私はいい標的にされました。何をしても謝るしかしない。お金持ちの家の子だし、お金は言えば持ってくる。誰にも何も言わない。言うことは聞く。ていの良いストレス発散おもちゃとなっていました。しかも人目につかないようにしているのもタチが悪いですね。少しは頭の回る人物だったのでしょう。
ある日目立たない学校の隅に呼ばれました。もっと金をよこせそうしないとお前を売ると言われました。もう私のお小遣いも底をつきそうでした。売る?何を?と思いましたがすぐに意味がわかりました。体の事だったのです。衣服をぬがしネットに上げるかおじさんの相手をして稼いでこいというのです。私たちが相手を見つけてきてもいいのよ?なども言っていましたね。それにはさすがの私も拒否しました。するとどうでしょう。今まで反抗しなかったおもちゃが反抗するのです。さぞ面白くなかったのでしょうね。複数人に囲まれていた私はすぐさま取り押さえられ、主犯格となる人物がなにやら携帯で電話をし始めました。校則違反のオンパレードですね。なんて呑気に思っていたらそこに先生がやってきました。私たちの担任の人です。しかし、そう甘くなく彼はこの人たちとグルなんだとすぐさま分かりました。彼女たちは金銭を受け取り、彼は私を慰みものにするそういうのがすぐに分かりました。私は抵抗を諦め、この現実を受けれようとすぐさま諦めました。
どうして私はいつもこうなるのだろう。
いつからだろう。
なぜ、無視されるのだろう。
なぜ、教師は見て見ぬふりを。
なぜ、クラスメイトも見て見ぬふりを。
なぜか両親だけは優しいですが、家以外に安住の地はない。
なぜか外は危険だらけ。
なぜか敵しかいない。
なぜ、私なんかが生きているのだろう。
なぜ、人たちはお金のためにここまでできるのかと。
なぜ、人は人をここまで追い込めるのだと。
あぁ、そうか。人は醜い。そうだ。それに、嫉妬深い。妬み。恨み。時には殺したいほど憎む。これは私の心の奥底に眠っていた...押し殺していた感情なのだと気づくのには遅すぎた。遅すぎたみたいです私。最後に人間らしい感情を持てただけでも生きた意味はあっただろうか。
なぜかいつも気にかけてくれる優しいお母様ごめんなさい。
なぜかいつも元気に励ましてくれるお父様ごめんなさい。
なぜかごめんなさいばかりがでてくる。
なぜか後悔ばかりがでてくる。
なぜか何も思い出せなくなる。
なぜ。
なぜ。
なぜ。
なぜなぜなぜなぜ
頭の中で何故ばかりが反芻する。
そして疲れた。
生きてきてごめんなさい。何も無くてごめんなさい。もうどうでもいい。何をされようと。私には価値がない。意味が無い。もう......何も残っていない。反抗する意思すら残っていない。
そして今。
全てが終わる。
『うぇ〜い!!みってるぅ!?そこの2年3組の○○、○○、○○...と2年3組の担任○○先生〜!!楽しそうなことしてんねぇ!!!』
その場違いな声に私の沈んでいた思考と共に、皆が視線を奪われる。その人はこの場にいる私以外の全員の前をわざわざ読み上げながら携帯を持っていた。
『うぃ〜す!!この間転校してきました!言葉 祈です!パーティ中にどうもすみませ〜ん!!私も混ぜてもらっていいっすかぁ!?』
皆が未だに視線を奪われる中、彼女はそのまま言い放った。
『私もぉ〜混ぜて貰えたら〜嬉しいな〜なんて......キャハ♡』
そういうと携帯をしまい、勢いよく駆け出し、私に覆いかぶさり惚けて彼女を見ている担任を蹴飛ばしました。
『行くよっ!!』
私は彼女に起こされ手を引かれながらその場を立ち去ることが出来ました。何故手を取ったのか。何故私は走ったのか。その場で彼女を拒むことも出来たはずなのに。何故私なんかを助けてくれたのでしょうか?私には何も無いのに...また思考が纏まらくなってしまいます。その間彼女はどこかへ電話をし、私の家の住所を聞き出し今から向かうというのです。私も思わず「分かりました」と答え彼女と向かうことに。
家の前に着くと、両親と知らない2人の男性と女性の人がいました。私たちを見つけるとすぐさま駆け寄ってきて彼女がここでは話しづらいからと家の中へと皆で入るよう促しました。私の家なのに。です。
その間私は汚れたこともあってお風呂に促されました。私はそれに素直に従い、お風呂へと向かったのでした。
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お風呂から出ると両親に泣きながら謝られました。大の大人が泣いてるのなんて見たくなかったですね。ええ。本当に。私も...思わず目から汗が出てきてしまいましたから。
私がお風呂に行ってる間に彼女が知っている事を全て話してくれたみたいです。すでに警察にも連絡しているらしくすでに向かって来ているみたいでした。知らない男性と女性は彼女の両親でした。彼女は動画を携帯で最初からとっていたらしく本当に危ない所で飛び出してくれたみたいです。本当に。なんで私なんかを......
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警察が来てからは全て話しました。動画の方も預かるらしく彼女の行動をとても褒めていましたね。小学校からのこと中学になってからのこと今までのこと。やられていたことを。この後のことはもう大丈夫でしょう...
『大丈夫?』
自室に戻った私の元に現れては、クラスではいつも空気を読まない彼女がそう言い放ちました。転校してきてあまり経っていないのに私なんかを気にかけて何故ここまで?貴方はなにがしたいのですか?と言いそうになる口を開きかけてはその言葉を呑み込んで感謝の言葉を述べたら、彼女は悲しそうな顔をするのです。なぜか泣きそうになるほどに悲しい顔を。です。私はただのクラスメイト。いじめられていたのを助けてくれた。それしか縁がない。彼女がよく分からないのです。今まで1人でクラスを観察してきた私には分かります。傍観をせずにズカズカと人の心の中を平気で踏み込んでくる人に違いない。...そう思ってました。
すると突然何も言わずにベッドに座っていた私の隣に来ては腰を下ろしたのです。待てど待てど何も言わないし何もしてこない。両親が来ても『今は任せてくださいお願いします。』と頭を下げては追い返してくれたりもした。分からない。貴方が。私が。
私の心が。何も分からない。
『いいんだよ。誰かを頼っても。キミには価値がある。例えキミがキミ自身を否定しても、私が肯定する。そなたは美しい。』
どれほど経ったでしょうか。隣にいるのにこちらを振り向きもせず彼女は突然言い放った。あの目立たない校舎の中で私を見つけてくれた。あの時救い出してくれた。私を助けてくれた。価値を見つけ出してくれた。両親以外から初めて誰かに肯定された。価値があると言って貰えた。美しいと。認めて貰えた。私自身が否定してきた私自身を。あぁ、そうか生きていていいんだ...誇っていいんだ。生き方を。容姿を。私を。両親を。家柄を。否定されてきたモノを。
それからは今まで誰にも言った事がなかった思っていた事。辛いこと。苦しかったこと。嫌だったこと。全てを彼女に吐き出しました。その間彼女は、ただただ黙りながら否定も肯定もせず、すすり泣きく私の背中をさすりながら待っていてくれました。私はこの時に初めて今まで1人で抱え込んでいた荷物をやっと降ろせたように思います。
私はあの瞬間を忘れないでしょう。いえ、忘れることはできないのです。あまりにも貴方が眩しすぎたのですから。そして私は──────