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74.つなぐ、つながる

挿絵(By みてみん)

 うーん。実際、自分が“ここ”に立つ日が来るとはね。


 〇〇県〇〇山採石場跡地。

 特撮モノが好きならピンとくるかもね。スーパー戦隊やライダーで一度は目にしたことのある、例の場所だよ。ボカーンと爆発するあそこね。

 ここがね、ジルバが指定しやがった場所なんだよ。


 あいつ、仮面ライダーへの言伝を絵里香にしようとした前例があるし、こっち世界の下調べ、虚構と現実が入り混じってるらしい。〇〇スーパーアリーナと、どっちが良かったかと言えば微妙だよ。



 約束の正午までまだ四半刻ほどある。


 陣頭に立つ人形姫の傍らに、Dr.ボンダンスに絵里香と慎太郎。左右に赤き竜(レッドドラゴン)の西九条氏と、巨人(オーガ)の野田の奥さん。

 背後にはDMの呼び掛けが呼び掛けを呼んで、駆けつけてきた、総勢200人を超えるマモノビトがいて、その数はなおジワジワと増えている。

 正直、彼らがどれだけの戦力になるかは不明だ。マモノのカラダになったとて、中の人は戦った経験なんてない平和民族日本人。訓練された兵士相手に、どこまで戦えるだろう。けど……仲間の存在は、心強く背中を支えてくれる。

「それで、敵がこう来たら」

「決めるぜ、天空マモノ返し」

うん、心強い。


 『魔王』軍侵攻のことは、出掛けにSNSに公開しといた。


 採石場崖上には、報道カメラが既にスタンバっている。この国の政治と官憲がとかく腰が重いのに対し、マスコミのフットワークは呆れるほど軽い。

 所轄の警察は上の指示を待たず、見切りで動き出していて、採石場周辺を封鎖した。どうせ『魔王』がやって来るのだ。現場判断、後は野となれでマモノビトは見て見ぬふりで通してくれているらしい。


 見ると崖の上からカメラマンが人懐っこい笑顔で、崖下に立つ警官がこそっと腰の位置で、こちらに手を振って寄越した。

 


 さあ、泣いても笑ってもこの世界の命運を決める決戦だよ。みんなお祭り気分で参りましょう。いい? 自分は関係ないとは思わないで。

 戦うのは私がやるよ。みんなはそこで見ていて。見守っていて。みんなそこで、私につながっていてね――……




 **********


 ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪


[ヤバス。終わりの始まり始まった]


[ちょ、スーパーヒーロー大戦w]

[うはwwwこれマジのやつwww]

[人形たん可愛いよ人形たん]



[がんばれ]



[人形たんガンバって]

[超ガンガレww]

[負けんな!]

[がんばって!]




 **********


 とあるオフィスビル。昼休みの近づいた事務所で、コワモテの営業部長がぱんぱんと手を鳴らした。

「はい業務連絡―。総務部から通達、午後から帰宅指示出ましたー」

ざわつくオフィスに、深山部長は休憩スペースのテレビにリモコンを向けた。

「スマホ見てとっくにご存じなんだろ? 緊急事態対応だよ、帰れ。でもまあ……別にここに残って観てってもかまわねえよ」


「安治川課長―!」

「うわ、ちょ、コンビニ買い出し何人かついて来て!」

「北浜あ、テキトーに弁当と飲み物とー!」



 深山部長はスーツの内ポケから煙草を取り出し、電子ライターで吸い点けた。

「部長、社内禁煙ですよ」

「うっせえわ。そのコーヒー缶、空なら貸せ」

長々と煙草の先を赤くし、渡された空き缶に灰を落とす。

「固いこと言うな。明日、会社があるかもわからねえんだ」


 ここのオフィスには、誰一人退社した社員はいなかったという。




 **********


 ちりん。


 ドアベルが鳴ったのにも目をくれず、

「お兄ちゃん、あのお人形ちゃんさんが」

カフェの店員さんは銀トレイを抱いて、壁に掛けた液晶テレビのニュースに釘付けになっている。

「何かとんでもないことになったなー……」

「ううむ。世の中どうなってしまうのでござろうか」

来店していたカップルの、男性客の謎の武士言葉をスルーして、店長(マスター)は磨いていたグラスをカウンターに置き、眼鏡を指で押し上げた。


「またのご来店を、きっと。お待ちしています」


 その時は当店からのサービスで、チョコレートパフェと唐揚げ定食を。マスターはすっと鼻の下を指で擦った。




 **********


「秀! 大……ズロースちゃんがテレビに映っとうぞ!」


 安治川老人に大声で呼ばわられ、

「ドロシーローズちゃんな、親父」

秀一郎は長卓の前に腰を下ろした。

「ほー、これがあの大ちゃんかあ」

「めんこくなってもうて、まあ」

「行けー、安治川家男子の意地を見せてやれー」

「よいやっさあッ!」



 弟から「今から『魔王』と決戦だ」と連絡がきた。したら田舎のこと、近所の親戚一同がどばっと集まり、昼日中の酒盛りが始まった。

「秀ちゃん、お皿足りてる?」

女子衆も台所でワイワイとやってる。まるで法事だ。ふむ、世界の運命の懸かった決戦って、こんな感じで見物するもんなのかな?

 秀一郎は長卓から少しクシャった煙草のソフトパックを取り上げ、テレビに映っとう、妹になった弟の白磁の横顔を見つめた。


「負けんなよ、大治郎(だい)




 **********


 ここは聖マーリヤ百合っ子倶楽部筆頭・高麗橋百合子嬢の自室であり、

「百合子氏……」

「うはー……これ明日学校あるんかな」

居合わせるのは登校即下校となり、家の近い百合子ちゃんのとこでクラブ活動に移行した、オタ系リリー嬢とギャル系寧々子嬢のメンバーである。

 報道される非現実的な状況に、寧々子ちゃんが嘆息して見ると、百合子ちゃんは胸の前でぎゅっと両手を組んでいた。


「主よ、神様……どうかお人形さんと、絵里香さん達をお守りください。どうか、神様、どうかお人形さんを……」



 ぽろぽろ涙を零し、祈りを繰り返す親友の姿に、寧々子ちゃんはそう言や自分達の通う女子校がミッション系であることを思い出した。

 見ればリリっちも、百合っちをどうすべきがオロってる。寧々子ちゃんは両手で二人を抱き寄せた。

「あ……」

「ふぁっ、寧々子氏……?」

「見守ろ。あーしらにはそれしかできねーし」


「んでダメだったら、百合子にあーしのバージンくれてやるよ! 世界が滅びる前に何かでテキトーに!」

「え、あ! じゃあ私も何かでテキトーに!」

「うは、拙者は清らかなまま召されようかなー……」


 首をすくめたリリーちゃんに、二人が顔を見合わせて吹き出した。

「ウケる、未開封返品www」

「リリ子、新古品とか」

「うえ? 私の膜ってパッケージのセロファン程度の価値しかないん?」

少女の会話には圧倒的にピュアさが足りないけど、3人で騒いで、何か泣き笑いみたいになる。私らの友情、百合っ子倶楽部は不滅だよね。

 明日も一緒に学校行けたらいいよね。


 あ、でもやっぱ1日くらいは休みになってもろて。




 **********


 駅前大型街頭モニターより。

『えーっと、せーのっ!』


『私達MNBは、お人形たんとマモノビトのみんなを応援していまーす!』


『だから早くメンバーになってー』

『それ今言う?』

『あははー……』




 **********


 夫と子ども達は竜に乗って出て行った。安治川智香は一人、リビングで画面越しに家族の姿を見つめている。


 本当は、自分も行きたかった。あの人の傍にいたかった。だけどそれは、あの人の責任をひとつ増やすことでしょう? 絵里香と慎太郎に行くなと言わない。子どもはお父さんに守ってもらっていい。私は、あなたの弱みにはなりたくない。

「行ってらっしゃい……“ドロシーちゃん”」

「ああ。行ってくるよ、智香」

ひとつ後悔している。数日前、私は言わなくていいことを言った。つまらないことを言ったと思う。けど押し隠していた本心だったとも思う。



 今日私は“ドロシーちゃん”を送り出した。


 今日帰ってくるのはきっと、どんな姿をしていても“私の大治郎さん”だ。



 戦いが始まったら、ここから見守りながら、夕飯の支度をしよう。今夜は豚の角煮だ。

 あの人の好物を用意して、「お帰りなさい」と言おう。


 結婚してから20年が過ぎて、夫はお腹も出てきてたし、加齢臭だってしていたわ。まあこっちも相手のことは言えない。すっかりオバサンね。

 あの人はスーパーマンじゃないの。何回言ってもお風呂マットびちゃびちゃにするし、靴下裏っ返して洗濯機入れるし。私の前で平気でブーするし。付き合ってる時はしなかったよ? しかもめっちゃ臭いし。毎年結婚記念日忘れるし。


 でもね。


 本当に大切な時に、あの人が私の期待を裏切ったことは一度もないの。だから今日、必ず“私の大治郎さん”は帰ってくる。




挿絵(By みてみん)

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