温かい感情
引き続きリーシェ視点です。
「お嬢様は……ッ。いつも、ご自分を大切にされてませんでした」
丸い宝石のような目から、大粒の涙がこぼれた。痛さや辛さで歪むのではなく、静かな波のようにただ後悔だけが押し寄せてくるような、悲しい顔。
「マリー」
ああ、彼女は本当に優しい人なんだ。
「うぅ、ヒック……ッ、記憶喪失になられたのだって、ヒック……ッ、今までの疲れが溜まって、階段から落ちてしまわれたのに……ッ」
「でも、私はこのとおり、大丈夫よ」
マリーの目からは流れる涙は止まるどころか、どんどん溢れ出てくる。小さな口から発せられる声は、どこか震えていて、聞いているだけで、胸が締め付けられるようだ。
私の前世にはいなかったような人。
「いいえ……ッ、いいえ……ッ。私が悪いのです。もっと、お嬢様に頼りにされるようしっかりしていれば……ッ。こんなことには……ッ」
「……。」
彼女は、マリーは心からリーシェを愛していた。それは主人としてかもしれないし、友達としてだったのかもしれない。
羨ましいよ。
初めは常に無理をし続ける貴方の話を聞いて、前世での自分、神崎紅羽が重なった。
他人のために自分の体に鞭を打つくせに、自分の為には何もしない。まるで、社畜だった私。
でもね、
「ありがとうマリー、私を心配してくれて。今度からは頼ってもいい?」
ゴシゴシー
「はい!!!!もちろんです!!」
一瞬、目を丸くして、涙を袖で吹いた彼女は少しぎこちない、でも幸せそうな笑顔を浮かべた。
そっか、
「……。フフッ、これからよろしくねマリー」
「よろしくお願い致します。リーシェお嬢様」
リーシェ、貴方にはあなたを愛してくれる人が沢山いる。
小説のヒロインだからかな。
それでも、誰かに愛されるってこんなに心が温かくなるものなんだ。
前世では、感じることのなかった感情。
なんだかとてもいい気分だ。
この作品はエブリスタでも投稿しています。