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2 ダイがガチだとわかりました

《あの三馬鹿のサイドストーリーはそんな感じだったのですね》


いつの間にか、ダイが帰ってきて、私の横でノートを眺めていた。


「まあ、相変わらず気配がないのね。びっくりしたわ。ところで、どうして日本語なのかしら?」


《その話なんですが、日本語で話せますか》


「え!」


《ここは、王宮内です。どこで誰が聞いているかわかりません。


例えばメイドのマリはオルロー家ではなく王家に雇われています。


つまり、王家に情報を流している可能性があります》


私は少し苦労したが、『日本語でしゃべる』と強く決意すると、頭のスイッチが切り替わったような感じがして、日本語でしゃべることができた。


《今日は忙しいので、私がここにきていることも、内密にお願いします。


さて、私が日本語をしゃべっている理由は、私が日本出身だからですよ。


私は、もともと大田翔太という名前の日本人で、会社員をしていました。


ある日、会社帰りに電車で寝すごして、慌てて飛び起き、知らない駅で降りたのですが、いくら待っても次の電車が来ず、駅の外は真っ暗でしたので、私はやむを得ずホームで横になりました。


そして、朝になって目が覚めたら、体が幼児化した状態で、こちらの世界に来ていたのです。


最初はびっくりしましたが、いろいろあって、大旦那様に拾っていただいたのです》


ダイは、一気にしゃべりながら、いつの間にか横にあったテーブルワゴンにお茶を2杯用意すると、1杯を私の前に置いた。


《いいわよ、私も話したいことがあるから、そこに座りなさい》


私はダイに椅子をすすめた。


《お嬢様、失礼します。たくさんしゃべったのでのどが渇いてしまいました》


ダイはさっさと自分のお茶を飲み始めた。


本来は使用人が主人の前で椅子に座り、飲み食いをするなど許されないのだが、まあ、ダイのこの程度の無礼さには普段から慣れている。


今、ダイが日本から来たと説明したが、ダイのこれまでの行動からすれば、彼がこの世界よりも身分の縛りの少ない日本から来たことはとても納得できる。


私は、あきれながらも、今朝、夢を見て日本人だったことを思い出したこと、ただ自分はライラ=オルロヴァだという意識がはっきりあること、この世界の設定がアルテリア戦記というスマホゲームのものであることを告げた。


《ダイは、アルテリア戦記は知っているかしら》


《もちろん、ぞんじあげております。私、アル戦はやりこんでおりました》




アル戦は、主人公の性別を最初に選べた。

私は女主人公(ヒロイン)で、一方、ダイは男主人公(ヒーロー)でプレイしていた。


どちらの性別でも同じストーリーだが、攻略対象の好感度を上げることで発生するサイドストーリーは同性だと友情エンドが発生しやすくなる分、異性キャラをスカウト、育成するほうが簡単だとネットの攻略情報に載っていた。


もっとも、ダイはあまりSSRランクのキャラの好感度上げはしていなかった。


《ストーリーはほぼスキップいたしました。SSRぐらいならガチャを回してスカウトするほうが速いですからね》


《そうかしら。ガチャだと、SR以上の強いキャラクターを出すのは難しいのではないかしら》


《残念ながらお嬢様、わかっていらっしゃらないとしか申し上げようがございません。


確かに昔はそういったこともありました。


しかし、行政の指導が入り、ガチャは出現確立を必ず表示し、表示どおりにレアキャラを出現させなくてはいけなくなりまして》


ダイはもったいぶって言った。


《まあお嬢様にもわかるように簡単に説明すれば、条件を充たして表示を確認したうえでガチャを引き続ければどんなキャラクターでも必ず出るということです》



私は、何かを察して、遠い目をした。


この人、札束で殴るタイプ(はいかきんしゃ)だ。




ダイはすでに何回か最終攻略しており、攻略掲示板で効率のいい攻略方法を研究していたそうだ。


また、アル戦には、ちょっとしたソシャゲ要素というか、各プレイヤーのキャラクター同士で戦う「スタジアム」という機能もあったのだが、ダイはスタジアムもやりこんでいたという。


《あの、もしかして、ゲームの登録名は「ダイ007」さん、ですか?》


《おや、ご存じでしたか》


ダイ007さんは、スタジアムの底辺をさまよっていた私でも聞いたことがある、世界1位を長期にわたって連続で取り続けていた上位ランカーだ。


《有名でしたよね》


《はは、若気の至りですね。おはずかしい》


《ちなみに、007はかの有名な女王陛下のスパイを意識したお名前でいらっしゃいますか》

私は何となく敬語になりつつ聞いた。


《いえ、リセットした回数でございます》

ダイはさらっと言った。


アル戦は、攻略成功後は登録名を変えれば最初からゲームを進めることができた。

ダイは少なくとも6回、このゲームのラスボスを倒しているのだろう。


私は、ますます遠い目をしながら、こいつ、ガチだと思った。




とはいえ処刑前提の私からすれば、ガチ勢を味方にできれば救われる可能性が上がるのだから、ありがたい。


《では、このままストーリーが進めば、私が処刑され、オルロー家が没落することはご存じかしら。

どうにか回避したいのだけど、回避方法を考えてほしいの》


《もちろんでございます》


《私が謝って、反省して修道院にでも行けば、せめて没落は免れるのかしら》


《お嬢様のお考えはよくわかりました。

ただ、ゲーム的にはあまり良い方法とは思えません》


ダイは、私の提案をばっさり切った。


《でも、私は悪いことをしたのは本当だわ。

家族のことをうわさにして、ミトロヒナ嬢を傷つけてしまった》


実は、オルロー家でツチャビッチ・ミトロヒナ嬢のことを調査した結果、彼女の母親が田舎町で娼婦だったことが判明していた。


事実だけに、ミトロヒナ嬢は、私がビラを貼ったことで深く傷ついたと思う。


《まあ、日本の常識からすれば、やらかしたのは本当ですから反省すべきというお考えはわかります》


《反省してるわ。

だからミトロヒナ嬢に謝りたいし、ゲームのストーリー考えると、私がさっさと退場したほうがオルロー家の傷が浅くすむと思うの》


《お嬢様、お嬢様の覚悟は立派ですが、、、。


そうですね、落ち着いて考えていただきたいのですが、あのカップルは、自分のミスはなかったことにする一方、他人のミスは許さない方々です。


自分たちは婚約者であるお嬢様を平気でないがしろにしてイチャイチャしているくせに、お嬢様がなにかやらかせば、すぐ不敬だ処刑だ追放だと言い出すでしょう。


そんなお二人に自分の非を認めて謝って、お嬢様だけさっさと退場してスローライフ送ろうとかたくらむとか、何も手立てを持たずに地雷原に突っ込んでいくようなものでございます。


結果、オルロー家が没落するようなことがあれば、オルロー家に勤めている私からすれば、迷惑極まりありません》


むむむ、正論ね。



ダイは時計を見ながら言った。


《私はそろそろ戻らないと、どこに行っていたのかと怪しまれてしまいそうなので、失礼させていただきます。


ただ、そうですね、お嬢様、謝らないという方針は、ゲーム的には正解です。


私のおすすめ攻略方法は、断罪されつつ、お嬢様を没落させないルートでした》


《え、そんなルートがあるの》


《はい。


詳しくはストーリーをスキップしていたのでわかりません。


しかし、断罪されるお嬢様を卒業パーティで救済すれば、没落しない上、お嬢様が覚醒したはずです》


《そこ、詳しく》


《そうですね。


また明日にでもお話しに来るのでよろしいでしょうか。


そろそろ、マリが何かかぎつけるかもしれませんからね。


ただ、そうですね、お嬢様は変に落ち込んでいるようですから手短にお伝えしますが、お嬢様のランクはUR(ウルトラレア)です。


大丈夫、お嬢様はやればできる子です》


《え、ちょっと、そこくわしく!》


私は食い下がったが、ダイはそろそろ戻らないとキアラに叱られるなどと言ったため、やむをえず私はダイに退出を許した。




確かに、このコテージでは使用人の数が少ないため、ダイは雑用を一手に引き受けており、忙しそうだ。


しかし、いいところで話を切り上げたわね。悔しいけど、めちゃくちゃ気になるわ。


私は、体調不良だとキアラに言ったことを思い出し、ベッドに横になった。


2022.07.10 読みにくい箇所と改行を修正しました。

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