1 心配です
何もすることがない。
王子妃教育はとっくに終了し、婚約は無事解消され、最優秀生徒にならなくても問題を回避できそうな状況になり、リタは無事卒業できそうだし、温泉の件は進んでいないから特にやることもない。
そもそも、イヴァン殿下の婚約者ではなくなった以上、王宮にいる意味もない。
一方、気になることがあるため、オルロー領に引っ込む準備をするとか、何か趣味になりそうなことを探してみるという気力もわかない。
気になること、というのは、エンシェントドラゴンが領地を襲わないかということだ。
おととい、オルロー領にあるエンシェントドラゴンのなわばりに人間が入り込んだことをダイが知らせてくれた。
その後、おじいさまが、森の貴婦人ことエンシェントドラゴンのことを教えてくれた。
何代か前のオルロー家の当主が、エンシェントドラゴンが領内に棲み始めたことに気が付き、住民の安全を守るために近辺の森を立ち入り禁止にした。
10年程前、ダイがこちらに来た際に、森の貴婦人がおじいさまに連絡してきた。
そこで、おじいさまと森の貴婦人は、彼女が人を殺さないことを条件として、おじいさまはその範囲には彼女が許した人間以外は立ち入りさせないことを約束したのだそうだ。
おとといの時点では、勝手に入った人間たちは、森の貴婦人がかけた目くらましの魔法により森の中をうろうろしているだけのようだが、人間が立ち入ってしまった以上、こちらの約束違反だ。
おじいさまは、森の貴婦人がお怒りになって入り込んだ人間を襲うのみならず、そのまま暴走してしまい、近隣の村や町に被害が及ぶことを心配していらした。
ダイによれば、幸いなことに、森の貴婦人は今のところ「変な奴らだね、いらいらするよ」と言って我慢してくださっているようだが、ドラゴンは気まぐれなので、いつ怒り出すかわからないということだった。
ダイが近くで世話をしていれば、多少気がまぎれるかもしれないというので、ダイは、オルロー領にいるお父様に危険を知らせた後、森の貴婦人のそばにいて、彼女のお世話をすることになっている。
一方、おじいさまは、昨日、私兵団長のジェコフス伯爵を連れ、急遽、領地に向かわれた。
私は、森の貴婦人が暴走するなどした場合はタウンハウスに連絡が来ることになっているので、王家にドラゴン討伐兵団の派遣依頼をするなどの連絡調整業務を行うことになっている。
昨日は、キアラやタウンハウスの執事にも事情を説明して、どういった連絡があった時にどうするか、ひたすらシミュレーションしていた。
あと、執事の勧めもあって、王にだけ密かに連絡し、オルロー領に住み着いているドラゴンの巣の近くに入り込んだ人間がいると説明しておいた。
おじいさまと森の貴婦人の約束については秘密だ。
もう、待つだけしかやることがない。
オルロー領は、領民たちは、お父様、お母様、おばあさまは、そして急いで帰ったおじいさまは大丈夫だろうか。
ダイからは、今のところ、何の連絡もない。
ダイは転移ができるから、本当に危なくなれば、すぐに帰ってくると思うから、便りがないのはいい便りと思いたいけれど、逃げる暇もなく森の貴婦人に殺されてしまえば転移もできない。
ダイは、森の貴婦人と親しい様子だけれど、ダイの友人でダウリポリのルカという冒険者がこの件に関与している可能性もあり、そうすれば、ルカを森の貴婦人の巣まで連れて行ったダイの失態だ。
森の貴婦人は怒っているかもしれない。
心配だわ。暇だと悪いことばかり考えてしまう。
気分を変えるため、スビートを撫でてやろうと思って探す。
スビートは、ソファの上で自分のお尻をなめているうちに、夢中になってしまったようで身を乗り出しすぎて転がり、ソファから転落したところだった。
う、うちの猫が、おばかで、かわいい。
スビートは、びっくりしていたが、何もなかったようなふりをして手をなめ始めた。
「スビート、大丈夫?」
「なんのこと?
僕は、こうやって身づくろいしているだけだよ。僕は清潔好きなんだ」
「はいはい」
心配ばかりしていてもしょうがないわ。
清潔好き、と自分から言い出したのだから、今日はスビートを丁寧にブラッシングしてあげようかな。
ライラは、無・無属性のスキル持ちなので、ショックに強いぶん、鈍いところがあります。




