3 政略的なプロポーズ
「では、私と結婚しないか?」
いきなりプロポーズされたのだもの、ショックに強いはずの私は固まってしまい、先生を見つめるしかできない。
沈黙したまま、時間が過ぎていく。
やがて、レオニード先生は、何かに気が付いたように少し慌てて言った。
「ああ、その、恋愛とかそういう意味ではないよ。これでも教師だ。生徒に手を出してはいけないことぐらい十分わかっている。
君ならとっくに知っているかもしれないが、私はピョートル、第一王子だ。
今、政務官見習いをしつつ、学園で教師も兼任している。
私にも事情がある。私たちの結婚は、お互いの問題を解決することができるいい方策だと思う」
「教えてくださったからには、王族への礼を取るべきかしら?」
私は、とっさに立ち上がってカーテシーをしそうになった自分を抑えて言った。
そんなことをすれば、私が先生の正体に気がついていなかったことがばれてしまう。
「いや、かまわないよ。学園の中では、みな平等だという建前だからね」
「事情、とは?
あと、オルロー公爵がいないこの場で私が了承することはできませんよ」
私はくぎを刺しつつ、聞いてみた。
レオニード先生、ことピョートル殿下は、あたりを見回すと声をひそめて言った。
「そうだね、知っている内容も多いと思うが、私の母は帝国の属国の王女だった。
母は、アルテリア王国とディアス帝国の友好関係を深めるためにと請われて嫁いできた。
だが、独自派と言われるアルテリア王国の独自性を大切に思う立場の貴族はそれが面白くなかったようだ。
王陛下は、独自派をなだめるために、独自派の派閥から側妃を娶った。
それが現在の王妃殿下だ。
しかし、独自派はそのことで増長したようだ。
王陛下に、古代から続くアルテリア王国の精神のすばらしさや、聖霊とのつながりを尊重すべきと主張し、ディアス帝国と対立しようとしている。
オルロー公爵家、特に君への対応も、ディアス帝国を警戒する彼らの思惑が働いている。
だが、私としては、アルテリア王国とディアス帝国の国力の差は明らかで、我が国が属国にされていないのは、聖獣ザラトーリェーフとのつながりを尊重されていること、そしてオルロー公爵が間に入って仲介してくださっていること、さらに彼らの領土が広くなりすぎて他国に興味をなくしているからにすぎないと思っている。
私なら、もっとオルロー公爵家を尊重するだろう。
オルロー公爵の大切な姫が妻になり、後ろ盾となってくれるなら、より一層だ。
どうだろう、我々が手を結ぶ理由があると思わないか?」
ゲームのストーリーを知らなければ、わざわざ王家がオルロー公爵家にちょっかいを出すとは思わなかっただろう。
だが、今、ピョートル殿下がおっしゃった話は、URキャラクターが全て覚醒しなければオルロー公爵家が没落し、我が領地でディアス帝国とアルテリア王国が戦うというゲームストーリーと一致している。
「おじいさまに相談してみます」
「もちろんだ。
だが、君が嫌がっているのに婚約を申し込むのは私も嫌だ。
君の印象でいいよ、私との結婚はありかなしかだけでも教えてくれないか」
「急なお話ですので」
「もちろん、ついさっきまで教師だった男にいきなり結婚を申し込まれても困るとは思う。
だが、お互いにとってメリットしかないだろう。少し考えてみてくれないか」
うわ、めんどうくさいわね。これ、前世だとナンパっていうのかしら。
ただ、残念ながら、色っぽい話ではなく、ガチガチの政略だけど。
「魅力的なお申し出ありがとうございます。おじいさまに相談してみますね」
職場の人間関係に疲れたら読む本に、『できないことを求められたら、笑顔できっぱり断りましょう』と書いてあったことを思い出し、笑顔で言うとようやく、レオニード先生、いやピョートル殿下は帰ってくださった。
相談するためにダイを呼ぶが、ダイは今日お休みらしい。
キアラは、代わりに台所に入り込んでお茶を飲んでいたらしいアンドレ先生を連れてきてくれた。
「ライラちゃん、大丈夫だった?
レオニード先生、なんだか思いつめた様子だったから、変なことしないか心配していたのよ」
「そんな、キアラが様子を見てくれていたので大丈夫です」
そう、キアラは部屋の隅で控えてくれていた。
「ライラ様、実は、途中から魔道具が使われたようで、話の内容は全く聞こえませんでした。
お客様がなにか激しい感じでおっしゃっていたようでしたので、心配していました」
とキアラが教えてくれた。
さすがにピョートル殿下はぬかりないわね。
「心配してくれてありがとう。大丈夫よ。
レオニード先生が思いつめていたって、どういう感じだったのですか」
アンドレ先生がおっしゃった。
「ここに来る前、ぶつぶつ独り言を言ったり、赤くなったり青くなったりしていたわ」
「そうですか、ありがとうございます」
ピョートル殿下が何を考えているのか、全くわからないわ。




