2 ダイの休日2
前話の続きでダイに関する話です。
二人は森の中に移動していた。
「今度はどこだよ。報告って、こんなところに人いないだろ」
「ここから先は、ギルドの完了証がないと入れないよ」
ダイはギルドでもらった書類を振って見せた。
依頼書は魔法の効力で、達成した依頼事項にチェックがついており、完了証になっていた。
ダイはブーツに履き替えて千里靴をルカに返すと、まっすぐ歩き始めた。
「道はないけど大丈夫なのか」
「完了証があれば、どんな方向に歩いていこうがたどり着くさ。怖いなら待っていてくれていいよ」
「まさか、置いていかれるほうがいやだよ」
10分ほど歩くと、いきなり目の前に白い石でできた館が現れた。
ダイが扉をたたくと、「おはいり」というしわがれた声が聞こえた。
扉の向こうは洞窟の中のようだ。ランプがあちこちにともっており、奥に金や宝石が輝いている。
そして、財宝の手前に白いドラゴンが横たわっていた。
固まるルカをよそに、ダイが話しかけた。
「ばあさん、ひさしぶり」
「お前みたいな孫を持った覚えはないね」ドラゴンがしわがれた声で答えた。
「はは、ゴブリンの巣は潰しておいたよ。
あと、魔素の発生源も回収しておいたから、当分、あの場所に魔物が湧くのは抑えられると思うよ」
ダイが銀色の丸いものを差し出すと、ドラゴンは鼻で笑った。
「そりゃ、あたしの鼻くそだ。くしゃみをした時に飛んで行ったみたいだね」
「え、汚ね」
ダイが鼻くそを取り落とす。
「ついでに掃除していきな、報酬もそこら辺に落ちているはずさ」
「ばあさん、相変わらずひどいな。
じゃあ、ルカは、この袋持って、そこら辺に落ちている銀貨を拾っていって。
まだ光っている銀貨や銀貨じゃない物があったら、念のためばあさんに見せてもらっていいか聞いてみて。
ばあさん、ごみは外で燃やす。俺はいつも来られるわけじゃないから、散らかすなよ」
「はいはい、口うるさい孫だよ」
「ちょーーっと待ったー!知り合いなの?え、ショータとドラゴンさん知り合いなの?」
ルカが口をはさんだ。
「いろいろあって、昔世話になった。その関係で、時々掃除をしに来ている」
「こいつがうちに来るのは、何か聞きたいことがあるときだけさ」
ドラゴンが茶々を入れると、ダイもふざけながらドラゴンを持ち上げる。
「ばあさんは、太古から伝えられる知恵の権化だからね」
ダイはどこからともなくほうきとチリとり、ごみ袋を取り出して掃除を始めた。
ルカがあたりを見回していると、ダイが突っ込んだ。
「さっさと拾って」
掃除を始めてしばらく経ったころ、ルカはドラゴンに話しかけた。
「失礼、ドラゴンさんのお名前は、「アン」さんですか?」
「え、なんだいそれ?」
「依頼書の依頼主の欄に書いてあった名前です」
「ああ、なんか私のことを人間はエンシェントドラゴンって呼ぶと聞いたからね。短く書いたのさ。
まあ、アンって呼んでくれていいよ」
「え、エンシェントドラゴン、さん」
「世界創造時生まれだからね」
「あ、俺、今、エンシェントドラゴンさんというか、アンさんの調査の依頼を受けている途中だったんですけど、今まで全然手掛かりがなくて困っていたところでした。お会いできて光栄です。
あれ、でも、この依頼は、討伐の事前調査なのかな。この情報は言ってはダメでしたね」
「ふん、それを私に言うのはマヌケな話だよ。
まあ、血気盛んな奴らは私を討伐したがるのかもしれないけれど、ここにたどり着ける奴がまずいないからね、どう報告されようが一緒さ」
「そうですよね、アンさんはこうやって普通に話ができるし、討伐なんて失礼ですよね」
「ただ、ドラゴンがいると、魔素が発生する。
そして、魔素のよどみから、ゴブリンみたいな魔獣が発生してしまうので、昔からたくさんのドラゴンが討伐対象になったね。
あと、ドラゴンは情が深いからね、何かの拍子に子供や番が死んだ時なんか、悲しみのあまり暴れてしまうドラゴンもいる。そうなると、人間から見れば災厄そのものだからね。
ドラゴンはそれこそ1000年に1回ぐらいしか子供を産まないし、そうなると子供たちが番える相手と出会う機会が少なくなるし、ドラゴン種はこのまま滅びるのかもしれないね」
アンが言うと、ダイも話に加わった。
「今は、大気中に魔素があるから魔法が使える。
しかし、ドラゴンが絶滅してしまうと、魔法が使えなくなる可能性がある。
当面は、魔石があるから魔道具を使えば生活は維持できるだろうけど、それも限りがあるよ。
俺は、実は、そうだな、ドラゴンがいない、魔素が存在しない世界から来たんだ。
そこでは、自然界の物理的な力だけを使って生活していた。
こちらから見れば信じられないだろうけど、物理的な力だけでも、十分、いやこの世界よりも生活面では便利だったかもしれない。魔獣もいなかったし。
だが、どちらがいい世界かと言われたら、選べないな。
ドラゴンが絶滅しても世界は続いていくだろう。
ただ、ドラゴンが絶滅した世界は、今の世界ではない。
今の世界は、剣と魔法で魔獣と戦い、ダンジョンで宝物をドロップさせ、冒険者が跋扈する世界で、ドラゴンがいない世界は、そういう世界じゃないんだ」
「そうか。
・・・この依頼の報告はどういう内容にするか、考えてみるよ」
「ふん、討伐隊なんて、返り討ちさ」
「ばあさん、そうやるとまた別の討伐隊が来てうるさくなるぞ」
ダイがいさめると、アンは、そうだね、と納得し、ダイに討伐したゴブリンの巣の様子を聞き始めた。
ダイがゴブリンジェネラルまで発生していたと報告すると、アンは興奮して言った。
「ゴブリンメイジにジェネラルか、あいつら、あたしの魔素をくすねて湧くくせに、羽振りがいいじゃないか!
そのくせ、あたしのテリトリーに住み着いて動物を食ったり、人間を追いかけたり、うるさいよ。
挙句の果てに、あたしが前に隠しておいた財宝に気が付いて取りに行こうとしていたみたいでね。
いいかい、あたしは、たった、こーーーれーーえぽっちであっても、あんな奴らに、あたしのお宝をくれてやる気はないのさ」
アンが「これっぽっち」を強調して言ったため、ルカはおずおずと聞いた。
「すいません、銀貨をたくさん拾ってしまいましたが、こちらはよろしかったでしょうか」
「は、そんなの、もうピカピカしてないからどうでもいいわ、ほら、これも」
アンは、財宝の山から鈍い輝きを放つ銀貨をつまみ上げると、嫌そうにぽいっと投げてよこした。
「ええ、これだけでも金貨50枚分ぐらいはありますよ」
「ふん、つまらないことを言うね」
ダイが横から口を出す。
「ばあさん、銀は磨かないと、ほら」
ダイは銀貨を拾い、ベストから取り出した端切れで磨いた。銀貨がきらめきを取り戻すと、アンは欲深そうに笑った。
「へえ、そうなのかい。銀は磨くときれいだね」
「前も銀は磨くものだって言っただろ。そら、掃除が終わったから、あっちにある銀食器も少し磨いておくよ。
それも終わったら、外で焚火だ。何か食べたいものはあるか」
ダイが銀貨をドラゴンに投げると、ドラゴンは嬉しそうに受け止め、そっと財宝の山のてっぺんに置いた。
「なんでもいいよ、あんたが作るご飯はおいしいからね」
その頃のライラ
昼食後は、護身術の訓練をして、疲れたらスビートをもふって癒されています。




