3 猫を保護しました
まだゲームの話は出てきません。
帰り道、なんだか悲しい気持ちになってしまいましたわ。
猫を取り返せば、マルガリータも少しは元気になるのかしら。
そんな時、微かに声が聞こえた。
なにかしら。
あからさまに嫌な顔をするダイを無視して、少し道をそれ、草むらを突き進み近づいてみる。
黄色い猫が高い木の枝に登っていた。
「ダイ、ほら、猫よ。
もしかしたら、マルガリータが言っていた猫かしら。
あの猫を捕まえなさい。
えさを見せたら寄ってこないかしら」
「お嬢様、これからは猫を見つける前に魚を見つけてくださいませ」
ダイはさらっと嫌味を言いつつ、どこからともなく干し肉を取り出した。
「あら、いいものをお持ちね」
「侍従のたしなみでございますので」
ダイは干し肉を猫に見せびらかすよう、高く掲げて振っていたが、ふと気が付いたように言った。
「あの猫は降りられないのではありませんか」
「え?自分で登っているのに降りられないの?
猫なのに、そんなまぬけなことがあるのかしら」
猫はひときわ大きく鳴いた。
「あら、本当に降りられないのかもしれないわね。
猫ちゃん、そこでじっとしているのよ。
さあ、ダイ、助けてあげなさい」
ダイは、おおげさに首を振っていやいやながらやるのだとアピールすると、少し飛び上がって枝をつかみ、そのままひょいひょい登って、猫の腹の下に手を入れて持ち上げた。
猫はじっとしている。
「おや、木から降りられなくなるような子猫にしては、かなり大きいですね」
ダイは2階建てぐらいの高さの枝からひょいと飛び降ると、私に猫を放り投げた。
猫は人間の赤ん坊ぐらいの大きさで、私にしがみついて震えたまま、大人しくしていた。
「あら、かわいそうに。よしよし。
猫ちゃん、お腹すいていないかしら。お肉を召し上がれ」
猫は私に抱かれたまま、おずおずと干し肉をかじろうとした。
「それ、私の非常食ですけどね」
「ちょっと、猫ちゃんがおびえてしまうでしょう」
「あの、お姉さま、その猫を助けてくれてありがとうございます」
いつの間にか、女の子が近づいてきて、話しかけてきた。
制服を着ているから、王立学園の学生のようね。
下級生が上級生に話しかけるときは、お兄さま、お姉さまと呼びかけることが王立学園では一般的だ。
「あら、いいのよ。この猫のことを知っているの?」
「その猫は、前からこの辺でよく見かけていて気になっていました。
飼っている人はいないみたいです。
今日、別のお姉さまがその子を抱いて学園に行こうとしていたのだけれど、その猫が暴れて逃げ出して、この木に登ってしまったのです。
そのお姉さまは、しばらく木の下で猫に文句を言っていたのだけれど、猫が怖がってどんどん登って行ったから、あきらめたみたい。
私は、心配で、授業が終わったから、すぐ戻ってきたの」
女の子は、まだ幼く、つたないところもあるが、一生懸命教えてくれた。
「その上級生の方、乱暴ね。
猫ちゃんも安心できないわね。
どんな方かしら」
私は、嫌な予感を感じつつ、できるだけ優しく聞いた。
「そのお姉さまは、ピンクの髪で、その、、、」と女の子は戸惑ったように口ごもった。
「とてもおかしな、短いスカートをはいていたわ」
「ああ」
私はうめいた。
まちがいない。ミトロヒナ嬢だ。
「ごめんなさい、あの方には話が通じそうもないわ」
「その猫、また狙われるかも」
私は少し考えて言った。
「でしたら、私のコテージでこの猫ちゃんを飼いましょう。
あなたも心配でしょうから、時々様子を見にいらっしゃい」
女の子は、コテージの場所を聞くと驚いた様子で言った。
「失礼いたしました。
王子様の婚約者ライラ・オルロヴァ公爵令嬢様だったのですね。
気が付かなくて、ごめんなさい」
私は大いに気を良くした。やはり、丁重に扱われるのは気分が良い。
女の子は、トニア・ハーリングと名乗った。
ということはハーリング子爵のご息女かしら。
入学したばかりの1年生らしい。
「遠慮しなくてもいいのよ。
私、一人っ子だから、ずっと妹が欲しかったの。
よかったら、ライラお姉さまと呼んでくださるかしら。
私もトニアって呼ぶわ。
今まで、この猫をかわいがってくれていたのですから、いつでも遊びにいらしてちょうだいね」
私はいかにも優しいお姉さんという感じでトニアに声をかけた。
「はい、ライラお姉さま」
トニアは、なんだか不思議そうな顔をしていたが、何も言わずに帰っていった。
おそらくダイは、めんどうくさそうにしているだろうと思い、そちらを見ると、ダイは珍しく何か考え込んでいる様子で何も言わなかった。
2022.07.09 読みにくい箇所及び改行を修正しました。




