3 許せませんわ
私はあることに気付いて真っ青になった。
《もしかして、ノーマルモードのミッションが発生する場所の名前って、オルロー公爵家の領地の標準表記かしら》
例えば、私たちが「ソトローミチ」と呼ぶ場所について、方言ではなく標準語で表記すれば、「ソトロヴァ」になる。
そして、ソトロヴァは、私がやったノーマルモードのアル戦でミッションが行われた場所だ。
ミッションの内容は、戦争で敵の陣地を奪うことだった。
《ええ、私もこちらに来てから気が付きました。
ノーマルモードの戦場は、オルロー公爵領です。
訓練などではなく、本当の戦争だったのです。
まあ、確かに婚約破棄とオルロー家の爵位剝奪がなされれば、アルテリアがディエゴと戦争になることは避けられないでしょう。
オルロー家こそ、ディアス帝国とアルテリア王国の外交の要ですから》
オルロー家は、アルテリアの初代王の弟が、ディアスとの国境を守るために国境となっている河と山脈の間にある領地を下賜されて興した。
領地は、アルテリアの王都とは峻厳な山脈で隔てられているが、ディアスとの間には河が流れているだけなので、どちらかと言えば、領民はディアスとの交流が多く、文化も似ている。
方言もディアスの言葉に近い。
そういったこともあり、オルロー家はディアスと交流があり、複数のパイプを持っている。
だからこそ、アルテリア王国とディアス帝国とが対立した時には、その橋渡しをしてきた。
そのパイプの一つがおばあさまだ。
ディアス皇家の第三皇女だったおばあさまは、おじいさまがアルテリアの使者としてディアスに来た際に一目ぼれし、そのまま結婚した。
アルテリアの王家の流れを汲むおじいさまとおばあさまとの結婚が成立したことで、当時対立していた通商関係の外交問題を解決するための交渉が進んだと聞いている。
今後も何か対立があったとしても、オルロー家が中に入って交渉することで戦争を回避できる可能性は高い。
そして第三王子であるイヴァン殿下と私との結婚は、より両国の仲を深めるためのものであり、オルロー家の背後にいるのはディアス皇帝だ。
このような状態で、一方的にアルテリア王家がオルロー家に婚約破棄を突きつけ、爵位を剥奪すれば、ディアスがアルテリアに宣戦布告する理由としては十分だ。
「あきれた。
イヴァン殿下ときたら、アル戦では、民を守るためにとか言ってかっこつけて戦っていらしたけれど、戦争の原因は彼の婚約破棄だったってことかしら。
しかも、いくつかのミッションの舞台になっていた地名に見覚えがあるわ。
つまり、戦場はオルロー領で、戦争で難民になるのはわがオルロー領民ということね。」
私は、自分の思い付きに震えた。
そんなことは許せない。
7歳までしか生活できなかったけれど、オルロー領は、ゆるやかに流れる大河のほとりに、どこまでも畑が広がる、大切な私のふるさとだ。
《私も同じ気持ちです。
まあ、あのゲームを遊んでいるだけでは背景事情がわかりませんから、気が付くこともありませんでしたが》
《どうしよう。イヴァン殿下とツチャビッチ・ミトロヒナ嬢の様子を見ていれば、婚約破棄は避けられないわ。
あと、私はミトロヒナ嬢の悪口を言いふらしていたのだから、断罪の理由もある》
《断罪イベントは起きてくれないと、お嬢様が覚醒しませんし、ハードモードへの道も開きません。
だから、今のルートであってます。
それに断罪の結果も、たいしたことにならないのではありませんか。
お嬢様は私の矯正教育の甲斐あって、ゲームのライラよりよっぽどましな性格をしてらっしゃいますからね》
《そうならいいんだけれど。
って、矯正教育とはどういうことよ!》
《言葉の通りでございます。
ゲームではお嬢様の性格の悪さが婚約破棄の原因だということではありませんか。
しかし、お嬢様は現在、多少盛られてはおりますが、年配の王族や貴族たちからは淑女の鑑と意外に人気がありますよ》
《そうなの》
《ええ、私には世間の皆様の人を見る目が腐りきっているとしか思えませんが、本当です》
ダイは、にやりと笑った。
《お嬢様は、押しつけがましい人だと受け止められがちですので、同年代の生徒たちは、尊敬しつつも遠ざけるという感じであまり親しい者はいません。
しかし、上の世代には、お嬢様は、成績優秀、マナーもばっちりで心優しい淑女のお手本と言われてほめはやされており、王族の受けもいいです。
そういったお嬢様の能力や人気に加え、ディアスとの関係を考えれば、お嬢様を断罪しても処刑まではしないと思います》
《そう》
私は、笑った。
いつもの、ダイの軽口を聞いた時と同じように。
けれども、確かに、ツキリ、と胸の奥で、音がしたような気がしていた。
その時、マリがドアをノックし、夕食の用意ができたと告げた。私たちは会話を止め、それぞれの生活に戻った。
夜、ベッドの中で、ぐちゃぐちゃと考えてしまう。
私は、ダイのことを使用人兼兄兼友人のように思っている。
だが、ダイにとっては、私は、矯正教育が必要なゲームの中のキャラクターに過ぎなかったのだわ。
私は、この世界に生まれて、今までライラ・オルロヴァとして生きてきた。
ライラとしての感情や、プライド、価値観を持っている。
私は、ダイに、自分を否定されたように感じている。
そこで、私はふと気づいた。
《あれ、私がどんなスキルを持っているのか、聞いていなかったわ。
URキャラだとすると、結構いいスキルを授かるということかしら。
もう、私、優秀すぎですわ》
とたんに気分がよくなった。
今まで、スキルを授かっていないことで、悔しい思いをしたり、成績評価で不利に扱われたりととても気にしていたのだ。
しかし、我ながら、ぱっと気持ちを切り替えられるというか、図太いというか。
私は、悪役は悪役でも、悪役令嬢より、倒されても倒されても次回は復活しているヒーローものの悪役、例えばショッ〇ーとかド〇ンジョ様のほうが向いているのではないかしら。
考えてもしょうがない。
明日、ダイに聞いてみよう。私は、そう決めるとさっさと眠った。
地名、人名は雰囲気です。
2022.07.10 読みにくい箇所と改行を修正しました。




