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第1話 泣きっツラに蜂

「ぐすっ......。冶已(やみ)くん、ごめんね。やっぱり、私じゃ、あなたの心を手に入れられなかったんだね。あの人(・・・)の方が......。夢を見せてくれてありがと......それじゃっ」


「あっ......ちょっ......」


たったったっと僕の横を涙をこぼしながら走りすぎていく彼女、いやたった今、元彼女になった女性を、ただ呆然と見送る。


バタン。


彼女が出ていった屋上の出口扉が音を立てて乱雑に閉じられる。


「な、なんで......なんですか......」


その音に僕の情けない呟きはかき消された。




はぁぁぁ〜、また振られてしまいました。

まぁ、今回も僕が悪いんだとは思うんですけどね。


人に振られるってのは、何回経験しても悲しいんですよね。

でも何が1番悲しいって、振られたことそのものより、振られたのにあんまり心が傷んでない自分の薄情さ......なんですよね。


告白してもらったときから、たった1ヶ月のお付き合いでしたけど、やっぱり今回も僕には恋とか愛とかわからないまま、彼女を傷つけてしまいました。



*****



「や、冶已くん!ずっと前から好きでした!私と、お付き合いしてもらえませんか!?」


顔を赤くして、声を裏返しながら告げてくれた姿は、素直に可愛らしいと思いました。

だからそのお誘いにのることもやぶさかじゃないんです。


「ありがとうございます。素敵な告白をしていただいて、心から嬉しく思います。ですから、お付き合いの件、前向きに考えさせていただきたいんですが......」


「ほっ、ほんとですか!?」


「あ、あぁ、はい、本当です。ただ......」


ただ、いつもと同じように、これだけは事前に言っておかないといけない。

目の前のこの子のために、それと僕自身の保身のために。


「本当にすみません。僕は現時点であなたことを『好き』だとか『愛している』と思うことはできていません」


「あっ......そう、なんですか」


あぁ。露骨に落ち込んでしまった。


「はい、すみません。ですが、さっき告白をしていただいたときの照れたお姿なんかは、とても可愛らしいと思いました」


「......え?」


「えっと、ですから、これからお付き合いさせていただいて、好きになっていけたらいいなって、思っています。そんな感じでもよろしければ、ぜひ僕とお付き合いしていただけないでしょうか?」




いつも、告白されるたびに僕が必ずお相手に伝えているのは、この正直な気持ち。


僕、冶已流波(やみみずは)には、愛とか恋とかが分からぬ。なんてね。

いや、わからないのは本当。




僕が高校に入学してすでに半年が経ちました。

周りのみんなは日々、誰が可愛いだとか誰が好きだとかそんな話に花を咲かせてます。


僕もできるだけにこやかに笑ってみなさんの話を聞きながら調子を合わせますけど、正直、心の中ではその気持ちに共感できていません。


不器用なせいで、部活と勉強でいっぱいいっぱいで、他のことにうまく意識を向けられないからでしょうか。

恋愛というものに対して、みなさんほどアツくなれないんですよねぇ。



でも、決して興味がないわけではありません。

人並みに女性にも関心がありますから、今回のように告白していただければ素直に嬉しくなりますし、その気にもなるというものです。


そういうわけで、僕は誰かからいただいた告白は、そのときにお付き合いさせていただいている方がいない限りは、ほとんどどなたからでもお受けするようにしています。

もちろん、あまりにも将来に渡って愛情を抱くビジョンが見えそうもない方に対しては、その限りではなく、申し訳ないですけどお断りさせていただいていますけどね?


ただ、そんな浮ついた気持ちでお受けするわけなので、お付き合いさせていただくにあたって僕の方からお相手の方に特別強い想いを抱いているわけではありません。

ですから、両思いから始めさせていただくことができないことに、申し訳なさを感じています。


相手の方に誠実にいるために、告白をお受けする際にはそういう僕自身の考えを明確にお伝えした上で、それでもお付き合いしていただけるのかを確認するようにしているわけです。



「は、はい!もちろんです!頑張って冶已くんに振り向いてもらえるようにがんばります!よろしくおねがいします!」



今の所、僕の気持ちをお伝えしたからと言って、こんな感じで告白をキャンセルされることはなく、前向きなお返事をくださるかたばかりなのですが。


「はい、こちらこそ、どうぞよろしくおねがいします」



*****




と、今回のお相手とのお付き合いが始まったのは1ヶ月前。


結局、僕がその方に十分な愛情を注いであげられず、相手を傷つけただけのお付き合いだったらしく、振られてしまったというわけです。


「それにしても、『夢を見せてくれてありがとう』なんて、いつもそんなことを言われてしまいますけど、余計に罪悪感が大きくなりますよね。僕はなにもしてあげられてないのに」



そう、僕はなにもしてあげられていない。



週末に一緒に遊びにいったり、お昼ごはんを一緒にとったり、送り迎えをさせてもらうくらい。


そんな甲斐性なしだから、振られてしまうのはしょうがないと思う。



ただ......今回振られたときのお言葉にもあった『あの人』ってなんなんでしょうか。

これまでの方にも同じように、誰かと比べてみなさん自身を卑下するようなことを言われましたが......。


特にそうした心当たりのある方はいないのですが......。




振られたこと、お相手を傷つけたことに悶々としながら屋上からの階段を下りる。

一旦、1階にある(1年)の教室に帰って荷物をとってから部活に行こうとしてる途中。


3階を通り過ぎようとしたあたりで、ふと聞き慣れた声が聞こえてきた。



「......なん......よ............いつ......求め......なんです」


きゃーーーーーー!!!!!!



ぼんやりと、途切れ途切れな音声ですけど、それなりに聞き慣れた美声なので、多分聞き間違えません。

その声に続く黄色い声。


なにやら珍しく女性たちですごく盛り上がるような話題が展開されている模様。


普段なら声が聞こえてもスルーするところですけど、少しだけ興味が湧いてきました。

部活に顔を出す前にちょっとだけ覗いていきましょう。




教室外、ドアの隙間から覗き込むと、見知った顔と数名の女生徒が机を囲んで雑談をしていた。



「そうなんです。みーくんってば、私が告白されるたびに不安になるのか、私を家に呼んでご飯を食べさせるんです。そのご飯に睡眠薬を盛って、眠ってる私にいたずら(・・・・)するんですよ〜」


どうやら話題の中心にいるのは、さっき聞こえた聞き馴染みのある声の持ち主。

僕の姉さんの友達。そして、2歳年上の幼馴染のお姉さんである鬼門紅雨(きもんこうう)さん。


全体を黒にしてその内側にシルバーを入れた腰まで伸びたきれいな髪に、165cmスラッとしたスタイル。

普段から誰に対しても丁寧語で話す姿から、清楚代表として知られる令嬢。


みーくんというのは、僕のあだ名。流波(みずは)だから、『みーくん』らしいです。



........................いや、それどころじゃないですよね!?なんですか!?睡眠薬!?いたずら!?そんなことしたことありませんけど!?



「ひゃー!冶已くんってそういうところも可愛いねぇ!ちなみに紅雨(こうう)ちゃん、いたずらって具体的にはどういう?」


「それは......もちろん、交尾です。避妊具も着けずに、私のお腹の中に遠慮なく出していくんです。私が睡眠薬に気づいて摂取していないので起きているのにも気づかないで気持ちよさそうに出すんです。可愛いですよね」








........................ふぁ?

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