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第6話 フィリップ殿下は決意する

「というわけで……」


 母とエバンス夫人は、少々当惑しながら、僕に説明した。


「お茶会には、当主のクリスが来るそうなの」



 怒りで顔色が変わる気がした。


 この一年、どんな気持ちで僕が過ごしてきたと思っているんだ。


 せっかくロザリンダ嬢と直接会えて、思いのたけを伝えるチャンスだって言うのに。


 お前の顔なんざ、見たくないわ。


 学園でさんざん見とる。


 ロザリンダに似てるところが余計腹が立つ。

 ロザリンダより少し色の濃い髪、同じようだが、ずっとキツイ目、なによりバカにしきった目つきだ。


「女性だけのお茶会に、男のお前は来るなと言ってください!」


「え? じゃ、あなたはいいの?」


 母がマヌケな声で聞いてきた。


「……僕は……男でも、婚約者だからいいんです!」


「でも、クリス様も公爵家の当主ですわ。それに弟です。おじさん当主が王妃様に単独で会うと、陛下が嫌な顔をされますけど、十五歳の子どもなんか陛下も文句をおっしゃらないと思います」


 エバンス夫人はそう言うが、母上はにこにこしている。


 これは、アレか。先日、クリスが鮮烈な社交界デビューをしたせいか。


 この前のパーティー、アホのボーム侯爵令嬢が既成事実を作りたいとかなんとか言って、僕の腕に(すが)って「婚約」とか騒ぎ出しやがった。


 そのせいで、あの姉弟二人が、会場の注目の的になってしまった。婚約はどうなったんだろうと、会場の全員が思ったのだ。


 当然、父も母もあの姉弟を見た。


 ロザリンダを見て、僕が婚約破棄なんか絶対しないと言い切った意味を理解してもらえたと思うが、鮮烈な印象を放ったのはクリスの方だ。


 ほぼ初お目見えだった。


 子どもの頃のヤツを知ってる人間は山ほどいるが、ヤツはここ一年で背が伸び、子どもではなくなった。


 まだ、少年ぽいが、人間は目を見れば、どんなヤツなのかわかる。


 父親の公爵とは対極にある。


 男はそう思ったろうけど、女性たちは違っていた。


 ここにいる母と、エバンス夫人すらそうだ。


 みんな、ヤツの破格の美貌に釘付けになっていた。


 まあ、顔はいい。顔はな。


「本当にきれいな方でしたわ。思わず見とれてしまいました」


「そうよね。遠目からも、とても美しいと思いました」


「近づいて拝見させていただいて、あんなに魅力的な男性は初めてでした」


 骨抜きにしやがって。


 それはとにかく、使者として出向いた時の話を根掘り葉掘り聞いたが、相変わらず黒い。


「大変にしっかりした方でした」


 しっかりはしてるだろう。だが、僕が出した手紙を一通でも、読んでくれていれば、婚約破棄なんか微塵(みじん)も考えていないことは、わかるはずなのに、わざと無視している。悪意的だ。


 まあ、僕が手紙を山ほど出した件は、母には言ってない。


 返事がなかったのはロザリンダのせいじゃないに決まってる。だが、公爵家が返事を出さなかったという風に取られたら、やっぱりマズい。

 ロザリンダが、母や父に悪く思われてはならないからな。(キリッ)


 だから、エバンス夫人も、僕が婚約破棄しないと、何度も手紙で伝えてることを知らないだろう。


 正直なところを言うと、まあ、手紙の本数が、少々常軌(じょうき)(いっ)した感じになってしまったので、いまさら、言い出しにくいって言うのもある。



「いいんじゃないかしら? ご当主の誤解を解くのが先かもしれませんし」


「しっかりした坊っちゃまでしたから、きちんと話せば、わかっていただけるかと」


 何言ってる。


 二人とも、全然わかってない。誰がお坊っちゃまだ。大人も顔負けの悪辣(あくらつ)野郎だ。かわいらしい顔を利用していると思うと、余計、腹立つ。


 あいつは確信犯だ。


 姉のロザリンダを手放したくないだけだ。


 神をも恐れぬアホ自信家だ。この先どうするつもりなんだ。



「よし、わかった。僕が行こう」


「ど、どこへ?」


 母とエバンス夫人が、驚いて尋ねた。


「公爵邸にだ!」

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