第2話 婚約破棄と再婚約
なんですってえ?
私は、パタリと手にしていた扇を取り落とした。
クリスが素早く拾ってくれて渡してくれたが、彼は暗い顔をするどころか、なんだか笑っていた。
「何が面白いの?」
「だって、どうして殿下が発言なさらないのかと思ったのです、姉様」
「そ、それはそうね。訳がわからないわ」
身分が上の殿下が発言するのではなく、ボーム侯爵令嬢が婚約を言うのはおかしいわ。
それに、新たな婚約って言うけど、その前に私との婚約を解消しなくてはならないのでは?
「僕、姉様の婚約破棄については、まだ、なんのお話も聞いておりません」
だって、当事者の私が何も聞いていないくらいですもの。
ボーム侯爵が大急ぎで殿下のそばに近づいて行くのが見えた。
人々は蜂の巣をつついたように隣同士大声でしゃべっていたが、侯爵の姿を見ると、またもやピタリと黙った。
「これは誠に失礼な真似を。殿下におかれましては、娘の無礼、幾重にもお詫び申し上げます」
え? どういうことなの?
出席者全員が、侯爵の言葉を一言も聞き漏らすまいと必死になった。
「今、両陛下に内々にて承諾いただきたくご相談申し上げておりましたところでございます」
みんなが沈黙しているので、侯爵の声がここまで聞こえた。
「そ、そうだったの……」
私は呆然とした。
これはもう決まりかけている、いや、決まっているのだろう。
そうでなければ、こんな王家が主催した会などで発表したりしないだろう。
私は切られたのだ。私と私の家は、王家から捨てられたのだ。
静かにクリスが私の手を引いた。
「姉様、帰りましょう」
彼は伏し目がちに静かに言った。
「こんなところに残っていても、ろくなことないでしょう。勝手に勢力争いでもなんでもしてればいい。僕たちには関係ない」
私は驚きすぎて、すぐには動けなかった。
「姉様、きっと、物好きな人たちが、僕たちのことを見に来たりすると思う。その前にここを出ましょう」