第10話 弟秘話
残念ながら姉様は結婚すると言った。
俺はどうしたらいいんだ。
なんで、あんなヤローがいいんだ。
「だけど、君どうするつもりだったの?」
義兄は尋ねてきた。
「そんなこと、あなたに関係ないでしょう」
俺はブスくれた。
「妻が君を大事に思ってるから、何もしないけど、重大な犯罪だよね、これ」
「たかが手紙を隠しただけでしょう?」
「だって、ボーム侯爵と侯爵令嬢は、謹慎なんだよ? 元を正せば、それだって君のせいだ」
手紙なんか隠して、結果、王太子を出禁にしたせいで、よけいな憶測を生み、それであんな誤解に基づく騒ぎになったのだと。
「あいつらには似合いじゃないですか? 軽率すぎる。王家をバカにしてるから」
「お前が一番バカにしてたろ?」
「そんなことはありません。僕、まだ成年に達したばかりの子どもですから」
一応、言ってみる。
「お前がそれを言うか」
ああ、どんな重罪でも受けてやる。
もう、欲しいものなんか、この世に存在しないのだ。
俺に向けられる、俺だけに向けられる姉様のあの笑顔。
困った時、相談しに来る時、頼りにされていると思っただけで、世界中を敵に回してでも勝ってやると思ってた。
もう、なんにもない。
義兄は困った顔をした。
「お前は若すぎる」
十九のてめえに言われたかないよ。
「とにかくセバスは置いといてやれ」
知ってるさ。切手コレクターなんか嘘だってこと。
「あいつが正しい方向に舵を切ってくれたんだから」
俺にとっては間違った方向だ。
「ロザリンダにとって正しい方向だから、あいつを恨むな」
あいつが婚約破棄してくれれば、俺も姉様もずっと独身で、養子を取るつもりだった。
むろん、俺と姉様の間の子どもだ。
時間をかけて、説得するつもりだった。
「クリス様、晩餐会の招待状が届いております」
「行かない」
「従姉妹のカタリナ様のデビューでございます。お父様が亡くなられたので、お母様からの切なるお願いでございます」
「なんで、そんなことのために俺を呼ぶんだ」
「父上がおいででないので、舐められたくないのでございますよ。別に閣下と結婚したいとか、そう言うわけではございません。ロザリンダ様によく似た面差しの大変に美しい姫君だそうですから、デビューさえつつがなく済めば、きっと引く手数多でございましょう」




