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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第98話 補給戦線7

「早よせいっ! 屍怪が近くまで来とるんじゃ!!」


 一人で先行する梶丸さんは、出口へ向かう廊下にて叫ぶ。

 二階にいたハルノと啓太も、階段を使って一階に。屍怪となった者が出現する中でも、梶丸さんは安全に通れる逃げ道を確保していた。


「急げっ! 蓮夜たちが戻ってきたら、すぐに出口を塞げるようするんだっ!」


 出口に近い店内にて、槍で屍怪と対峙するヤマトたち。補給した物資とともに、リヤカーはすでに外の様子。

 あとはこの場にいる全員が退避できれば、ミッション完了のようだ。


「悪い! 遅くなった!」

「大丈夫だっ! よしっ! みんなっ! あとは手はず通り、ゆっくり後退するぞっ!」


 合流したことをキッカケに、ヤマトは全員に対し訴える。声を聞いて奮戦するメンバーたちも、槍で屍怪を退けつつ後退。

 出口前には自動ドアが五メートルほどの間隔で前後にあり、二カ所の間となる空間には買い物カゴに買い物カート。本来なら綺麗に並べられていたはずであるも、今は乱雑に置かれ進むにとても邪魔なレベル。 

 しかしそれは屍怪の進行を遅らせ、塞ぐための手段。買い物カートを除け、全員が揃って通過。最後となるヤマトは通れぬよう散らし、大型ショピングモールからの脱出を果たした。



 ***



「屍怪犬。そんな奴がいたのか」


 リヤカーを引き帰路につく中で青年自衛官のヤマトは、先ほどまでの経緯を聞いて驚きを露わにしていた。


「てか作戦は、完全に失敗じゃね!? 一人一殺とか言って、オレを追ってきたのは二匹だったじゃん!!」


 不満を漏らす啓太の言う通り、二匹の屍怪犬が啓太の背を追う展開。一人一殺を想定し離散したものの、結果はハルノが追われず自身に一匹。

 物事が思い通りに運ばないは、今も昔も変わらぬところである。


「わあっ! お菓子だぁ!」


 陵王高校へ戻り物資から、チョコレートや飴を手に取る子どもたち。

 今回の補給にて確保できたのは、リヤカー実に二台分。缶詰やレトルト食品と賞味期限の長い物から、インスタント麺にお米や調味料と様々。


「はい。どうぞ」

「ありがとう! お姉ちゃん!」


 女性自衛官のナナさんは笑顔でチョコレートを手渡し、受け取った少女は元気に礼を言って駆けていく。

 ヤマトにタケさんと自衛官たちを含め、避難者が総出となり校内へ物資を運ぶ作業。量が多く米袋など重い物あるも、みな明るくひたむき取り組んでいた。


「おうおう! コレじゃあ! ワシが欲しかった物はっ!」


 ドラッグストアにて入手したポロテインを持つのは、小柄なツンツン頭の梶丸さん。代替え品なく特に必要な物に限るとされた中で、判断つかぬ微妙な物を注文した張本人。

 あとで知るところであった話。梶丸さんは自動車整備士で、自衛隊車両を修理した立役者。年齢は三十六と結婚しており、ここ陵王高校に妻と娘もいるらしい。


 美月を探し回っているだけなら、見えていなかったこともたくさんあるんだな。


 陵王高校に避難する者で作られたコミュニティは、安心感あり和やかで明るい雰囲気に包まれている。

 食料不足という危機を一つ乗り越え、結束力は一段と増し尚更。一人では難しいことも、協力すれば解決へ進展。個のみならず集の力を、肌で感じる出来事となった。



 ***



 敷地外へ出る補給戦線も終わり、落ち着ける日々となって暫く。陵王高校の校内を歩き、階段を上って向かうは屋上。

 胸の内につかえているのは、どうにも解消できぬ思い。額や頬と全身の傷は回復へ向かおうとも、心に解決できない問題があった。


「蓮夜か。久しぶりだね」


 屋上の手すりに体を預け、風に赤髪を揺らすのは夕山。互いに殴り合うという衝突あって、頬には絆創膏と傷はまだ完治していない様子。


「ああ。そうだな」


 先日の作戦会議から、補給へ向かう時まで。夕山は一度も顔を出さず、会うのは数日ぶりとなる。


「そんな所で突っ立てないで、こっちに来なよ」


 物静かに景色を眺める夕山は、どこか哀愁を漂わず様。陵王高校の屋上から見えるのは、下り坂に家々が並ぶ住宅地区。後方は高さある山と、深き緑の森林のみ。


 今回はさすがに、気まずいぜ。


 あとから考えてみれば、なんと愚か喧嘩であったか。

 高校生にもなって、激しい殴り合い。お互いが引くに引けぬところまで行き着き、後先を顧みず両者が傷だらけの結末。


「僕はこの場所が好きだったんだよ。人と関わる煩わしさから、距離を置けるって感じかな。幸いなことに、人もあまり来なかったからね」


 陵王高校に在籍していたときの夕山は、何かと屋上で入り浸っているのは知っていた。

 訪れた経緯も、過去の傾向あってのもの。始めから夕山いると想定し、用件あって訪れた身である。


「……夕山。その……殴って悪かったっ!」


 何はともあれ、先に手を出したのは自ら。後悔という感情が胸中でいつまでも残り、頭を下げて謝罪し一つ筋を通したかった。


「いいよ。いいよ。やられた分は、ちゃんとやり返したからね。それに蓮夜と久しぶりにやり合えて、実のところ少し楽しかったんだ」


 一瞬だけ夕山は目を丸くするも、何事もなかったかよう笑顔を見せて言う。殴り合いの喧嘩ともなれば、遺恨あって関係に壁ができても不思議ない。

 しかし成海夕山という人物に限っては、喧嘩を楽しいと捉える思考。気にしている素振り微塵もなければ、以前と大して変わらぬ態度だ。


「初めて蓮夜とやり合ったのも、この屋上だったね」


 夕山が語る初めてとは、去年と今より一年前の話。


「あれは俺が転校して来て、間もなくの話しだろ? それに喧嘩とかっていう、話でもなかったし」

「まぁそうだけどね。でも驚いたよ。僕とあそこまでやり合えたのは、蓮夜が初めてだったからね」


 剣道部に在籍していた夕山と、竹刀を手にやり合った屋上。

 当時は転校して間もなく、右も左もわからぬ生活。ふと一人になりたいと思い訪れた屋上は、夕山と初めて出会った場所でもある。


「そう言えば、夕山。なんでいきなり、屋上に来なくなったんだよ?」


 唐突に訪れなくなっては、連絡しても音信不通。

 啓太から聞いた噂では、暴力事件に薬の売買や喧嘩。真実を知りたいとなれば、本人に問う機会に思えた。


「まぁそれは、いろいろあったんだよ」


 話すことを敬遠してから、含みを持たせて言う夕山。


「言いたくなければ良いけど。いきなりの転校って話だったし。何がなんだか。俺にはサッパリだったぜ」


 無理に答えろと、強要するつもりはない。

 しかし実態を掴めていなければ、噂を否定できない現実。冤罪であるなら尚更のこと、聞きたかったところでもある。


「やれやれ。仕方ないな。つまらない話しだけどね。そんなに知りたいなら、教えてあげるよ」


 どこか哀愁を漂わす夕山は、静かに口を開き語り始めた。


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