第97話 補給戦線6
円形に造られる廊下から、それぞれに逸れ異なる道へ。背後を追いかけてくるのは、四肢を躍動させる屍怪犬が一匹。
走って向かう先にあるのは、紳士服と婦人服が併合する場所。先ほどまでの個別店舗が展開していた場と異なり、空間に仕切りなく寝具の売り場も併設している。
一人一殺とは言ったけど。どうやって倒すかが問題だ。
人型の屍怪と同じなら、頭を潰せばいいんだろうけど。屍怪犬は動きが素早く、簡単に頭部を狙えそうにない。
攻撃へ転じようにも、失敗すれば厳しい展開。屍怪と同じく屍怪犬に噛まれても、感染を逃れることはできないだろう。
対策を考えつつ走りを続け、天井の高いフードコート。即座に数え切れぬほどテーブルと椅子が置かれ、大きな窓からは外から光が降り注ぐ。ハンバーガーショップやフライドチキン店と、様々な食を扱う店舗が展開される場所だ。
「蓮夜! そのまま引きつけてっ!!」
フードコートの廊下にて、弓を構えるハルノ。矢先はこちらへ向けられ、やりたい事はすぐに理解できた。
「これで、いいんだろっ!!」
勢いを殺すことなく走り続け、タイミングを見計らってスライディング。
「オッケーよ! あとは任せなさいっ!」
頭を低くハルノの元へたどり着いた所で、弓から放たれるは豪速の矢。
フードコートを走り、追いかけてくる屍怪犬。無防備な額を見事に捉え、床を滑り倒れ絶命させた。
「ナイス! 射撃の腕は、さすがだな!」
「でしょ! 射撃に関しては、自信があるからねっ!」
圧倒的な技術を見せるハルノと、歓喜のあまり笑顔でハイタッチ。
「ヤバいじゃん!! 助けてくれぇええ!!」
勝利の余韻に浸っている間もなく、フードコートを駆けてくる啓太。背後には二匹の屍怪犬がいて、躍動的に迫っている。
「啓太! そのままこっちに来い!」
フードコートの廊下にて、黒夜刀を抜いて屍怪犬を見据える。
両腕を頭より高く、振り上げる構え。隣を通り過ぎていく啓太に、あとを追い高く飛躍する屍怪犬。
「円月」
半円を描くよう斬りつける技を持って、宙を舞う屍怪犬を真っ二つに両断。
吠える間もなく、抗う手段を与えず。フードコートの地にて、二匹目の屍怪犬を完全に屠った。
「グルルルウゥゥ」
前方の離れた位置にて、最後の屍怪犬は足を止めている。仲間が殺された姿を見てか、慎重な姿勢となっているようだ。
それでも意を決したようで、駆け始める屍怪犬。二の舞になるつもりないと、飛ぶ気は全くないようだ。
「ならば……」
同じ手が通用しないとなれば、黒夜刀を納め円形に造られる廊下まで。
一階のイベントホールを覗き、転落防止用のガラスフェンス。手すりを掴み越えては外側で、屈み耐えの姿勢を見せる。
「バウッ! バウッ!」
威勢よく吠えては、迫る屍怪犬。ガラスフェンスあること認識してか、越えるため大きく飛躍した。
動けぬ宙を一直線に、一階へ落ちていく屍怪犬。ガラスフェンスにぶつかると読んでいたも、結果としてイベントホールの舞台へ落下した。
「キャウンッ!!」
イベントホールの舞台床で思いきり腹を打ち、屍怪犬は苦しそうに暴れ回っている。高さある二階からの落下となれば、衝撃を吸収できずダメージも大きいようだ。
「屍怪犬も屍怪と同じく、頭を潰すまで動き続けるんだ。頭を潰すまでは、安心はできねぇ!」
未だ窮地を脱していないと判断しては、二階から足元を確認して飛び降りる。
無事に舞台へ着地した所で、眼前で暴れる屍怪犬。ダメージ回復し動き出す前に、再び黒夜刀を抜き高く構える。
「うおおおぉぉ!!」
力の限りで振り下ろしては、首元を捉える漆黒の刃。屍怪犬の首をドサッと舞台上で落とし、完全に息の根を止めた。
「コイツは……。どうなってんのじゃ!?」
イベントホールの舞台に近づいてきたのは、槍を持つ小柄なツンツン頭の男。見慣れぬ屍怪犬の姿に、驚き顔が引きつっている。
「蓮夜!! 大丈夫!?」
「ああ! 問題ない! キッチリ仕留めたぜ!」
二階のガラスフェンス越しにて、身を乗り出し問うハルノ。先に答えたほうが安心できると判断し、手を挙げて無事を知らせる。
「二階の廊下で遭遇し、追われていたんです」
屍怪犬の亡骸を見つめる小柄なツンツン男に、遅ればせながらに経緯を説明。首が落ち動かないことから、状況はすでに飲み込めているだろう。
「そうか。こっちとら食料の補給は済んだんじゃけど。一階にも屍怪が現れて、みんな急いで避難しとる」
小型なツンツン頭の男は、様子見と急を知らせに来たとの話。
「えっーと。あなたの他には?」
「あなたやない! ワシは梶丸。梶丸久じゃ!」
他の安否が心配なところであるも、名前を知らず小型なツンツン頭の自己紹介。男の名前は梶丸久と言い、他のみんなも全員が無事であると言う。




