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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街
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第92話 補給戦線1

「気をつけてくださいね。みなさん」


 校庭に集まる人を前に、見送る側の葛西さんは言う。

 今回のように大勢で補給へ行くなど、終末の日から前例のないこと。そのため玄関前や校庭と人が集まり、多くの人々が見送りにきていた。


「お兄ちゃんも! 決して無理はしないようにっ!」


 見送る側となる彩加から、出発前に一つ釘を刺される。今までの無理ある行動が要因となってか、信頼度はかなり低くなっているようだ。


「蓮夜の事は、私に任せて! 無理はさせないようにするから!」


 お目付け役を買って出るハルノは、胸を張って応えていた。

 そんなハルノが装備する武器は、手に持つ木槍と背負う弓。札幌で入手した矢の残数に不安あり、必要に応じて使い分けると言う。


 って言うか俺の事より、ハルノの方が心配だけどな。


 アーチェリーの経験あったため、弓の使用につき心配はしていなかった。

 しかし槍の扱いについては、未知数な部分が多い。以前に経験あり今回も訓練したとはいえ、ハルノも得意とする武器ではないだろう。


「物資の補給へ! いざっ! 頑張って行こうじゃん!」


 最後に合流する啓太の腕には、小さな子どもが抱えられている。


「ねぇ? あの子は?」

「ああ。啓太の妹だよ」


 子どもの存在を問うハルノに、知った情報を教える。

 まだ小さく幼い、啓太の妹。後ろには啓太の両親もいて、例に漏れず見送りに来ていたのだ。


「えぇー!」

「うそぉー!」


 存在を知らなかったであろうハルノと彩加は、ともに驚きの声を上げている。

 兄妹とは言え、かなりの年齢差。普通に知らなければ、驚くのも無理はないだろう。


「ねぇ? あの子。何歳なの?」

「たしか、二歳くらいじゃなかったかな」

「私たちが高三で、十七か十八のはずだから。少なくとも、十五歳差よっ!」


 耳元でヒソヒソと問うハルノは、答えを聞いてさらに驚いていた。


「当時のオレも思ったよ。父ちゃんも母ちゃんも、頑張り過ぎじゃねって。まあでも、本当に可愛いんだよ。頬っぺたは柔らかくて、まるで餅みたいじゃん!」


 啓太は腕に抱く妹の頬を触り、口角を緩ませ締まりのない顔をしている。

 無邪気に愛嬌を振りまく妹に、啓太はメロメロの状態。年の差があるためか、如実に反映されているようだ。


「そんな緊張感がない状態で、外へ行くのに大丈夫かよ?」

「当たり前じゃん! 妹のためにも、欲しい物とかあるもんねぇ」


 見ている方が心配となる姿に問うも、啓太は妹の小さな手を握り答えていた。

 後ろで姿を見守っていた両親に、ゆっくりと妹を渡す啓太。補給する物資の中に、必要な物があるのだろう。



 ***



「よしっ! みんな集まってくれ!」


 出発の時刻となり校門前にて、ヤマトは全員に対して号令を発す。

 男女が抱き合う姿や、手を握り合う者。声を掛け合う人々と、それぞれに別れの時間を惜しんでいた。


「通る道を今一度だけ、確認しておきます。向かうのは市内の外れにある、大型ショピングモール。陵王高校から坂を下って進み、国道を過ぎ住宅地区へ。先の田園地帯を越えてあるのが、今回の目的地です」


 三人の自衛官が揃った中で、発言する中央のヤマト。

 先日の作戦会議にて、決められた事項。今回の補給に参加するのは、自衛官の二人を含め男女十人。


「それじゃあタケさん。あとは頼みます」


 ヤマトが向き合う前には、残る側となる巨漢のタケさん。補給へ行くメンバーには若者が多く、活力が溢れる現役世代と言って良いだろう。

 となれば陵王高校で残る者に、子どもや高齢者が多くなること必然。有事の際に戦力となる最低限の人材を、残して置かなくてならないのだ。


「リヤカーの引き手は、交代で行きましょう! 隊列とは決める気ないですけど、警戒心を持って臨機応変にっ!」


 ヤマトの指示と注意を皮切りに、開かれる陵王高校の校門。


「それじゃあ! 行きましょうかっ!」

「おおっ!!」


 ナナさんの気合いある掛け声を持って、応じて答えるメンバーたち。

 屍怪が徘徊する世界でも、生き続けるため。補給を目的とした戦線の、避けられぬミッションが始まった。


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