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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第91話 作戦準備

「なぁヤマト。荷物はリヤカーに乗せ、運ぶことになるんだろ?」

「ああ、そうだ。リヤカーを使えば多くの荷物を、運べると考えていたんだ」


 校舎の中央に位置する中庭へ向かう所で、ともにリヤカーを引くヤマトは言った。

 校舎の離れにある倉庫から引っ張り出したのは、四角い形をした木製のリヤカー。左右に付けられるは二本のタイヤと、両の手で引くはU字形をした金属部分。二台ともに深さあり積載容量は多く、今はこれ以上ない代物だろう。


「引き手になると両手は塞がるし。途中で屍怪に襲われることになれば、かなり大変な目に合いそうだな」


 荷物を運ぶのに有用そうであるも、反対にリスクとなる点もある。

 避難所となる陵王高校は、坂を登った高台に位置する。行きは下りで良いものの、帰りは上りで荷物が増え大変。加えて屍怪に遭遇したとなれば、リヤカーを守り戦わねばならない。


「それは、あれだ。上手くみんなで護衛をして、進んでいくしかない」


 問題の解決方法につき、ヤマトは協力体制が不可欠だと言う。人間が一人でやれる範囲など、多数と比較しては限られる。

 今回の補給戦線には、十人もの人数が参加予定。増えた人数を上手く反映し、大いに活用するべきとの結論だ。


「護衛任務とか、ちょっと憧れるじゃん! ゲームや漫画である、一種のイベントみたいじゃね!?」


 リヤカーを背後から押す啓太は、お気楽そうに言っている。


「まあ、わからないでもないけどな。この前ショックで見た、忍者の魂。あれだろ?」

「そうそう! あれの任務は難易度Bランク! 要人を護衛するところとか、話の続きが気になるじゃん!」


 札幌から岩見沢へ帰る際に、寄ったコンビニで啓太と読んだ本。少年雑誌ショックに書かれる、漫画を元にした会話である。


「お前ら。はしゃぐのはいいけど。現実はゲームや漫画と違って、セーブポイントなく決められたストーリーもないんだ。人生に戻るという手段はないから、失敗したらそこで終わりだ。浮ついた気持ちのまま、今回の補給へ望まぬように」


 リヤカーを引き中庭に到着した所で、会話を聞いてヤマトに注意を受ける。

 現実の世界では全ての事象において、リセットすることは叶わない。口から出した言葉は引っ込められず、起こした行動をなかったことにはできない。

 積み上げられた結果も、不注意による過ちも。過去に起こした行動は線となって、否応なく自分に反映されていくのだ。


「まあ言っても二人は、その点を熟知しているか。何せ札幌から岩見沢まで、戻ってきたくらいだしな。それでも一応は言っておくが、油断は大敵だからな」


 過去の出来事を知っているためか、ヤマトは言葉を少なく注意を促していた。

 仮にセーブポイントがあったとして、過去に戻れた場合。札幌駅で出会った松田さんや畑中さんに、陸橋下で失った美月や関係を持った人々。全てを思いのまま助けられたのならば、どれだけ幸せだと言えるだろうか。



 ***



「どんな感じだ?」

「思ったより大変よ。数も多いし。機械でやるのと違って、人力での作業はやっぱり大変ね」


 中庭から技術室へ来た所で、机に向かい勤しむハルノに状況を問う。

 陵王高校の裏山で、伐採した木材。校舎まで運んできては、槍のベースになるよう棒状に加工。今は先端を鋭く尖らせ、持ち手の部分を滑らかにする作業。多くの人が技術室に集まり、槍の製作が行われていた。


「ここは削ったほうが肌ざわりも良く、爆裂に持ちやすいじゃろ?」


 みなが槍の製作に取り組む中で、人が集まり注目を浴びる人物。刃ある長方形のカンナを引き、手本を見せるのは大工の大江(おおえ)源蔵(げんぞう)さん。白犬のモコを世話するキヨさんの夫で、こちらも八十歳を超えていると言う。

 青色の市松模様ある法被を着用し、白髪の頭に巻くのは手ぬぐい。意志が強そうで目力ある瞳に、眉間には三重になって存在するシワ。大工を一筋で生きていたらしく、仕事に誇りを持つ反面で頑固。職人気質な部分あり、気難しいところあるとの話。


「へぇー。こうやると、上手く作れるんだな」


 人の集まりに混ざり仕事ぶりを眺めると、他とは違う手際の良さに見惚れる。

 木材を削るにカンナを扱う様は、まさに川の流れが如く滑らか。完成度が高く洗練された様は、さすがは職人の仕事といった感じである。


「大工の仕事を一筋で、飯を食ってきたんじゃ! このくらい朝飯前じゃて! 坊主も木を削る作業、試しにやってみるか!?」

「いいんですか!?」

「おうよ! ほれ! ここ座ってみ!」


 素直な感想を述べると好感を持たれたようで、機嫌を良くした源蔵さんの隣でカンナを渡される。

 言われたまま引くと、カンナの隙間から出る木屑。手応え良く気楽にできる作業は、どこか楽しく思えるものだった。


「なかなかいい手つきしてんなっ! 坊主! 爆裂にセンスあるじゃねぇか!」

「そうですか!?」


 滑らかになる木の表面を見て、源蔵さんは出来を褒めていた。

 特に行ったこともない、初めてやる作業。それでも他人から褒められると言うのは、素直に嬉しいものである。


「蓮夜って、本当に器用よね。その器用さはちょっとだけ、羨ましくなるわ」


 ハルノも作業の出来を見て、素直に褒めていた。

 初見であっても結構な頻度で、物事をそつなくこなせる部分はあった。今回の件も例に漏れず、上手くできたのは幸いなことだ。


「結構な数の槍を、作ることができたわね」

「そうっすね。外に持っていく分のみならず、防衛分にも残せそうですね」


 ナナさんヤマトと二人の自衛官は、机に積まれる槍の本数を見て満足していた。

 完成した槍を手にし校庭で、翌日から上手く扱うための訓練が開始した。自衛官たちが先頭に立って、参加する者に行われる指導。

 補給側とし外へ行く者も、防衛側に回って校内に残る者も。訓練に参加し指導を受ける者は全て、みな真面目に取り組み槍を振るっていた。命を守るために必要な、技術と心得の数々。不真面目な態度をする者など、いないのも当然の話だろう。


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