第90話 作戦会議
「中継拠点を作った方がいいと思うんだが。全員分の食料を運ぶとなれば、間違いなく荷物は多いだろうし。補給すること自体も、一回だけとはならないはずだ」
「それもそうだけど。先がどうなっているか、わからないんだ。まずは今回の補給自体を、無事に成功させる事が先決だろ。今は中継拠点の事より、優先してルートを考えようぜ」
補給について意見を述べるヤマトに、現状を汲み考慮して言葉を返す。
陵王高校二階の空き教室。六台の机を合わせるように置き、広げられた岩見沢市の地図。周囲には参加の意志を表明した十人が並び、活発な意見交換と作戦会議がなされていた。
「荷物が多いとなれば運ぶのにも、何か手を考えたほうが良いんじゃね? 全員分を背負って帰るのは、さすがに無理があるじゃん」
「車は使えないものね。たしかにそこは、考えたほうが良いかも」
問題点を挙げ指摘する啓太に、ハルノも賛同の意志を示す。
現在の陵王高校に、動く車は一台。迷彩塗装が特徴的なジープと、メンテナンスを受けた自衛隊車両のみ。緊急時のみ使用を検討している話で、今は離れの倉庫に保管されている。
「ジープに乗れるのは、多くて六人くらいだ。荷物も詰める必要があるし。今回の使用について、現実的ではない」
十人と多人数の上に物資を詰める観点から、ヤマトは車を使うべき場でないと判断していた。
車を走らせれば走行音を発し、近くの屍怪を呼ぶ結果に繋がりかねない。全員が乗れるほど台数あれば別の話であるも、たしかに今は時ではないのだろう。
「ならやっぱり、近場がいいんじゃね? 国道沿いにあるこの店とか、高速を過ぎた場所も良さそうじゃん」
啓太は広げられた地図を指差し、新たな方向性を模索する。
「国道沿いの店は、もう空よ。あたしらが何度も訪ねて、食料関連は持ち出したから」
「高速を過ぎた先の場所は、火事で消失していたよ。残念だけど、行っても無駄だ」
しかし発言するナナさんと、己が目で見た現実。啓太の提案は一瞬にして、白紙へ戻された。
「八十人もの人数だ。食料はできる限り多いほうがいい。となればやっぱり、この大型ショッピングモールが妥当だ」
発言するヤマトの言う通り、目的地は当初の場所に決定。
荷物を運ぶ手段には、心当たりあるとの話。補給へ向かう事につき、話は一つ前へと進んだ。
「となると、あとの問題は……」
「武器ね」
発言するヤマトの言葉を途中に、合いの手を入れるが如くナナさんは言う。
最後の問題点にして、最大の難点。屍怪が徘徊する敷地外では、戦うための手段が必要となる。
「そうじゃ! 自衛官のアンさんらと違うて、コッチとら使える武器がねえんじゃ! どないして戦えばええんかのぉ!?」
大きな声にガサツな態度で質問を飛ばしたのは、小柄の割に筋肉質である茶髪の男。サイドを刈り上げたツーブロックで、他をツンツンと逆立てる感じにセットされた髪型。
方言なのか、訛りある発言。灰色の作業服と思われるつなぎを着用し、自衛官たちの前へ向かっていく。
「武器と言っても。オレたちが持つコイツは、ほとんど使えませんよ。撃てば屍怪が寄ってきますから」
ホルダーを通し装備する拳銃に手を置き、ヤマトは問題点を指摘していた。
音を発し響かせる行為は、屍怪を呼び寄せる事に他ならない。拳銃を使用するとなれば、自らリスクを高めてしまうのだ。
「銃を使用することは、緊急時しか考えてないです。そう言う意味ではオレたちも、みなさんと変わらない立場ですよ」
「ならワシらは、何を武器とすりゃええんじゃ!? 隣の彼ように、刀でもあるんかのぉ!?」
ヤマトの誠実なる返しに、男は刀に目を向けて言う。
装備する刀の入手経路は、ハッキリ言って特殊が過ぎる。そもそも簡単に入手できる物でなければ、この場にあるはずもないだろう。
「そんな物はないですよ。考えていたんですけど。やっぱり身近にある物を使って、なんとかするしかないと思うんだ。バットとかでもいいですけど。オレが最初に思い浮かべたのは、先端を尖らせた槍。材料となる木材は、裏山にごまんとありますからね」
ヤマトの言う通り陵王高校の裏は、木々が生い茂った山林がある。槍を作るとなれば、材料に困ることはないだろう。
「いい案じゃない! ヤマトにしてはっ!」
「でしょ! 実は結構前の段階から、考えてはいたんですよっ! ってか最後の一言は、余計ですっ!」
笑顔で褒めるナナさんに対して、ヤマトは喜びツッコミを入れていた。
以前の札幌で過ごした経験では、モップを棒にして扱った。現実の問題として身の回りに、武器とし使用できる物は意外と少ない。今は限りある資材の中から、応用し活かすことが必要なのだ。
「と言うことで、槍に限った事ではないですけど。他にも武器として使えそうな物があれば、アイデアをください! 必要な物を集めて、準備しないといけませんからね!」
ヤマトの発言後も活発な議論がなされ、補給へ行く準備は着々と進められていった。
混沌とした世界の中でも一丸となり、目的へ向かい協力し合う姿勢。互いを尊重しつつ事に取り組む様は、難題においても解決の光を捉えつつあった。




