第89話 招集
前日から自衛官の呼びかけあり、体育館に集められた人々。空き教室で過ごす者も含め、今回の招集にはほとんど全員が参加。
壇上に立つは、三人の自衛官。約八十人の避難者たちは、静かに言葉を待っていた。
「初めにオレたちの招集に応じ、みなさんありがとうございます。中には知っている人や、勘づいている人。想像できる人もいると思いますが、今回みなさんを集めた理由。それは備蓄していた食料が、ヤバい状況になってきたからです」
舞台の中央に立ちヤマトは、全員に対し実情を告げた。
先日ナナさんからも、聞いていた話。近場のスーパーマーケットやコンビニなどを訪れ、三人で補給し賄っていた食料。八十人も人数いれば消費量も多く、今や余裕は全くないとの話だ。
「だから敷地外へ出て、食料を探しに行かなくてはなりませんっ!」
大きな声で発言するヤマトの主張を受け、動揺を露わに騒めく避難者たち。
身近に迫りつつある、食料危機。切り詰めても猶予が僅かに伸びるだけで、問題の根本的な解決とはならない。
「でも陵王高校の外は、危険なのでは?」
最前列で話しを聞いていた男は、主張を受け問題点を指摘する。
「みなさんも周知の通り、外には屍怪となった者がいます。だから危険なのは、間違いないです。それでも食料を得なければ、餓死を待つだけ。今はどこか覚悟を決め、動かなくてはダメなんだっ!」
力強いヤマトの主張を聞いて、押し黙る避難者たち。
避難を始め、約二ヶ月。陵王高校から敷地外へ出たことある者は、聞いていた通り僅か。そのためリスクを負うに、多くは抵抗感がある様子だ。
「あー。たくさんの食料を得るには、それなりの人数が必要となります。オレたちは暫く壇上にいるので、同行を考えてくれる人は声をかけてください」
困惑した表情を浮かべ、穏やかな口調で言うヤマト。避難者たちの態度から、強く言い過ぎたと判断したようだ。
それでもヤマトの危機とする主張は、避難者全員に伝わったことだろう。
「蓮夜はどうするの? 今の話を聞いて?」
「俺は行くよ。食料がないのは事実なんだろ。刀を持っている俺は戦えるし。外に出る理由もあるからな」
隣に立つハルノに意見を問われ、即座に決めていた答えを返す。体を酷使する捜索は控えようとも、美月を探すこと自体を諦める気はない。
それに今回の補給は、明らかに必須事項。捜索に貢献と二つメリット重なれば、行かぬ道理などありはしなかった。
「だからオレは、嫌だったんですよっ! こういうスピーチとか演説みたいのはっ! 下っ端のオレに任せないで、ナナさんかタケさんやってくださいよっ!」
「そう言うのは苦手なのよ。タケちゃんなんて口下手だから、もっと無理だし。って事で、ヤマトになるでしょ?」
壇上の隅にいるヤマトとナナさんは、今回の件につき口論している。
「なんすか! その理屈!?」
どうやらヤマトが進んで発言した訳でなく、適任なく決まったようだ。
「あの、さっきの話。俺たちも一緒に行きたいんですけど」
補給へ同行するにつき、三人で話し合い決めたこと。背後にはハルノに啓太と、覚悟を固めた二人もいる。
「それは嬉しい申し出だけど。君らまだ、学生だろ? さすがになぁ」
同行する意志の表明に、ヤマトは困り頭を抱えていた。
ヤマトたち自衛官が求めていたのは、心身ともに成熟しきった大人。学生と保護者に監督される身分では、どうにも扱いに困っている様子だ。
「高三なのに子ども扱いって、酷いんじゃね!? もう十分に、物事を決められる年齢じゃん!」
決めかねぬ自衛官たちの対応に、啓太は不平不満を積もらせている。
高校三年生なれど、十八になれば成人。僅か数ヶ月の差で弾かれるなど、法律上の決定とはいえ不条理に思えた。
「いいんじゃない? ヤマト」
「何を言い出すんですか!? ナナさん! 彼らはまだ、学生ですよ!? 何かあったら、親になんて言えばいいんですか!?」
了承を促すナナさんにも、ヤマトの心配は払拭されなかった。
親の心境を察すれば、心配すること当然。誰が好んで我が子を、危険地帯へ送り出すことだろうか。
「そこはまぁ自分たちで、説得してもらわないとダメだけどね。戦力としては申し分ないでしょ」
発言を皮切りにナナさんは、背後に回って抱き付いてくる。
「特にこの子なんて、あたしらが言うまでもなく勝手に敷地外へ出ているし。他の子たちだって札幌から岩見沢まで、歩いて帰ってきたって言うじゃない」
「それは、そうかもしれないすけど」
根拠が明確であるナナさんの意見に、反対のヤマトは反論できずにいた。
「それにここにいる大人なんて、敷地外へ出た人はほとんどいないでしょ? 言っちゃ悪いけど。学校で守られ過ごしていた大人たちより、この子たちの方が随分とマシな気がするのよ」
「くっ……!」
実情から的を射たナナさんの指摘に、ヤマトは完全に言葉を失っている。
そもそも人材が少なき中で、範囲を狭めた形での選抜。実体験ある身とし説き伏せるのならば、今は緩まずもうひと押しすべきに思えた。
「ここにいる人は限られているんだっ! それぞれが自分の力の範囲で、できる限りのことをすべきだろっ!」
自分の力の範囲で、できる限りのことをする。以前から聞き知った言葉が、喉の奥からすんなりと出た。
「だあっー!! わかりましたよ。でも敷地外へ行くとなれば、身の安全を保障できねぇからなっ!」
頭を掻いて悩みつつも、ヤマトは渋々納得した。
ここから先は、補給戦線に加わること決定。今回の目的地となる場所は、市内にある大型ショッピングモールだと言う。




