第87話 自衛隊三人衆
避難所となった陵王高校を守り、指揮する自衛官は三人いる。
「わはははっ!」
「ほぉら!! 高ぁい! 高ぁい!」
笑顔の子どもを肩に乗せるのは、男性自衛官の山田タケオ隊員。整えられた角刈りに、大きな丸顔。開いているか判別できぬほど細目で、身長は二メートルに近い高さがある。
自衛官の中では、最年長の三十五歳。肩幅が広く厚みある体格は、少し太って見えるもの。通称タケさんと呼ばれおり、緑の迷彩服を着用している。
「あらぁ。参ったなぁ。こりゃあ」
「抜きが悪手だったよね。ここはきちっり、守っておかないと」
頭を掻く老人と囲碁を打っているのは、女性自衛官の中野ナナ隊員。紫色ある波打つセミショートヘアに、パッチリ二重で一目でわかる美人。
自衛官の中では、二十三歳と真ん中。迷彩服のパンツを着用しているも、上半身は露出度の高い黒色タンクトップ。そのため小麦色の肌に、豊満なバストが強調。本人は気にしている素振りないも、目のやり場に困りそうな状態である。
「遊んで! 遊んで!」
「こらっ! 離れろっ!」
子どもたちに袖を引かれているのは、男性自衛官の大場ヤマト隊員。黒髪の短髪と爽やかな感じで、一見し好青年という印象。
自衛官の中では、最年少の二十一歳。身長は目線の高さから、百七十五の自身と同等くらいだろう。こちらは着崩すことなく、緑の迷彩服を着用している。
「お年寄りや子どもが多いじゃん。オレらも何か手伝えることを、やらなきゃじゃね?」
体育館の居住スペースを訪れ、座ったまま言うのは真島啓太。
明るい茶色の髪を、ふんわりと遊ばせた髪型。左上半身は白い水玉模様が多く、右上半身は白の縦縞が入る緑ベースのシャツ。黒の七分丈パンツには黄色い星形模様が多数と、相変わらず個性的な服装である。
「手伝うって。具体的に何をすっ――!」
立ったまま話を続けていると不意に、背後から腰に手が回って体が密着した。
「沈んだ顔していたけど。ようやく……立ち直ったみたいね」
耳元で静かに囁いたのは、女性自衛官のナナさん。
「……ちょっと」
背中に当たる柔らかな感触に困惑するも、抱き付かれ簡単に脱出できそうもない。
「こんなご時世だから。いろいろ抱えちゃうのも、無理ない話なんだろうけどね」
ナナさんは抱き付いたまま肩に顔を乗せ、体育館の全体を見て言う。
屍怪の出現から、すでに二ヶ月以上。住み慣れた家を捨て、陵王高校で過ごす生活。家族や友人に知人と会えず、また失った人もいるだろう。
「あの……」
「手伝うって話。していたわよね? 近いうちに街へ出て、物資の補給に行こうって話があるの」
集中できず離れるよう促そうと思うも、ナナさんは変わらぬ状態で話しを続けた。
話の内容は、物資の補給。人間が生きるために必要となる食料から、病気や怪我に必須となる薬関連など。
「それって俺たちも、一緒に行ってもいいんですか?」
避難所となる陵王高校の食料は、現在まで自衛官たちが補給していた。
終末の日となり屍怪が出現してから、難を逃れたどり着いた避難者たち。すでに二ヶ月以上と、敷地外へ出てない者が多数とも聞く。
「今の話は時期に、全員へ話す予定なの。もしやる気があるなら、考えてみても良いかもね。人手が多いことに、越した事はないはずだから」
背後から抱き付いたままナナさんは、検討の価値ありと言っていた。
自衛官たちが外へ出て、必死に集めていた食料。滞りなく供給されていたときと異なり、底が見え余裕はあまりないようだ。
「いつまで、そうしてんのよ?」
遅れながらに到着したハルノは、突き刺す視線を飛ばしている。話しを聞き入っている間も、変わらず抱き付かれたまま。
どこか怪訝な表情を見せ、少し不機嫌な様子だ。
「あの、そろそろ離してくれませんか?」
抱き付かれたままある状態に困り言うと、ナナさんは体を離して肩を掴んだ。
「可愛い顔しているじゃない! それに良い目をしている! うん! 私のタイプだ!」
体をクルリと反転させて向き合い、真っ直ぐな瞳を向けるナナさん。
肩を二度ほどポンポンと叩き、見せるは屈託ない笑顔。どこか満足した様子で振り向き、場を去っていった。
「何よ。鼻の下を伸ばしちゃって。だらしないわね」
完全に姿が見えなくなったところで、不機嫌そうに苦言を呈すハルノ。
「そんな事ねーよ!」
「モテモテだねー! 蓮夜君! 羨ましい限りじゃん!」
自覚なく即座に否定するも、啓太は楽しそうに横槍を入れていた。




