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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第84話 きっと

「うぉおおお!!」


 拳を放ち合うも、回避に受け流し。両者ともにクリーンヒットならず、互いを捉えきれずにいた。


「結局は人間なんて、自分が一番なんだよっ!! 進んでリスクを負うなんて、馬鹿だけがすることさっ!!」


 夕山は自身の意見を言う中で、僅かに後ろへ後退した。

 そして飛んできたのは、強烈な蹴り。まともに腹部へ直撃しては、体は後方へ押し下げられる。


「……くっ!!」


 しかし筋力トレーニングを行い、地道に鍛えていた体。腹筋に力を入れ堪えたとなれば、倒れず即座に反撃へ打って出る。

 夕山は伸ばした足を戻すに、未だ体勢が崩れたまま。好機と判断しては勢いつけ、一気に加速し間合いを詰める。


「なっ!!」


 渾身の蹴りを繰り出したであろう夕山は、立て直し速度に驚愕していた。そして勢いつけた右拳は頬を捉え、大きく体を仰け反らせる。


「……このっ!!」


 しかし倒れぬ夕山から飛んできたのは、反動を活かしての右拳。

 今度はこちらも回避できず、同様に頬へ受ける展開。気づけば両者ともに拳を受け合い、痛みダメージを負っていた。


「人間なんて言うのは、利益がなければ動かないものだよ。それに蓮夜も、わかっているんだろ? 何をするにも、力がないとダメなことくらいっ!!」


 再び駆け寄り放たれる夕山の蹴りを、今度は両手でガッチリと受け止める。そして手を離すと同時に、再び放つ右拳。

 しかし今度は夕山も、即座に反応。脇で抱えるよう受け止められては、右腕を完全に抑えられてしまった。


「同じ攻撃が何度も通じないのは、お互い様のようだね」


 右腕を抑えたまま、素早く動き出す夕山。あっという間に背後を取られては、首に腕を回される展開。

 スリーパーホールドとプロレス技を受けては、頚動脈を締め上げられ襲う息苦しさ。目前の光景が霞み始め、遠のく意識に危機感を覚えた。


 ……マズい。


 腕を離そうと試みるも、強い締め上げに歯が立たない。このままでは時期に、意識を失ってしまうだろう。

 抵抗する手段が、限られた状態。それでも抗うことを止めず、右肘を前後に夕山の腹部へ打ちつける。


「ハァハァ。……やるね」


 連続して腹部へ決まっては、腕を解き夕山は離れた。

 互いに傷つけ合い、両者ともに満身創痍。額や唇からは血が流れ、全身に傷も多く痛みが残る。衣服に土埃が着いては汚れた姿となり、息が上がって体力の限界も近かった。


「そろそろ終わりにしないかな?」

「ああ。そうだな」


 決着を所望する夕山に応じ、揃って地を蹴り前方へ駆ける。


「もう! やめなさいよっ!」


 間に入って声を上げたのは、両手を自身と夕山へ向ける朝日奈ハルノ。 

 オレンジ色に近い明るい髪を、高い位置で結んでポニーテールに。母親が日本人で父親が外国人と、ハーフで綺麗な翠色の瞳が特徴的。オレンジのブラウスに白いハーフパンツを着用した、幼馴染の同級生である。


「蓮夜! 美月がなぜ蓮夜を助けたのか、本当にわからないのっ!? 動けずにいた蓮夜を、助けたかっただけよっ! 蓮夜が美月を助けたかったのと同じに、美月も蓮夜を助けたかったのっ!」


 目にいっぱいの涙を浮かべてハルノは、美月の気持ちを代弁するように言った。


「お互い助け合おうって気持ちが、なんでわからないのよっ!! 蓮夜はみんなのためにって、一人で頑張っているみたいだけど。もっと周りを頼ってよっ! 背負い込み過ぎなのよっ!!」


 大粒の涙を流し訴えるハルノの姿を見て、己の考えが間違いであったと悟る。


「蓮夜まで無理をして、もしもの事があったら……」


 力なく何度も胸を叩きにきて、ハルノは心配と不安を吐露していた。

 目を閉じて思い出すのは、美月を失った日の光景。ゆっくりと宙を落下し、地面に打ちつけられる刺股。屍怪に囲まれる中で、顔を向ける美月。口元の動きを読み、伝えようとしていた言葉はきっと。


「ごめんなさい。ありがとう」


 美月が伝えようとしていた言葉は、嘘つき咎め責めようとしたものではない。

 思い返し美月が直前に発言したのは、見捨てません。屍怪に迫られる中でも、必死に庇う一言。


「そうだ。……そうだったんだ」


 目から涙が溢れて、頬を伝わり流れ落ちた。

 人を助けるという行為は、傲慢や利己的なものに限らない。人間が誰しも持っているだろう、他者を労わる優しさ思いやり。大切なものを守りたいという、至って普通の気持ちだったのだ。


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