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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街
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第82話 追われる少女3

「彼女の生活リズムは逆転しているんです。どうにも、夜は怖いらしくて」


 夜も屍怪に追われた経験から、トラウマになってしまったと説明するカレン兄。

 民家や倉庫に避難しても、暗闇で聞こえる呻き声。さらには壁を叩かれ、気が休まらぬ夜。精神的に不安定となっては、昼にしか眠れないとの話だ。


「避難者が集まっている、避難所があるんだ。行く当てがないなら……」

「いや、結構ですっ!」


 カレン兄は頑とした態度で、言葉を遮り拒絶した。

 精神を安定させたいならば、安全と呼べる場所で心身を休める。それには多くの避難者が集まる、避難所の陵王高校が適当と思えたのだが。


「ごめんなさい。ボクらも前は避難所にいたんですけど。人間関係とか、いろいろあったので」


 以前まで過ごしていた避難所で、揉め事があったと話すカレン兄。屍怪のみならず人間同士でも一悶着あったとなれば、新たな人間と関係を築くに抵抗がある様子だ。


「妹を助けてくれた、あなたは信用しますけど。他の人たちはそうじゃない。人間はいつの時代でも、争い支配しようとする。ボクらはもう、争いに巻き込まれたくないんです」


 俯き説明するカレン兄の話を聞き、ほどなくして家を出た。

 人を疑い信じられなくなった者の、どこか暗く悲しい目。実体験を元に話す姿に、返す言葉が見つからなかった。


「兄さんも以前は明るく、人を疑う人間ではなかったのよ。今まで何度も争いに巻き込まれ、信じていた人にも裏切られ。気づいたときには、変わってしまったの」


 見送りにきてカレンは、今までの経緯を説明してくれた。

 以前の避難所で生活していたとき、避難者同士の争いが起きて険悪化。派閥ができては意見が異なる勢力を敵と見なし、蔓延する暴力や盗みと犯罪の数々。

 お互いの足を引っ張り合う展開に、派閥内でも争い分裂と対立が繰り返される日々。仲間であったはずの者同士も、次の日には敵となる日常。全てに嫌気が差した三人は、避難所を出て新天地を目指す決断をしたとの話だ。


「避難所を出てからも、とても大変だったの」


 避難所を出たカレンたちに住む所なければ、水や食料を確保できているわけでもない。最低限の荷物をリュックへ詰め込み、安全な寝床と物資を探しに街へ。

 誰とも知らぬ民家を借り、ときには廃材が置かれる倉庫で。いつどこであろうと屍怪に遭遇すれば、安全を第一に逃げて回る日々。気が休まる時は、ほとんどなかったと言う。


「人との関わりを避けるようになったのは、きっと最後に会った二人が原因」


 カレンが語る出会った生存者は、史上最悪の二人組だったと言う。

 遭遇と同時に突きつけられたのは、鉛玉の入った銃口。彼女とカレンを残していくか、全ての荷物を置いていくか。理不尽な要求を受けては後者を選び、身ぐるみ剥がされたとの話。


 三人は……そんな目に合っていたのか。


「時々はここに、水や食料を持ってくるよ。二人にも伝えておいてくれ」


 足の捻挫が治るまでには、まだ暫くの時を要するだろう。人を疑い信じられぬという、酷く冷え凍りついた心。時期が浅く記憶も鮮明となれば、簡単に意見を変えるとも思えない。

 しかし何も関与しなければ、カレンがまた食料を探す事態に。美月を探し回る身でも、見放すわけにはいかなった。



 ***



「ありがとうございます。何度も何度も」


 玄関にて水や食料を受け取るカレン兄は、深々と頭を下げ感謝の念を示していた。

 それは三人が民家を出ていくまで、何度も続けた行為。そのためカレン兄の態度は日に日に柔和となり、図らずとも多少の信頼を得られたようだ。


「誕生日や血液型に干支。聞いた話を元に、調べておいたの」


 ピンクのショルダーバッグから本を取り出し、付箋が貼られてページを開きカレンは言う。

 出会った当初から占うと言い、教えていた個人情報。出発のときとなり、どうにも結果を伝えたいようだ。


「ラッキーアイテムは雨。足元に注意」


 調べた占いの結果を、端的に教え伝えるカレン。

 しかし雨とはもはや物ではなく、天気では晴れと比較してハズレ。注意すべき点に関しては陸橋と心当たりあるも、的を射てもすでに手遅れであった。


「それじゃあ、ボクらは行きます」


 カレン兄を含め三人は、今より田舎を目指すとの話。荷物を詰めたキャリーバッグを引き、もう戻らぬ覚悟。過疎地域の山奥で、自給自足を考えていると言う。


「さようなら」


 最後尾を歩き振り返るカレンは、手を振って別れを惜しんでいた。

 きっと、これから先。三人と出会うことは、もうないのだろう。


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