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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第79話 一員

「あとはホームセンターを出て、屍怪を引きつけるだけだな」


 爆竹とライターを入手したところで、外へ出るため出口へ向かう。

 しかしそこには、またも屍怪の姿。店内を徘徊していた三体が、蓋をするよう無骨に佇んでいた。


 ここで騒ぎを起こすのは、得策じゃない。なんとか穏便に済ませ、外へ出たいな。


 事を荒立てぬよう考えていると、目に止まったのは商品のテニスボール。

 彩加たちからも話を聞き、知る情報。プラスチックボトルを投擲し、転がし屍怪の注意を引いた。テニスボールを投げれば、同様の結果を期待できる気がした。


「……ポン。ポン。ポン」


 一定のリズムを刻みながら、弾んでいくテニスボール。店奥の方へ投げると、屍怪はあとを追い消えていった。



 ***



 屍怪を引きつけるのは、当然として。犬の方も、おとなしくしていれば良いけど。


 離れた道路上にて着火させる作戦も、犬が驚き吠え暴れてしまえば事態。

 屍怪の注意を引く事になれば、作戦そのものが失敗する可能性。不確定要素は多々あるものの、その点に関しては祈る他なかった。


 ……。


 電信柱の影から様子を確認すると、ワゴン車上で静かに座る大型の白犬。

 吠えることなく、飛ばされる視線。その目は全てを悟りつつ、それでも助けを求めているよう見えた。


「頼むから、静かにしていてくれよ」


 三十メートルほど離れた場所にて、爆竹の導火線に着火。屍怪に見つからぬよう、車の影に身を隠す。


「バチバチバチバチッ!!」


 騒々しい音と白煙を上げ、宙を踊り爆発する爆竹。

 動きを止め始める、ワゴン車を囲む屍怪たち。標的とされた白犬から目を背け、音のする方へ揃い移動を開始した。


 ……よし。


 車の影にて様子を見守る中で、前方を過ぎていく屍怪たち。すぐには戻れぬと判断したところで、急ぎ白犬の元へ駆ける。


「来いっ!」

「ワンッ!!」


 呼び声に呼応して、吠えて応える白犬。駆け寄ってきてはそのまま、足並みを揃えて場を離脱した。



 ***



「……蓮夜。どうしたの? その犬?」


 陵王高校の玄関前まで戻ってきた所で、遭遇したハルノに状況を問われる。

 屍怪に囲まれる窮地を脱してからも、白犬は隣を歩き付いてきた。行く当てがないのか、それとも懐かれてか。何はともあれ一度は、陵王高校へ戻ることにしたのだ。


「屍怪に囲まれていたんだ。世話を頼む」


 白犬はグレートピレニーズという犬種で、大人と比較してもいい勝負に見える大型犬。雌犬で首輪に付いていたプレートから、名前をモコと言うらしい。

 水や食料をあまり取っていなかったのか、若干の衰弱が見られたモコ。避難所の人たちに介抱され元気を取り戻し、子どもたちの間でアイドル的な存在となった。


「またここに来ていたのね」


 拠点とする三階の空き教室を訪れたのは、薄紫色カーディガンを着た白髪の女性。目元に口元や頬と、年齢相応にある小ジワ。名前を大江(おおえ)キヨさんと言い、年齢は八十歳を超えているとの話。

 優しく温かみを感じられる人で、現在はモコの世話を一番に行っている人物。陵王高校にいる、唯一の大工。源蔵(げんぞう)さんの妻でもある。


「なんで俺なんかの傍に。来るんでしょうね」


 一人で市内を探し回る中。陵王高校の三階教室へ戻ってくると、決まってモコは傍に寄ってきた。

 今も教室隅で腰を下ろし、隣に座っているモコ。相手をするわけでもないのに、体を寄せ静かにしている。


「賢い子よ。子どもたちを相手にしても、吠えたり噛んだりしないもの」


 世話をするキヨさんは、モコは手が掛らないと言う。

 今や避難所でも歓迎され、一員となった白犬のモコ。子どもたちを相手にしては、体育館や中庭で。大人を相手にしても、大半に好かれる存在だ。


「動物にだって、人の感情を察せるのよ。きっと寄り添っているのは、あなたの痛みや悲しみ。どこか察せる部分があって、なんとかしたいと思っているんじゃないかしら?」


 キヨさんはモコの感情を読み取り、代弁するように言っていた。体を寄せ伝わる体温は温かく、毛もフワフワで落ち着きを覚える。

 しかしケジメをつけなくてはならない身。心穏やかに足を止め、立ち止まっているわけにはいかなかった。


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