第78話 ひらめき
暗号が書かれた紙を持ち、ホームセンターを歩いて回る。
しかし掴みどころなければ、簡単に解けるものでもない。暗号に書かれた内容から、何かしらの共通点など見つけないとダメだろう。
フロアマップか。
周囲を気にしつつ回っては、店内情報が記載されたフロアマップ前。左手から木材や建材に、造園道具や工具に金物。車用品に家具や寝具と、区画の詳細が書かれている。
フロアマップにあるコーナー。暗号にある漢字と、共通する部分が多いな。
暗号文とフロアマップを見比べ、一つの共通点に気づく。
暗号文の家は、家具コーナー。車は車用品に、造は造園道具。店外には自の、自転車コーナーもあった。
何か手掛かりがあるかもしれないし。行って見るか。
思い立って訪れたのは、家具コーナー。木製の収納棚やサイドテーブルに、学習机とテレビ台。寝具コーナーが隣接しているため、広々としたダブルベッドにシングルベッド。他にもオフィスチェアに革製のソファと、近くには布団やベッドシーツなども並んでいる。
来ては見たものの。何も手掛かりになりそうなものはないな。
一通り家具コーナーと寝具コーナーを歩いて見るも、暗号解読に必要な手掛かりはありそうにない。
そんな中で不意に、足元に光る物。柱を前に落下している、コインを発見した。
五百円玉か。
落ちていたのは、銀色の五百円玉。通常なら支払いに必要なお金も、今となっては交換価値も皆無。
水や食料などの必需物資。それこそ寝具など利用価値ある物と比べて、お金は何も役に立たないからだ。
……ん?
五百円玉を拾ったタイミングで、目に映ったのは小さなプレート。柱の下にひっそりと貼り付けられ、【3E―5】と番号が振られている。
これがもしかして、手掛かりなのか。だったらかなり小さく書かれているし。普通に来店しているときなら、気づきそうもない。
偶然にも目を向けたタイミングでの、発見。普通にホームセンターを訪れていたのでは、見る機会なく間違いなく見落とすだろう。
店を愛す私にしか、わからない暗号。業務日誌に書かれていた内容にも、整合性あり合点がいった。
家具コーナーの柱に番号があるなら。他のコーナーにも番号があるのかもしれないな。
番号を暗号文に、書いてメモ。手掛かりと感じては、次のコーナーへ向かうことにする。
次の車用品コーナーへ向かう途中で、前方で動くは不審な影。店内を当てなく徘徊していたのは、屍の怪物と化した屍怪。数は三体ほど確認できるも、こちらに気づいている様子はない。
屍怪に気づかれたら、暗号を解いている場合じゃなくなる。
ここは絶対に。気づかれないようにしねぇと。
息を潜めて身を隠しながら、手掛かりを探して回る。
車用品に造園道具。外に出ては自転車コーナーでも、柱の下から番号を入手した。
【家3E―5え。車2B―3ろ。自6D―8ろ。造1C―4え。ロ1 】
入手した番号を暗号文にメモすると、現在の解読はここまでになる。
しかしフロアマップを確認しても【口】くちと呼んでは、当てはまるコーナーは存在しなかった。
それにここだけ、隣に英字が存在しない。
今まで見回った柱には、全て英字が書かれていた。
英字がないということは、柱でない可能性。最後の手掛かりは、別の所に残されている可能性も浮上した。
最後が解けていないのは、ともかく。この【え】と【ろ】は、どういう意味なんだ。
金庫前へ戻り再び考えてみるも、未だに解けぬ暗号文。
金庫を解錠するには、番号を合わせてダイヤルを回す。動作としては単純で、限られているものだ。
ダイヤルを回せるのは、右と左。
暗号文のひらがなは、【え】と【ろ】。エロなわけないしな。
暗号文と顔を突き合わせ、文字を記入し色々と考察。
漢字にして書いた右と左に、ひらがなの【え】と【ろ】を見て違和感。カタカナに変換しては、一つひらめきを覚える。
ってことは、これで合っているのか。
「カチッ!」
左に回し数字の5に合わせると、微かながらに手応えを感じた。
漢字の右にはロが含まれ、左にはエが入っている。【え】と【ろ】が示していたのは、ダイヤルを回す方向だったのだ。
残すは、口1。今までの感じだと漢字じゃなく、これはカタカナなんじゃないのか?
口に関係する場所は口紅ある所のみで、手掛かりとなる柱はなかった。
ホームセンターで口に関する場所は、もう他にない。カタカナとし角度を変え見ることで、暗号は解けるような気がした。
カタカナのロ。ホームセンターでロの付く場所。もしくはロのある場所。
ロビー。ロフト。ロッカー。もしかしたら……。
ロッカーは社員室の隣。着替えのために使用する、更衣室に存在していた。
更衣室ロッカーの一番は、【鈴木店長】と書かれた場所。開くと裏側には、【3―え】と書かれている。
ロッカーだけロかよ。とりあえず、これで暗号は解けそうだな。
更衣室の更なく不親切さを覚えるも、解読した暗号を元に解錠作業へ。
正しく解けていたようで、ほどなく開かれる金庫。中には業務日誌に記載されていた通り、商品の爆竹が残されていた。




