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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第76話 市長の手記

 美月の両親は、市役所に避難したって言ってたよな。


 美月の両親に会うのは、正直なところ怖い。事実を伝えれば、どんな反応をするか。子を失った親の心境は理解できずとも、その悲しみ深きこと想像がつく。

 しかしありのままの事実を、伝えなくてはならない。美月が身を犠牲にし、生かされた命。伝え説明することは、義務のようなものだ。


 ……。


 終わりの始まりとなった、四月二十日。以前までの日常が全て失われ、何もかも変わってしまった日。

 境となった日を、今では終末の日と呼ばれている。国道を商店や民家を横目に進み、現れたのは大手のハンバーガーショップ。


 ここは何度か、来たことがあったな。


 ハルノや啓太と学校の帰りに、訪れたことあるハンバーガーショップ。

 しかし今は人の姿なき、ゴーストタウンのような街。明かりなき店内は暗く、店の前にはゴミが散乱。紙コップやハンバーガーの袋に、関係ない衣服なども散らばっている。


 ……。


 静寂にある街を右折左折と進み、見えてきたのは一際大きな三階建ての庁舎。新しく建て替えられたばかりで、外壁に窓ガラスと綺麗な外観。

 車が二百台は止められるだろう、広い駐車場が隣接。商業施設が並ぶエリアから少し離れた場所であるも、交通の便も良き好立地の市役所である。


 市役所も……屍怪の侵攻を、防ぎきれなかったのか。


 木板などが打ち付けられ、補強さている正面玄関。

 しかし現在の正面玄関は、開かれたまま。亀裂の入った窓に、割れてしまっている窓。足元には無数の足跡が残されており、泥と血痕が多く付着している。


 市役所を放棄して、逃げた可能性もあるし。中に入って、探索してみるか。


 近くに屍怪の姿もないことから、市役所へ入る決断。

 天井高く開放感ある広間に、窓口となる場所では名目ごとに区切られた空間。待合室にはソファが縦三列に横三列と規則的に置かれ、テーブルにはペンなど文房具が残されている。


 特に気になる物は……ないな。


 情報収集のため。職員の机上を見て、引き出しを開けて確認。それでも逃げ先など、手掛かりとなる物はなかった。

 しかしそれでも諦めるに早く、他の場所を回ることにしては二階へ。ガラスのサンプルケースには、ラーメンやカレーなどの食品サンプル。隣には各種値段が貼られた券売機が置かれ、頭上には【食堂】と書かれている。


「カタカタカタッ……」


 食堂内に入っては、どこからか響く震える音。

 食堂内ではテントが張られ、残されるは寝袋に鍋やヤカン。市役所に避難した者の、生活が想像できる所となっていた。


 ……!


 音の発生源を探し歩いては、窓際で揺れ動く車椅子。前方へ回り込み覗いて見ると、座っていたのは普通の人と異なる存在。


「ウゥウッ……」


 苦しそうな表情を浮かべ体を前後に揺らすのは、たるんだ頬にほうれい線が目立つ老婆。唸り声を漏らしてはヨダレを垂らし、血に汚れた網目状の黄色いセーターを着用。言葉なく暴れる様は、まさに屍怪である。

 しかし両腕は肘掛けに紐で縛られ、両足も車椅子にしっかりと固定されている。そのためどう抗っても、動けはしないようだ。


 屍怪と化した状態では、尊厳もありはしないな。

 苦しまないように。早く終わらせてあげたほうが、本人のためだ。


 ベルトにホルダーを通し、所持していたサバイバルナイフ。屍怪と化した老婆の頭に、こめかみから深く突き刺す。

 絶命したようで、動かなくなる老婆。意識なき屍怪からの解放と思えば、この一撃にも意味があるよう思えた。



 ***



 食堂を去ってからも、市役所の探索を続けた。街の景色が見える屋上に、テーブルと椅子が並ぶ会議室など。

 どこの部屋もテントや衣服に日用品があり、生活の痕跡が残る状況。それでも人の姿はなく、全体的に荒れていた。


「これは……」


 立派な机と椅子が置かれる、雰囲気ある市長室。電話や書類にパソコンとある中で、市長が書いたと思われる手記を発見した。


【避難を始めて、十日。今はまだ避難者を統制できているが、市役所を捨て田舎へ避難すべきとの声もある。自衛隊への救助要請を出しているも、未だ来ず。どう判断するべきか】


 市長の悩み葛藤する様が、手記には残されていた。


【避難を始めて、十五日。市役所に残された食料も、いよいよ厳しい状況となってきた。中には勝手に市役所を抜け出し、物資を探しに行っている者もいるようだ。しかしその頃から、集う屍怪が増えた気がする。きっと屍怪に気づかれた状態で戻り、結果として呼び寄せる事態となっているのだろう】


 市長の判断とは別に、己が判断で動く避難者たち。


【避難を始めて、十七日。限界が近いようだ。統制できなくなった避難者たちは暴徒と化し、市役所に集まり続ける屍怪。もう何もかも投げ捨て、この場から逃げたい】


 市長の追い込まれていく様が、手記の内容からはよくわかる。


 手記に書かれているのは、これで終わりか。このあとにきっと、屍怪の侵入を許したんだろうな。


 市役所に避難したとされる、美月の両親。田舎へ避難したのか、屍怪に襲われたのか。

 市役所を一通り探してみるも、生存者の姿や情報は発見できず。どうなっているのか、今は知る術がなかった。


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