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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第75話 陵王高校

「ちょっと! 蓮夜! また一人でどこに行ってたのよ!?」


 病院の探索から戻ったところで、玄関前にいたハルノに行動を問われる。

 陵王高校に着き、今日で一週間。意識を取り戻した日から、何をするにも常に一人で行動していた。


「……」


 問いに答えることなく、無言で玄関を通過。廊下を歩き向かうのは、校舎の端にある体育館。現在は多くの避難者たちが身を寄せ合い、生活の居とする避難場所である。


「痛いのないっ!? もう終わり!?」


 居住スペースの一角で、声を上げる五歳前後の女児。今にも泣き出しそうな顔で、とても不安気な表情をしている。


「終わりだよ。偉かったね。もうお姉さんだもんね」


 白衣を着た中年の男性医師は、細い目を緩ませ温かい表情を見せる。

 黒髪で短髪の男性医師。温厚かつ優しく親身で有名な、避難所で唯一の医師である。


「とても元気で、良い状態ですね」


 診察の終了とともに女児は走り去り、男性医師は両親だろう人たちに向き合っている。

 現在の陵王高校には、八十人ほどの人が避難している。避難者の大半は、この体育館に。床にはブルーシートと布団が敷かれ、区切られたスペースには衣服やタオルに雑誌。居とする者の生活感が、露わになっている状況だ。


「でも、先生。どうすれば良いんでしょうか? 昨日も発作が出て。とても苦しそうで、薬も僅かしかありませんし」


 女児の症状を説明するのは、父親と思わしき人物。


「小児喘息は成長して体力が付けば、治るとされているんですけど」

「先生っ!! 私たちはそんな先の話をしているわけじゃないんですっ!!」


 男性医師の穏やかな説明を遮り、母親だろう人物は声を荒げている。薬が無き状況となれば、全く余裕はないようだ。

 屍怪が徘徊する世界となっては、何もかもの調達が難しくなった。それは生きていくに必要な食料から、病に対する薬も同様の話である。


「どうかしましたか?」


 話しを途中に診察の場へ近寄ると、男性医師は用件があると思ったようで振り返った。


「……これを。薬です」


 ポケットから取り出し手渡すのは、病院で入手した薬と吸入器。


「これをどこから?」


 男性医師に入手経路を問われるも、用が済めば深入りするつもりはない。無言で診察の場を離れると、体育館の出口にはハルノと啓太の姿。


「……」


 様子を見守っていた二人とも、言葉を交わさず無言で通過。

 廊下を歩き階段を上って、三階の空き教室。机や椅子は後方に下げられ、広く空間が保たれた場所。今は一人で使う所で、隅に腰を下ろし休憩へ入った。


 ……少し、疲れたな。


 両膝を立てて顔を伏せ、疲労感に息を吐く。

 薬が足りないことは、話が伝わり知っていた。病院へ出向いたのは、意図してのもの。探し人を探す中で、訪れた機会。さらに貢献できるとなれば、一石二鳥であったからだ。



 ***



 太陽が東の彼方から、完全に顔を出す前。明るくなってきた空を下に、校舎を出て一人で動き始める。

 向かうは、岩見沢の街中。閉ざされたままある校門を越え、いざ敷地外へ。


 ……。


 避難所になっている、陵王高校。校門は黒い鉄柵に、敷地は全て緑のフェンスで守られている。

 陵王高校の立地する場所は、街外れの高台。前方は緩やかな坂と住宅地で、後方は深き緑の森林となっている。


 ……。


 数ある住宅を横目に坂を下り、訪れたのは弓なりに反り返るアーチ状の陸橋下。干からび朽ちた屍怪の亡骸に、転がるコンクリート片。

 崩れた陸橋の下から見上げる空は、なぜかいつも曇って見える。


 ここには、いないよな。


 意識を取り戻してから何度も訪れている、最期に会ったこの場所。思い返せばいつだって、脳裏に焼き付いた光景が甦る。

 屍怪に囲まれ襲われる美月に、瓦礫に足を挟まれ見ている自分。別の道を通っていれば、時刻が数刻でも異なっていれば。全ては違う結果になっていたのではないか。いつもそんな変えようもない事を、繰り返し想像しては後悔していた。


 ……もう、行こう。


 陸橋の下からは離れ、再び街へ歩き出す。

 ここにいない美月を探すため。当てのない道を彷徨い、最期のケジメをつけるために。


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