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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第三章 変貌の街

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第74話 果たせなかった約束

「どう言う事なんだよっ! ハルノっ!!」

 

 机や椅子が後ろに下げられた、陵王高校三階の教室。隅に追い込んでは壁を叩き、ハルノに真相を追求していた。

 

「……事故。いや交通事故って、言ってたじゃねぇか!?」

 

 大怪我をして記憶障害となった理由は、ハルノに交通事故が原因と聞かされている。

 

「もしかして、蓮夜。……思い出したの?」

 

 しかし実際は異なるところで、追求にハルノは動揺していた。

 陸橋が崩落し屍怪に迫られ、美月を失ったとき。精神的なショックが、きっかけとなってか。朦朧とする意識の中で、大半の記憶を取り戻していた。

 

「なんで嘘までついて、隠してたんだよっ!?」

 

 発端となるのは交通事故ではなく、全く異なる事件が原因。

 嘘をつく動機に、その必要性。なぜ隠していたか理解できず、納得いく答えが欲しかった。

 

「……だって。そうしろって、言われたのよ」

「誰にだよっ! なんのためだよっ!」

 

 指示があったと言うハルノは、自白を躊躇う犯人の様。

 

「……に頼まれたのよ」

 

 声を小さく視線を逸らし、ハルノは未だ答えるかを悩んでいる様子。

 

「聞こえねーよっ! もっと大きな声で言えよっ!!」

 

 しかしここまで真相に迫っては、答えを途中に曖昧とさせるわけにはいかない。

 

「蓮夜のお父さんにっ!! 頼まれたのよっ!!」

 

 声を大にしたハルノの激白に、戸惑い動揺から言葉に詰まる。

 

 ……父さんに!? なんで? なんのために?

 

「どうしたんだよ? 凄い大声じゃん。……ああ。蓮夜。もう調子は大丈夫なのか?」

 

 教室を訪れたのは、一人で歩いてきた啓太。いつもより少し余所余所しく、気を遣っている感が否めない。

 

「……問題ない。でも俺の代わりに、美月が……」

 

 顔を逸らしたくなる、受け止めたくない現実。陵王高校に着いてから、意識が戻るまで三日。すでに大枠は聞き知り、詳細を省けば理解している。

 

「オレたちが駆けつけたときには、美月ちゃんは屍怪に飲まれていたんだ。そりゃあ、助けたかったけどよ」

 

 いつも軽快に話す啓太も、内容が重く歯切れが悪い。

 崩れる陸橋から落下したのは、自身と美月のみだったらしい。落ちることを間逃れた四人は、迂回し下へ駆けつけたとのこと。

 

「なんで……俺なんかより、美月を優先しなかったんだよ」

 

 八つ当たりに等しい発言をしてしまうも、本当は難しい話だとわかっている。それでも自責と後悔を飲み込めず、当たり所を求めて出た言葉。

 美月を救うべきであったのは、最も近くにいた自分自身。本来なら責められる対象であり、責め苦を受けるべきは己。

 

「……蓮夜」

「少し。一人にしてくれ」

 

 声をかける啓太を横に、一人で教室を出た。

 

 物語は……ハッピーエンドで、終わると思っていた。

 

 屍怪に襲われ数々の死を見つめつつも、心のどこかで自分たちは大丈夫だと思っていた。

 何があっても、自分たちは死なない。慢心に不甲斐なさ。他を責める器の小ささに、力が足らず腹立たしさ。様々な感情が入り混じり、全てが嫌になった。

 

 俺に人を守れる力なんて、最初からなかったのに。

 

「何かあったら守ってくださいね!」


 札幌駅地下のシェルターで出会い、笑顔を向けて言う美月。岩見沢までの道のりをともに歩き、守ると約束をした人。

 

「おう! 任せとけって!」

 

 照れを隠しながらも胸を張っているのは、己が力を過信した愚か者。

 三階の誰もいない、空き教室。教室の隅に腰を下ろし、顔を伏せて考える。

 

 美月は最期に、なんて言ったんだ?

 

 陸橋の下で美月が屍怪へ向かっていったとき、囲まれている中でも何かを訴えていた。騒然とする中で声は聞こえなかったものの、口元が動いているのは間違いなく確認できたのだ。

 

 嘘つきとでも、罵られたのか。

 当然だよな。俺は約束を、守れなかったんだから。

 

 果たせなかった約束は、自責と後悔の呪縛。できないことを安請け合いする愚かさに、自分の力を過信する傲慢さ。

 守ると約束をした人に、結果として守られる始末。何を指針として生き行動していたのか、もう全てわからない。


 俺はまた、繰り返したのかよ。

 ……もういっそ、一人で行動しよう。俺が一人で全てをやれば、誰も傷つく姿を見なくていいはずだ。


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