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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第二章 生者の帰路

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第72話 到着

 屍怪が近づいている。このままだと……二人ともヤバい。


「美月! 近くに刀が落ちてないか!? 落下したときに、落としたみたいなんだっ!」

「探して見ます!」


 把握したと即座に、刀を探しに回る美月。積み重なった瓦礫の隙間に、足場が悪くなった周囲の全体。


「……ダメです。見つかりません」


 しかし美月の見える範囲にも、刀はないようだった。

 迫りつつある屍怪に対し、刺股を向けて構える美月。先端に丸みがあるとなっては、殺傷能力は皆無に等しい道具。一体であれば動きを封じられるも、多数を相手するに無謀なのは明白だった。


 このままだと……美月まで、俺の巻き添えになっちまう。


 今ここで撤退の判断を下せば、無事に逃げられるだろう状況。しかし屍怪との戦闘になっては、共倒れになること必死だった。


「美月! 俺を置いて逃げろ! このままなら二人とも……お終いだっ!」


 いつかは訪れる可能性あった、己の死。シェルターを出て屍怪と遭遇し、何人もの死を見つめてきた。

 しかし誰しも自分自身が簡単に、死ぬとは思わなかったことだろう。変わってしまった終末世界に例外はなく、仲間を巻き込むとなれば覚悟を決める他なかった。


「そんな……置いて行くなんて、できませんよ!」


 岩見沢までの長い道のりを、ともに行動して来た美月。性格を知った仲であるから、当然には受け入れない。また承知してくれるとも、思ってはいなかった。


「俺は足が挟まれて動けないんだっ! どうしようもないだろっ!」


 しかし身動き取れぬとなれば、致し方ない話。感情的な面では理解できるも、現実を見て判断してもらう他ない。


「だからって……。私は見捨てませんっ!!」


 死を覚悟した懸命の説得にも、美月は頑なに納得してくれなかった。


「いやあああああ――――ッ!!」


 屍怪と戦う覚悟を固めたようで、叫びとともに向かっていく美月。Y字型の刺股は腰を捉え、一体の動きを見事に封じた。


「数が多すぎるっ! 全てを相手にするのは無理だっ! 今なら間に合うから、美月は逃げろっ! 」


 屍怪の動きを封じたからといって、活動停止にさせたわけではない。

 一体の前進を阻むことで、必死であろう美月。後続の屍怪を相手にするのは、間違いなく無理な話であった。


 ……なんだよ。……この感覚は。


 舞い上がる砂埃の一粒。風に揺れる道端の草に、奮戦する美月と迫る屍怪。

 時の流れが遅くなったようで、全ての出来事がゆっくりかつ鮮明に。一秒が一分に感じられるほど長く、全ての感覚が研ぎ澄まされたよう思える。


「カランッ!」


 ゆっくりと宙を落下し、地面に打ちつけられる刺股。屍怪に囲まれる中で、顔を向ける美月。口元は動き言葉を発していることは、揺るがぬ事実として間違いなく理解できる。

 しかし伝えようとしている言葉は、屍怪の呻き声などにより妨害。耳に届いてくることは、最期までなかった。


「……やめてくれ。やめろおおお――――ッ!!」


 一体が刺股を叩き落とすと、屍怪は美月に襲いかかった。後続も到着しては連動し、瞬く間に見えなくなる姿。


 ……俺は。俺は……何をやっているんだ。俺は美月を守るって、約束したのに……。


 屍怪に襲われる美月を前に、瓦礫に足を挟まれ動けぬ体。

 何もできぬ無力感に、助けられなかった絶望感。心と身体の隅々まで、暗き闇に侵食されていくようだった。


「うわあああああ――――ッ!!」


 凄惨な光景を目の前に、頭の中で何かが切れた。

 同時にフラッシュバックする、いくつもの光景。多くの写真が渦を巻き、頭の中に流れ込む感覚。


「あなたは××××に似て、なんでも一人で背負い込んでやろうするから。自分の力の範囲で、できる限りのことをやりなさい」


 瓦礫が積もった薄暗い空間で、栗色の髪をした女性が訴える。


「どんな頑丈なものにも、脆く弱点となる場所はある。そこを狙えば、効果的ってやつだ」


 胸を張って自信気に言うのは、背が高く体格も良い短髪の男性。


「戦うってことは、譲れないってことさ」


 軍服を着たツンツン頭でつり目の男性は、振り向くと前方を見据えて言う。


「おい! 蓮夜! 大丈夫か!?」


 目蓋が重く意識が遠のく中で、微かに啓太の声が聞こえる。


「早く逃げないとヤバいじゃん!」

「瓦礫を持ち上げて、一気に引き抜きましょう! 彩加ちゃんと真弥ちゃんも手伝って!」


 近寄ってきた啓太とハルノは、瓦礫を退かそうとしているようだ。


「……美月」


 見える景色が歪み霞む中で、美月のいる前方へ手を伸ばす。群がる屍怪の中心にいるだろう。守ると約束をした人。


「……急いでこの場を離れましょう」

「……それしかないじゃん」


 全身に力が入らなくなっては、ハルノと啓太に支えられる体。挟まれていた足が抜けたところで、舞台の幕が閉じるよう意識を失った。

 札幌から長い道のりを経て、ついに岩見沢までたどり着いた。最後に美月という、大きな犠牲を払って。


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