表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第二章 生者の帰路
71/322

第70話 置き手紙

「気づきませんでした。読んでみます」


 手紙には達筆な字で、母のメッセージが残されていた。


【美月へ。電話は繋がらず。メールが届いているかもわからないので、手紙にして伝言を残します。お父さんは市長とともに市役所へ避難しているようで、お母さんと庭師の青葉(あおば)さん。お手伝いの中村(なかむら)さんとで、市役所へ向かうことに決めました。美月も手紙を読んだら、市役所へ来てください】


 小柄で目つきの優しい青葉さんは、長くに渡り庭の手入れを担当する庭師。眼鏡を掛けふっくらとした体型の中村さんは、家事を担当するお手伝いさん。

 二人とも子どもの頃からよく知る、家族同然の人たちである。


 お母さん……。お父さん……。


 手紙を読み進めると、下の方に一文。震える文字で、最後に何か書かれている。


【お願いだから、……無事でいて】


 手紙を書く母の姿を想像。心境を察すると、自然に目頭が熱くなる。


「大丈夫か? 美月?」

「はい。お母さんたちは、市役所へ避難したみたいです」


 顔を向けて問いかける蓮夜さんに、動揺を悟られぬよう涙を拭う。


「市役所か。なら街中だな」


 蓮夜さんの言う通り市役所は、街の中心部に位置している。

 先へ進むことは、全員が望むところ。まずは近場の啓太さん宅へ行き、それぞれの目的地へ。今は焦らず、順番に回る他なかった。


「美月ちゃんの家とは、通りが三本違うだけじゃん。きっとどこかで、すれ違ったりしてたんじゃね?」


 自宅を出て前方を歩く啓太さんは、顔を向けて言った。通りが三本違うだけとなれば、移動に数分しか時間を要しない。

 朝の通学時や、帰宅の際に。はたまた買い物などで出かけるときなど。どのタイミングで顔を合わせていても、不思議ない距離である。


「そうですね。それでも機会がなければ、話すことさえなかったかもしれませんね」


 人と知り合う縁。多くは生活環境が変わる、入学やクラス替え。就職や転居といったタイミング。

 人生のターニングポイントとなる機会。各々と懇意になれたのは喜ばしく思うも、大事でなければと思わずにはいられなかった。


「やっぱり家には誰もいなかったじゃん」


 青い屋根の二階建て民家から、リュックを背負い出てくる啓太さん。


「でも陵王高校に行くって紙があったんだろ?」


 一緒に入っていた蓮夜さんも、続き民家から出てくる。啓太さんの家族は、陵王高校に避難したとの話。

 啓太さん宅前で待っていた女性陣。合流したところで、再び主要道路となる国道に出た。


「よし! 行こうぜ! 目指すはそれぞれの自宅に、市役所と陵王高校! みんな無事に避難して、一緒にいるはずだっ!」


 曇りなき眼で先を見据え、全体に檄を飛ばす蓮夜さん。

 背を押すよう吹く、温かい追い風。進行方向に蓮夜さんのアンテナ髪が向くと、期待と希望を持って岩見沢市内へ入った。



 ***



「なんでも良いから、お風呂に入りたいわね」


 目前に【ゆらゆら】と書かれた温泉施設が現れ、眺めてハルノさんは入浴を切望した。


「本当に。私も同感です」


 暫く間。まともに湯へ浸かる機会は、設けられていない。

 それどころか湯に触れることさえ、少ない状況。久方ぶりに湯船に浸かりたいのは、全員。特に女子ともなれば、切実に欲するところだった。


「一応は二日前に。風呂には入ったじゃん」

「あんたのそれは、シャワー。汚れだって気になるし。ゆっくりと湯船に浸かって、リラックスしたいって話よ」


 淡々と告げる啓太さんに、ハルノさんは間違いを指摘している。


「服の汚れは仕方ないけど。そもそも風呂なんて、二日に一回くらいで十分じゃね?」

「えーっ! お風呂は毎日入りたいよっ!」


 啓太さんの入浴意識に対し、彩加ちゃんは声を大に反論している。

 以前までの世界ならば、朝と夜に二回。欠かさずお風呂に入り、シャワーを浴びていた身。大事となれば仕方ないと妥協しているも、啓太さんの入浴意識は理解できないところであった。


「浴槽に毎日は入らなくても良いけどな。シャワーくらいは浴びたいよ」

「私はできれば毎日。浴槽に入りたいです」


 続き入浴意識を述べる、蓮夜さんと真弥ちゃん。

 女子は全員が浴槽に浸かりたいとの意見に対し、男子は隔日であったりシャワーで十分というもの。ここ入浴についての意識差は、性別によって違いがハッキリ出たようだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ