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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第二章 生者の帰路

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第54話 不名誉な称号

「でも、やっぱり失敗だったよぁ。あのとき進んで注意しに行けば、良い思いをしたのはオレだったじゃん」


 椅子に座って天井を見つめる啓太は、未だに行動を後悔していた。


「まだ言ってるのかよ。なら今からでも、行けばいいんじゃねーの」


 ベッドに座って話を聞くも、同じ内容をすでに三回目。相手をするのも、さすがに面倒となっていた。


「なるほどっ! その手があったか!? もう一回! 注意しに行けばいいんじゃん!」


 発言をどう解釈してか啓太は、寝室へ行くつもりのようだ。


「正気かよっ!? マジで殺させるぞっ!!」


 さきほどは怒りに任せ、枕や目覚まし時計を投げてきた女性陣。再び寝室を訪ねても、結果は見えているだろう。


「なあ、蓮夜。なぜ山に登るのかって、登山家の話があったじゃん」


 穏やかな表情で言う啓太は、どこか悟りを開いたようである。


「そこに山があるからだ。ってやつだろ」


 挑戦するための、己が芯とする動機。誰しも一度は聞いたことがあろう、広く知られる名言である。


「すぐ近くに魅惑の花園があって、扉を一枚隔てた先にある。となれば多少のリスクを背負うのに、オレはなんの未練も後悔もないっ!」


 名言を悪い意味で解釈した啓太は、断固たる決意を固めたようだ。

 決め顔を作り、堂々と言う様。しかし啓太の発言は、ただの迷言である。


「あー。そこまで言うなら好きにしろよ。俺は止めたからな」


 相手をするのも嫌気が差したので、やむなく匙を投げて諦めた。

 散々の制止も甲斐なく、愚断を下した啓太。女性陣がいる寝室へ、意気揚々と向かっていく。


「どうだ!? 諸君! 元気かねっ!?」


 注意をするのかと思った矢先、啓太の発言はまさかの体調確認。


「きゃああああああああ――――――――ッ!!」


 予想通りに発せられる、女性陣の危機たる悲鳴。


「死ね! この変態!!」

「信じられないっ! 一度ならず二度までも!!」


 ハルノと美月による、怒号と罵声。

 啓太が制裁を受ける音は、子ども部屋まで響いていた。



 ***



「せめてノックをしようとか。思わないわけ?」

「はい。すみません。おっしゃる通りです」


 仁王立ちをして言うハルノに対し、正座をして謝罪する他なかった。

 騒動が一段落してから、中央の書斎。先に制裁を受けた啓太は、床に伏せて倒れている。


 ここは謝り続けるしかない。下手な言い訳をしても、啓太の二の舞。

 きっと自分自身を、不利なほうへ追い込んじまう。


 荒れ狂う海にある船。波に逆らっては、船体を痛めて沈没。

 今は荒れ狂う波に逆らわず、嵐が過ぎるのを待つ。己が身を守るには、最善の手段に思えた。


「蓮夜さんのは、事故みたいですし。もうこの辺で許しても、良いのではないでしょうか?」


 仁王立ちする鬼神ハルノを前に、救いの手を差し伸べてくれる天使の美月。椅子に座る彩加と葛西さんは、目さえ合わせてくれない。


「甘いわね。事故を装った計画犯かもしれないわよ。そもそも濡れた服を乾かすって、最初から話していたわよね?」


 しかし鬼神と化したハルノに、容赦はなかった。

 結局のところ。罪は許されたものの、『ムッツリスケベ』の称号を。啓太は『犯罪者予備軍』という、不名誉な称号を科せられる結果となった。

 


 ***



 民家で雨宿りをしている間も、振り続ける雨は激しさを増した。バチバチと窓を叩きつけ、家中に響く風切り音。

 どんよりした鉛色の空。時折り目を眩ますような雷光が発され、体の芯へ伝わる重い雷鳴が響く。


「こう悪天候となっては、先へ進むのは難しそうですね」


 書斎の窓から外を眺める美月は、好転の気配ない空を見て言った。


「もうすぐ日も暮れるし。今日はこの家に留まって、過ごしたほうが良いかもな」


 時刻はすでに十七時を過ぎ、夜へと向かう時間帯。加えてこの悪天候。現在の民家に留まることを、反対する者はいなかった。


「となれば、食料を探しに行ったほうが良いんじゃね? キッチンになら、食料が残されているかもじゃん」


 と言う啓太の提案もあって、キッチンへ向かうことになった。

 一階のキッチンに着くと、台所下からは缶詰。他にも収納棚からは、カップ麺に即席麺。腹を満たすに、十分な量の食料は確保できた。


「昨日みたいに、階段を封鎖できれば良かったのに。少し不安だね」


 書斎で彩加に話しかける葛西さんは、作り笑顔で不安を吐露していた。

 昨日の民家と構造が異なるため、ソファなど大きな物での封鎖は不可能。今は空き缶に穴を開け、紐を通して手すりに吊るす。侵入者が来たら音を鳴らし知らせるという、原始的なトラップを仕掛けるしか手段はなかった。


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