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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第二章 生者の帰路

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第50話 豊平川

「仕方なかったわよ。野口さんは、正気じゃなかったもの」


 どんよりと重たい空気が漂う中、リビングのソファに座るハルノは言った。

 野口さんが和室へ引きずり込まれてから、時間にして十分ほど。今は今後の先行きを考える、緊急会議の最中である。


「表に屍怪はほとんどいなかったじゃん。もう家を出て、先を急いだほうが良いんじゃね?」


 啓太と二階から見た限り、表の道路に屍怪は少なかった。今すぐに出ていくことも、十分に可能な話である。


「野口さんは、多分。嘘をついていたんだろうな」


 野口さん宅に寄ると決めたのは、表に屍怪がいると聞かされたから。

 しかし蓋を開けて見れば、数は少数。餌という発言からも、真実味の薄い話となった。


「でしょうね。屍怪が表にいるって言うのは、私たちを誘い込むための罠。たくさんいるはずの屍怪が、簡単に離散するはずないもの」


 離散するタイミングまでを加味し、ハルノも嘘という結論に達していた。


「屍怪が徘徊する世界になっても、人を騙し陥れてようとする奴がいるのかよ」


 悪意を向けてくる人間がいれば、下手すれば屍怪より厄介な相手。


「これが野口さんに限った話でないなら、生存者に遭っても……素直に喜べないかもしれませんね」


 悪意ある人間との遭遇を、美月も危惧していた。


 屍怪を相手とした場合。逃げるか。倒せば良いけど。

 人間相手になると、簡単な話じゃないしな。


 人間と遭遇したとき。前提として、悪意はないか。信用できる者か。

 判断が叶わぬ場合。警戒心から近づくことさえ、許せぬ可能性も発生するだろう。

 


 ***


 

豊平(とよひら)川にぶつかりましたね」


 対岸まで遠き大きな川を見て、美月は言った。

 野口さん宅から道路を一直線に進み、土手を越え現れた豊平川。札幌市の中心を跨いで流れる、一級河川である。


「ここだけ見ていると、街で起きていることが……嘘のように思えるな」


 膨大な水量を下流へ運び、悠々と流れる豊平川。変わらぬ自然の力を見せつけられては、全てが夢幻のようにも思える。


「そうね。でも人がいないことだけが、違和感よ」


 ハルノの見つめる河川敷には、サイクリングロード。パークゴルフ場に、グラウンド。市民の憩いの場となる施設が、幾つも存在している。


「そういやニュースで見たじゃん。この河川敷で、バーベキューをしているの」


 啓太の知る情報によると、河川敷周辺はバーベキュースポットでもあるらしい。


「詳しいのね。札幌に住んでもいないのに」


 ハルノは予想外の知識に、素直に感心していた。


「今の時代。情報こそが命じゃん。インターネットにSNS。便利なツールは使って、活かさないとじゃね?」


 啓太が情報通であるのは、校内に置いても同じこと。

 ある種の噂や事件。意外と知らぬ情報も、聞けばそれなりに答えくれる。そこそこ頼りになる、存在でもあった。


「あの橋は避けるのですよね?」


 前方に川を跨ぐ長い橋を捉え、美月は言った。


「橋の先は街へ続くからな。少し遠回りになるけど。仕方ないよ」


 前方にある橋を渡れば、白石(しろいし)方面。札幌でも人口の多い地区であり、街としても発展した場所である。


「それに俺たちが渡る予定の雁来(かりき)大橋だって、もうすぐだしな」


 リスクを避けるため、先の雁来大橋を渡る決断をした。

 雁来大橋の先は、裏道的な場所。白石方面と並列した通りであるも、建物や信号機は非常に少ない。あるのは僅かな民家と、大きく広がる田畑。面積の広い、北海道らしい道である。


「雁来大橋の先なら、道は開けているはずですよね。それなら警戒も少しは、楽になりそうですね」


 美月と先の展望を話しつつ、河川敷沿いを歩き進める。


「……雨。降ってきたね」


 鼻の頭に水滴が落ちてきたところで、雨に気づき彩加は告げた。

 空には鉛色の雲が広がり、重く垂れ込んでいる。今にも本格的に、雨が降りそうな気配であった。


「本降りになる前に、雨宿りできる場所を探したほうが良さそうだな」


 適した場所を探しつつ、雁来大橋を目指し進む。

 札幌の街中を進み、今や市内でも外れ。とは言え周囲には、まだまだ多くの民家が存在する。


「橋の下までもう少しだっ! 急げっ!!」


 ポツポツと振り出した雨は次第に強く、道路には次々と水玉模様が描かれてゆく。


「ゲリラ豪雨でしょうか? 早く止めばいいですけど」


 雁来大橋の下にたどり着いたところで、長い黒髪を濡らす美月は言った。

 突如として降り出した雨は、勢いを増して土砂降りに。バチバチと道路を叩く雨音。地上に落ちた水滴は小さな流れを作り、排水溝へ向かっていく。


「酷い土砂降りになったじゃん。これはもう、暫く止まないんじゃね?」


 暗い空を見上げて言う啓太も、すでにずぶ濡れの状態である。


「とりあえずは落ち着くまで、雨宿りをしようぜ。橋の下にいれば、雨には当たらないしな」


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