表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第二章 生者の帰路
49/322

第48話 死の解釈

 ―*―*― 蓮夜視点 ―*―*―



「どうしたっ!? 何かあったのかっ!?」


 急ぎ一階まで戻ってくると、リビングには野口さんが立っていた。


「君たち。戻ってくるのが速いなぁ」


 野口さんの手には、中華包丁が握られている。


「蓮夜! 気をつけてっ! その人! おかしいわよっ!!」


 仏間の方から聞こえる、切羽詰まった様子のハルノの声。

 どうにも中華包丁は、ハルノたちに向けられているようだった。


「どうしたんだよっ!? 野口さ――――」

「はあぁあああっ!!」


 事情を問おうとしたところで、振り上げられる右腕。野口さんはこちらに向け、中華包丁を振り下ろしてきたのだ。


「マジかよっ!? 避けろっ! 啓太!」

「嘘じゃん!!」


 呼応した啓太とともに、寸前のところで回避。中華包丁は家の壁に、ザクっと突き刺さった。


「おいおい! 冗談じゃあ済まねぇぞ! これ!?」


 壁に突き刺さった中華包丁を見て、啓太は声を荒らげている。

 今まで温厚であった野口さんの、突然の凶行。今しがた一階へ下りてきた身としては、全く状況が飲み込めなかった。


「どうなってるんだよ!? 何か野口さんを、怒らせるようなことでもしたのか!?」


 野口さんの攻撃を回避したことにより、仏間にいる女性陣と合流。


「壁を叩いた呼びかけがあったから、和室を覗いて見ただけよっ!」


 ハルノは端的に経緯を説明するも、動機になるとは思えない話。

 野口さんは『和室に近づかないで』と、初めから言っていた。しかし言いつけを破ったからといって、中華包丁を振り下ろす。ここまでの凶行に及ぶ、必要性はないだろう。


「それより蓮夜! すぐに和室を見てみなさいっ!」


 息をつく暇もなく、ハルノの強い要請。今の野口さんから目を離すのは、怖いところ。

 しかし何を置いても和室には、確認しなくてはならないこと。見なければならない、事実があるようだ。


「……なんだよ。……これ」


 襖が開かれた和室には、二体の屍怪がいた。一体は大人の女性で、もう一方は小さな男の子。

 屍怪はともに首輪が付けられ、鎖は家の柱に繋がれている。そして畳の上に転がる死体を、必死に貪り続けていた。


「野口さん!? なんで家の中に、屍怪がいるんだよっ!?」


 家の中に屍怪を留めるとは、理解不能な行動。鎖を付けて飼うなど、狂気の沙汰である。


「なんでだってっ!? そんなの、決まっているじゃないかっ!?」


 壁に突き刺さった中華包丁を抜き、顔を歪める野口さん。


「紹介するよっ!! 妻と息子だっ!!」


 野口さんが中華包丁を向ける先には、二体の屍怪。

 和室にいる大人の女性と、小さな男の子。二体の屍怪は、野口さんの妻と息子。その二人だったのだ。


「おいおい。妻と息子って、屍怪じゃん。……野口さん。イカれちまってるのかよ」


 啓太は野口さんの発言に、耳を疑っている。元は家族であったとしても、今は屍怪。

 屍怪を家族として扱うのは、無理ある話だった。


 野口さんは二人が屍怪と化したことを、受け入れられてないのか。


「二人が野口さんの家族だとして! なんで俺たちを襲うんだよっ!? 俺たちは二人に何もしてないし! 襲う必要なんてないだろっ!?」


 屍怪を家族として扱っていても、こちらは危害を加えていない。野口さんに襲われる理由など、何一つなかった。


「必要? あるに、決まっているじゃないか。……妻と息子のために」


 妻と息子のため? どういう意味だ?


「妻と息子はね。君たちを食べたいんだよっ!! ほらっ! それを証拠にっ! 今も君らを欲しがって、手を伸ばしているじゃないかっ!!」


 顔を歪ませ野口さんが指差すのは、妻と息子とされる二体の屍怪。


「あんたねぇ! 二人がまだ生きているって、本当に思っているわけっ!?」


 二体の屍怪を目前に、強く訴えるハルノ。屍怪が普通の人間と異なるのは、今や疑うことなき事実である。


「生きているに決まっているじゃないかっ!? 死んだ人間は、動くことができないんだよ? そのくらい、君たちも知っているだろ?」


 しかし野口さんは、信じる理屈を曲げなかった。


「死んだ人間は動かない。こんなの常識さっ!! だから動いているってことは、生きているんだ。そうじゃないと、ボクは…………」


 自身を納得させるよう言い聞かし、顔を歪ませ俯く野口さん。


「なんのために餌を与え続けたか!! わからないじゃないかっ!!」


 次に顔を上げて野口さんが放った言葉は、予想もしない意味を含むものだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ