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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第二章 生者の帰路

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第45話 優しい手招き

「危機一髪だったな。油断したってわけじゃないけど。やっぱり一瞬の気の緩みが、命取りになりそうだ」


 塀を越えて足を下ろしたのは、後ろとなる民家の庭先。

 こちらも四方をコンクリート塀に囲われているのは、当然。庭には小さな畑と、洗濯物を干すための物干し台。屍怪の存在はとりあえず、見受けられなかった。


「大丈夫かい!? 君たち!?」


 どこからともなく響く、陽気な声。声の主を探すも、姿はどこにも見つからない。


「こっちだよ! こっち!」


 再び発せられた陽気な声に、隣の民家二階を見つめる。するとベランダには、一人の男が立っていた。

 無地の水色シャツに、ジーンズを着用する男。年齢は五十前後に見える中年。面長とした顔に、ふっくらとした体型である。


「表には行かないほうがいいよ。屍怪と化した奴らが、たくさんいるからね」


 警告する男に対し、聞きたいことは幾つもあった。


「あの――――」

「塀を越えてこっちに来ておくれよ! 話しはそれからだ!」


 問おうとするこちらの対応に、言葉を遮り早口で言う男。優しく手招きをして、室内へ戻っていった。


「どうする? 行く?」


 一方的な話しであったため、ハルノは少し戸惑っている様子。


「表に屍怪がいるなら、どうしようもないしな。選択の余地はないか」


 しかし屍怪がいるとなれば、表へ回るわけにもいかない。今は男の言うことを信じ、頼る他なかった。


「いやぁあ! 良かったねっ! 無事でっ!」


 庭先に立ったところで、大窓を開けて言う男。来ることを見越し、先回りをしていたようだ。


「あっ! ゴメンよ! 立ち話もなんだね。すぐそこに裏口があるから、入って来てよ! ボクは鍵を開けに行くからさっ!」


 満面の笑みを浮かべ、家へ招く男。口を挟む暇さえなく、圧倒されてしまう状況だった。


「よく話す人ですね。私たちはまだ、何も話していなのに」


 裏口へ向かい歩を進める中、美月は対応に苦笑いをしていた。

 男の対応は素性すら聞かず、家へ招くというもの。普通の状況だったとしても、考え難い行動だろう。


「あの、いいんですか? 俺たちは自分の素性とか、何も話してないのに」

「そんな些細なこと、気にしないで大丈夫さ! 顔を見ればわかるよ。君たちも苦労をしたんだろ? さあ、入って! 入って!」


 裏口で素性や経緯を説明しようとするも、男は想像を上回る積極的な姿勢。

 困惑の中で全員の顔色を窺い、やむなく好意を受け入れる決断。ひとまずは男の家に、上がらせてもらうことにする。


「いやぁ! 本当! まともな人に会うのは、久しぶりだよっ!」


 リビングに招かれソファに座ったところで、男は明るく陽気に言った。


 やけにテンションが高いなとは、思っていたけど。理由はこれか。


 屍怪が徘徊する世界となって、暫く。今や生きた人間と出会うことは、多くない。

 一人でいれば、会話すら皆無。コミュニケーションを取れるだけでも、嬉しいと考えれば納得。テンションが上がってしまうのも、無理ない話なのかもしれない。


「ここで一人暮らしなんですか?」

「家には妻と息子もいるんだけど。ちょっと体調を崩していてね。今は別室で休んでいるんだよ」


 男の住む家は、二階建てと大きい。リビングにはソファが三台あり、キッチンテーブルにも椅子が五脚。

 これで一人暮らしと言えば、不自然に思えてしまうくらいだろう。


「自己紹介がまだだったね。ボクは野口(のぐち)正人(まさと)って言うんだ。よろしくねっ!」

「そうでしたね。俺は一ノ瀬蓮夜って言います」


 野口さんが手を差し出し、応えて握手を交わす。

 続く全員の自己紹介も一通り。ここまでの経緯を説明した。


「君たちさえ良ければ、いつまでだって居ていいよ! ボクはウェルカムさ!」


 ニコニコと笑顔を見せる野口さんは、終始歓迎ムード全開だった。


「あの、野口さんは避難なされなかったのですか? きっと、みなさん。最初の頃に避難されているものだと思っていたので」


 生存者は避難したと考え、留まる理由を問う美月。街に生きた人間を、見かけることはほとんどない。

 ならばなぜ、家に留まっているのか。理由を問いたくなるのも、当然の心理だろう。


「ボクも最初は避難しようと思ったよ。車を使おうともしたけど、道路は進めないだろ? 徒歩で逃げようとも、思ったんだけど。妻は足が悪くてね」


 置かれた立場と状況を、ありのまま説明をする野口さん。


「君たちも、街の状況は見ただろ? 当時は人も多い混乱状態だったし。パトカーや救急車。消防車もたくさん出回っていたんだ」


 野口さんの言う通りに、街の混乱状態は想像できる。

 渋滞する車を捨て、逃げた人たち。事故現場で救助を行う、医師や看護師に消防士。そして現場の統制を行う、警察官。


「足の悪い妻と、小さな息子。二人を連れて逃げるのは、危ないと思ってね。時期に助けがくると考え、救助を待っていたんだ」


 野口さんが説明する話には、筋が通っており納得がいった。

 まともに動けぬ状態で屍怪に気づかれれば、恰好の的。足が悪いとなれば、逃げることも容易でない。


 野口さんは家から離れず、家族を守っていたのか。

 救助を待って、二週間以上。それまでの期間ずっと離れずにいるなんて、とても家族思いの人なんだろうな。


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