表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第二章 生者の帰路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/361

第41話 寝坊の代償

「お兄ちゃん! 起きて! もう朝だよっ!」


 体を左右に揺すり、起床を促す彩加。


「……疲れてるんだ。もう少しで良いから、寝かせてくれよ」


 体を包むよう柔らかいベッドと、全身を覆う温かい布団。起床を促されたからといって、簡単に起きる気にはなれなかった。


 長い夢を見ていた気がするぜ。

 屍怪と化した人に襲われ、街中を必死に。逃げ惑う夢を。


「蓮夜さん! 起きてください! 朝食の準備は、もう出来ていますよ!」


 再び体を揺らし起床を促す声は、美しくどこか品位を感じるもの。

 開かれるカーテン。部屋中に注がれる、太陽の日差し。薄目を開いて見る窓際には、一人の人物が立っていた。


「……眩しい」


 寝起きの状態では、日差しも刺激が強い。さらに顔面へ直撃となれば、かなりの不快感。手で覆って遮るも、我慢はできず。意に沿わぬも、起床する他なかった。


「やっと起きましたか。聞いてはいましたけど。本当に寝起きが悪いんですね」


 ベッドに座ったところで、窓際に立っていたのは美月。

 屍怪に襲われたことも、夢にあらず。シェルターで過ごした二週間から、同心北高校へ行ったことまで全て。紛れもない現実であった。


「ああ。朝は少し……苦手なんだ」

「少しですか。彩加ちゃんが言ってましたよ。蓮夜さんの寝起きの悪さは、筋金入りだって」


 寝起きで頭が働かぬところに、美月は苦笑いをして核心をついた。彩加が教えた情報とあって、反論の余地なき事実である。

 寝起きの悪さについては、自他ともに認めるところ。目覚まし時計から、直接の声かけ。体を揺すり顔に落書きをされようとも、起床に至らないレベルである。


「彩加ちゃんに頼まれたんです。代わりに起こしてきてって。みなさんも待たれていると思うので。下へ行きましょうか」


 美月の話し通りなら、全員すでに起床している。

 起床した順は、おそらく最後。となれば今より待たせるのは、さすがに気が引ける。部屋を出ては階段を下りて、一階へ向かうことにした。



 ***



 現在地は同心北高校から離れた、住宅街にある二階建ての民家。昨日の脱出後は、すでに夕刻。夜も迫り疲労もあって、早めの休憩を取ることにした。

 しかし助けを求め民家を訪ねるも、全てで反応なく留守。何軒も回っては、やむなく手を扉に。すると、無施錠の家を発見。無断であるが仕方なく、避難させてもらった次第だ。


 とりあえずだけど。無事に朝を迎えられて、良かったぜ。


 民家に避難してからは、何を置いても安全確認。数ある部屋の全てを回り、窓と扉を施錠。最後に階段を、ソファで塞いで封鎖。

 男女別々の部屋に別れ、一夜を明かすことにした。


「断トツのビリじゃん。蓮夜。起きるの遅すぎじゃね?」


 キッチン前にあるテーブルに座り、声をかけてきたのは啓太。


「本当。朝に弱いよね。何回も声をかけたのに」


 隣に座って首を振る彩加は、完全に呆れている様子だった。


「……悪かったな」

「やっと蓮夜も起きたのね。先に顔を洗ってきなさいよ。すぐに朝食を運ぶから」


 キッチンから呼びかけてきたのは、朝食の準備をするハルノ。

 起床後には、顔を洗う。ルーティンである行動を促されては、ひとまず洗面所へ向かうことにする。


 眠気が残っていたけど。顔を洗うと、サッパリしたな。


 鏡に映る、自分自身。他者からは童顔であると言われる顔立ちに、跳ねたままあるトップのアンテナ髪。

 基本的にいつもと変わらずも、ここ二週間の苦労もあってか。少しだけ、痩せた気がする。


「朝食はパスタか。ハルノが作ったのかよ?」

「私と真弥ちゃんで作ったの。それなりに大変だったんだから」


 キッチンに戻って椅子に着席すると、ハルノが運んできたのはパスタ。

 テーブルに置かれたのは、トマトソースのパスタ。出来立てとなっては湯気が立つ麺に、トマトの甘味と酸味ある匂いが漂ってくる。


「よくパスタなんて作れたよな」


 食材の調達はもとより、現在の民家も停電している。湯を沸かすにも、調理をするにも。大きく制限があった。


「お湯はガスコンロで沸かしたの。棚には即席の乾麺と、レトルトソースがあったから」


 ハルノが説明する通り台所には、空となった乾麺の袋が置かれている。


「勝手に食べてしまうのは、家の人に悪いと思ったけど。緊急時だし。仕方ないわよ。申し訳ないけど、頂きましょう」


 ハルノはパスタに手を伸ばし、全員も続き朝食を食べ始める。


 葛西さんはまだ、元気がなさそうだな。


 彩加の同級生である葛西真弥は、同じ岩見沢出身の女の子。付き合いは小学校から現在までと長いらしく、部活も一緒と二人の仲は良いようだ。

 しかし南郷さんを失った一件から、葛西さんの口数は少なくなってしまった。どうにもショックが大きかったようで、強く影響を受けてしまったようだ。


 元気づける言葉も、簡単には浮かばないし。支えには、彩加が付いている。

 今は下手なことを言うより、時間が解決してくれるのを待ったほうが良さそうだ。


「そうそう。食事が終わったら、蓮夜もお風呂に入ってきなさいよ。服はどうしようもないけど。体も汚れているでしょ」


 食事を途中にして、入浴するようハルノの促し。

 シェルターを出てから二日。屍怪と対峙するようになってから、入浴の機会は一度もなかった。


「そうだな。それなりに汗もかいたし。だいぶ汚れているか。ん? っつーか、もってことは。みんな入浴を終えているのか?」


 全身の汚れが気になりつつも、発言に引っかかりを覚えた。


「お先にお風呂。いただきました」


 どこか申し訳なさそうに、笑顔を見せる隣の美月。全員の顔を見渡し、自ずと現状は理解できた。


 言われてみればどことなく、シャンプーのいい匂いがする。

 他のみんなも、入浴は終えているか。


「お風呂は蓮夜で最後よ。と言っても、シャワーのみだけど。起きるのが遅かったから、最後でも仕方ないわよね」


 パスタを食べ進めつつ、淡々と言うハルノ。寝坊を追求されたとなれば、啓太と彩加のコンビは笑いを堪えているようだった。


 起きるのが遅かっただけで、こんな扱いを受けるのかよ。

 最後なのは別に良いけど。そろそろ勘弁して欲しいぜ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ