表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の黙示録  作者: 無神 創太
第二章 生者の帰路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/362

第37話 思いがけない遭遇

 血溜まりを避けて階段を上り、二階と三階の折り返し地点。前後を反転する場所となり、完全に不意をつかれる展開だった。


「なっ……!」


 出会い頭に現れたのは、白いシャツを着たモジャモジャ頭の男。

 瞬きする間もなく、振り上げられる木の棒。それは明らかに、敵意の表れだった。


「ちょっ、ちょっと待ったぁ!!」


 両手を前に出し、咄嗟に出た一言。相手が屍怪となれば、当然に無意味であっただろう。

 しかし制止を求める声に、動きを止めるモジャモジャ頭の男。どうやらこちらの言葉は、相手に届いたようだ。


「……お兄ちゃん?」


 男の背後から響く、聞き知った声。白ベースに、赤いラインが入ったジャージ。

 茶色味あるセミショートの髪に、黄色のカチューシャ。そこにいたのは、探していた人物。彩加(あやか)その人であった。


「彩加! 良かったぜ! 無事だったんだなっ!」


 思いがけない遭遇に、心の底から歓喜。無事でいたことから、安堵の感情も溢れてくる。


「本当に……大変だったよ」


 ゆっくりと歩み寄り、抱きついてくる彩加。二週間前に見たときより、ジャージは汚れて力も弱々しい。

 きっとこの二週間。こちらとはまた違う、苦労をしたのだろう。


「今のこの状況。どうなってるの?」


 抱きついたまま彩加は、顔を上に向けて問うた。

 質問するということは、事態の詳細は掴めていない。状況の把握という点では、大差はないか。少し劣っているようだ。


「詳しいことは、俺たちもわからないけど。でも、良かったぜ。とりあえずは、怪我もないみたいだな」


 体を離して、全身を確認。全体的に汚れは目立つものの、彩加に怪我などは一切なかった。


「真弥ちゃんやみんなと、避難していたんだよ」


 彩加が語る真弥ちゃんとは、同級生である葛西(かさい)真弥(まや)

 彩加と同じジャージを着用し、灰色味あるボブヘアーの女の子。星形の髪留めが特徴的な、合流した三人の一人である。


「君たちは……?」


 問いかけてきたのは、モジャモジャ頭の男性。急展開となった状況を、理解できずにいるようだ。


「俺は一ノ瀬蓮夜って言います。彩加の家族で、後ろにいるのは友人たちです」

「良かった。まともな人間のようだね。私は南郷(なんごう)(つよし)。この学校で教師をやっている者だ」


 自己紹介と会話の成立を経て、南郷さんの警戒は解かれた様子。

 今日までの二週間。南郷さんが率先して彩加たちを守り、無事に生き抜いてきたらしい。


「……って。落ち着いてる場合じゃないじゃん。早く移動したほうが良いんじゃね?」


 階段途中の立ち話となっては、移動を優先すべきと啓太。


「そうだな。ここは安心できる場所じゃないし。別の場所へ移動しましょう!」


 話したいことは多々あるも、階段という場ではそぐわない。今は一刻も早く、安全な場所へ移動をすべきだろう。


「上の階はダメだ。その……狂人がいる」


 そこで南郷さんが口にしたのは、狂人という不可解な存在。


「狂人?」

「ああ。見た目は人と大差ないのだが。様子のおかしい者がいるんだ」


 南郷さんの言う狂人は、屍怪の特徴と一致する。 

 南郷さんたちは屍怪を知らず、狂人と呼んでいたようだ。


「多分その狂人ってのは、屍怪と呼ばれる奴らです。屍怪が上にいるなら、下に戻って外へ出ましょう!」


 屍怪が上にいるとなれば、進める先は下のみ。逃げる方向について、論ずる必要はなかった。


「……まずいぞ。蓮夜」


 先頭を切って階段を下りていた啓太は、足を止めて震える声を発した。

 階段下には、先ほどまでなかった存在。醜悪な身形の屍怪がいて、階段を上っていたからだ。


「くっ。マジかよ。これじゃあ下へ逃げることも無理だっ! 別の道を探さねぇと!!」


 階段を途中にして、逃げ場を一つ失う。


「ドタッ! ドタッ!!」


 そこで後方から響いてきたのは、何かが転げ落ちる音。見ると二階と三階の中間地点には、倒れる屍怪の姿。

 屍怪は足を踏み外し、階段を転げ落ちたのだ。


「上にも下にも屍怪かよっ! ならもう行ける先は、この二階しかないっ!」


 進める先が一方向しかないとなれば、迷い選択の余地もない。再び啓太は先頭に出て、全員が二階へ駆けていく。


「それにしても、これは一体どういう状況なんだ?」


 最後尾で屍怪を警戒しつつ走っていると、後ろへ下がってきて南郷さんは問うた。


「俺も詳しくは、わからないですけど。奴らは屍怪と呼ばれ、人を襲うようです」

「……狂人。いや、屍怪と呼ぶのか」


 屍怪という言葉を、飲み込むよう頷く南郷さん。

 南郷さんたちの経緯は、当然に知らない。それでも一日前に外へ出た自身より、持つ情報は少ないようだ。


「俺たちも外に出てから、知った話ですけど。屍怪に噛まれた人は、同様の存在になるらしいです」

「やはり、そうか。その……治療法とかはないの?」


 答える南郷さんにも、心当たりはあった様子。そして再びの質問は、同様に欲する情報だった。


「それが、あれば良いんですけど。今のところ、わかってなくて。噛まれた人が屍怪になるのは、避けられないみたいです」

「……やっぱり。そうなんだよね」


 今までになく深刻そうな表情を見せ、暗い声で呟く南郷さん。落ち込む中でも揺るがぬ素振りは、先の展開を暗示しているようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ