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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第357話 クロスプリズン19

「一番隊と二番隊は一階!! 三番隊と四番隊は二階!! それぞれ左右に展開!! 五番隊は有事に備えて現地待機!! 退路の確保を怠るなっ!!」


 王変の兄貴の声が、廊下に響き渡った。その指示は即座に伝達され、各隊が持ち場へ散開していく。

 五つの隊、総勢五十名。銃声と怒号、金属の擦れる音が交錯する。壁を伝う血飛沫は乾く暇もなく、次の屍怪が現れては撃ち抜かれ、斬り伏せられていった。


「なろぉっ!!」


 叫びとともに、黒夜刀を振り抜いた。刃は屍怪の左肩から斜めに入り、胴を真っ二つに裂く。切断された上半身が宙を舞い、血を撒き散らしながら地へと落ちる。

 だが――それでも、動く。胴体を失った屍怪が、腕だけで這いずりながら足首を掴もうとする。その執念はもはや生命のそれではなく、ただ“存在”そのものが暴力と化しているようだった。


「聞いていた通り、激しい戦いになったわね」


 煙と硝煙の匂いが充満する中、ハルノが前方から駆け戻ってくる。

 その手には、サブマシンガン。――弾倉の交換が間に合わないほど、今も連戦が続いている。


「ああ、マジで苛烈だぜ」


 地面に転がる屍怪の頭へ黒夜刀を突き立て、息を荒げながら言葉を返す。

 C棟内部では、もはや地獄絵図と化していた。銃声が鳴り止むことなく響き、倒れた屍怪の屍が幾重にも積み重なる。前線では銃火器を持つ者たちが果敢に撃ちまくり、後列の者たちは突撃槍で動かなくなった屍怪の頭を貫いていく。その動きには一切の無駄がなく、訓練によって研ぎ澄まされた連携があった。


「マズい。弾が……」


 最前線にいる職員の一人が、引き金を引いたままの手を止めた。


「こっちもだ」

「……こっちも尽きた」


 銃声が次第に途切れがちに、職員たちの足は鈍っていく。

 ――弾薬切れ。想定していたはずの量を、はるかに超える消耗。八百を超える屍怪の群れに対して、持ち込んだ弾倉では到底足りなかったのだ。


「……ここまでか。総員、一時退却!! 前方の屍怪を寄せつけないように、各員ゆっくり後退しろっ!!」


 王変の兄貴の声が、重苦しい銃煙の中を突き抜ける。指揮が飛ぶと同時に、職員たちは一斉に動きを切り替えた。

 前進していた足を止め、互いに声を掛け合いながら、隊列を崩さぬよう慎重に後退していく。崩れた死体を踏み越えながら、撃ち漏らした屍怪が這い寄ってくる。その度にまだ弾の残る隊員が援護射撃を行い、後方へと退路を確保していった。

 退却とはいえ、ただの撤退ではない。この瞬間も、生と死の綱渡りが続いているのだ。


「一日で終わらないときもあるって、言ってはいたけど……。まさか、こうなるなんてな」


 息を切らしながら、出口まで戻り汗をぬぐう。

 すでに何百という屍怪を倒したはずだ。それでも――C棟の奥からは、なおも呻き声が響いてくる。弾薬は底を尽き、刃は血で重く鈍っても、それでも戦いは終わらない。



 ***



「早く行けっ!!」

「うわっ!? なんだっ!!」


 鋭い叫びが響いた瞬間、周囲の視線が一斉に上を向く。二階の通路では職員たちが屍怪の群れに押され、必死に抵抗していた。


「押すなっ!! 戻れっ!!」

「うわぁああっ!!」


 次の瞬間には金属が軋む音とともに、手すりがバキリと砕け散り、職員二人の身体が支えを失い虚空へと落ちていく。

 鈍い衝撃音が響き、埃が舞い上がる。地面に叩きつけられた二人は呻き声を上げ、必死に身を起こそうとするが、うまく動けていない。


「おい!! お前らっ!! 早く戻れっ!!」


 王変の兄貴による怒号が響き渡る。だが倒れた職員たちは反応が鈍く、一人は全く動けずにいた。

 屍怪の影がゆっくりと、その周囲を包み始める。誰もが息を飲み、銃を握りしめながらも動けない。――たった数メートルの距離が、これほど遠く感じるなんて。緊張の糸が再び、極限まで張り詰めていった。


「手の空いている者は援護に回れっ!! 二人を助けるぞっ!!」


 怒号とともに、王変の兄貴が真っ先に駆け出した。銃声と呻きが交錯する地獄のような空間を、迷いなく突き進んでいく。


「所長!! しかし、もう弾薬が……!!」


 茨田さんが叫ぶも、その声は虚しく反響するだけだった。

 王変の兄貴の足は止まらない。倒れた職員の姿が、視界の奥に焼きついているのだ。


「たどり着いても、所長一人では手が足りないぞっ!!」

「弾薬は少ないが、行くぞっ!! 所長を助けるんだっ!!」


 即座に二名の職員が応じ、弾薬の残る銃を手に後を追う。二人は屍怪の群れをかき分け、王変の兄貴の背を見つめ進んでいく。


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