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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第一章 終わりの始まり

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第35話 ひとまずの別れ

「ここを右かな」


 前方に【→】と右矢印の標識が現れ、夕山は曲がる場所を告げた。

 現在は主要道路を離れ、民家が主となる脇道。全体的に道幅も狭くなり、地元住民でもなければ通ることも少ないだろう。


 夕山が札幌に引っ越したのは、約一ヶ月前って言ってたよな。

 今は琴森(こともり)高校に通っているらしいけど。それでよく、同心北高校までの道を知ってるよな。


 居ずいてから、間もなき土地。通う学校でもない名前を聞いて、案内できる人間がどれほどいるだろうか。

 地元住民ならいざ知らず。普通に考えて、かなり難しいことのよう思えた。


「夕山さんも元は、岩見沢出身なんですよね? なんでそんなに、道に詳しいんですか?」


 内心疑問に思っていた案件を、代弁するよう美月は問うた。


「同心北高校へは、行ったことがあるんだ。転入試験を受けたからね。それで覚えていただけだよ」


 唐突なカミングアウトをする夕山。札幌の中心地区に立地する同心北高校は、北海道の中でもトップクラスと呼ばれる進学校だ。

 北海道で一番レベルが高いとされる、同海大学への合格者は最多。姉妹高である同心南高校と、常に一二を争っていると聞く。


「っつーか、夕山。同心北高校を受けていたのかよ?」

「道内一って言われてるからね。どんなものかなって、受けてみたんだよ」


 実力試しと言わんばかりに、挑戦したという夕山。

 同心北高校には、進学科とスポーツ科。二つの学科がある。その中で転入試験は、進学科のみとの話。


 俺の知っている限り、夕山は勉強もできたはずだけど。


 純粋に学力のみで判断される進学科と、スポーツ実績も考慮されるスポーツ科。

 仮にスポーツ科に転入試験があったとするなら、夕山の実績なら問題なく通るだろう案件。顔パスになっても、不思議はない。


「今は琴森高校に通ってるんだろ? やっぱり転入試験は、難しかったのか?」


 転入試験を受けての、琴森高校への通学。深くは聞かずとも、結果は想像できた。


「いーや。全然だったよ。進学科と言っても、たいしたことないね。軽い気持ちで受けて、合格はしたんだけど。家から遠かったからね。近くの琴森にしたんだ」


 しかし返ってきた夕山の答えは、度肝を抜かれるものだった。

 北海道でもトップクラスと言われる、同心北高校。進学科への合格。常人で考えれば、迷う余地などないだろう。


 家から遠いって、そんな理由で蹴ったのかよ。

 まぁらしいと言えば、そうだけど。夕山にとって学校のレベルは、気にする点じゃなかったってことだな。



 ***



「この道を真っ直ぐ進んで行けば、もうすぐ同心北高校に着くよ」


 脇道を三百メートルほど歩いたところで、右に曲がり夕山は言った。

 主要道路に再び戻り、離れて見えるホテル前。詳細は確認できないものの、異質感は拭えるものではない。


「見えてきたぜ。ほら。あそこにある、頭一つ抜けた建物だ」


 多々ある民家の隙間から、三階建ての校舎を視認。

 目と鼻の先に映る、同心北高校。思い返せば道中、様々な事があった。それでもついに、目的地へ到着したのだ。


「ちょっといいかな?」


 校門前で校舎を見据えていると、呼び止めて夕山は言った。


「なんだよ? 夕山?」

「僕の目的地。琴似は奥の方向なんだ。一応は家に帰る予定だからね。いいかな?」


 問いに揺るがず答える夕山は、琴似にある自宅へ帰りたいとの話。


 夕山が住んでいるのは、琴似って言ってたもんな。

 俺は彩加のことばかり、気になっていたけど。夕山だって家族が心配なのは、同じはずだ。


「オレたちはもう、仲間みたいなもんじゃん。ここまで来たら、みんなで協力して行く。それが筋ってもんじゃね?」


 話を聞いて啓太は、異議を唱えている。

 協力するのは、仲間なら当然の話。しかしそれには互いが承服する、共通意識が必要となるだろう。


「いいんだ。考えてもみろよ。啓太だって近くに家族がいれば、そっちを優先してもおかしくないだろ」


 仲間だからと言って、何もかもが一緒。そうあらねば、という話ではない。

 目的が一つ、異なったとき。それを許容する寛容さ。他の意見を尊重することも、時には大切だろう。


「それは、そうかもだけどよ」


 手を空中で泳がせる啓太は、仕方ないと納得した様子。

 自身の事に、置き換えられる例。想像しては苦慮し、今回の結論に至ったようだ。


「夕山。何か行き詰まることがあった場合。どうしようもないと思ったら、岩見沢に来てくれ! 俺たちも向かうから、そこで合流しよう!」


 意志を汲みつつ、一つ提案。揺るがぬ眼差しを向け、ひとまずの別れとなる夕山の答えを待つ。


「はぁ。オッケー。わかったよ。まぁそれまで、お互い生きていたらの話だけどね」


 ため息を吐き発言した夕山は、どこか観念した様子だった。

 そして最後に、皮肉を一つ。背を向けて、去っていった。


 屍怪が徘徊する世界。本当なら単独行動は、できる限り避けるべきだ。

 それでも夕山ならきっと、無事に乗り切れる。俺はそう、信じている!


「よし! じゃあ俺たちも、行こうぜっ!」


 目的地である同心北高校。校門を通り抜け、揃って敷地内へ入った。


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