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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第356話 クロスプリズン18

「……どうでしょうか。ドローンで見た限りでは、しかしこれだけの数がいては。見えていない死角も多いと思われますし」


 茨田さんが慎重に、言葉を選びながら答える。その声音の奥には、不安と緊張が滲んでいた。

 しかし、それも無理もない。C棟は四百の囚人房を抱え、さらに一、二階が吹き抜け構造になっている。壁の裏、鉄格子の影、階段の裏側――屍怪が潜める死角はいくらでもある。たとえドローンを何十台飛ばしたところで、全容の把握は到底できないだろう。


「まあ、それはそうだわな」


 王変の兄貴は腕を組み、ぼそりと呟く。画面に映る暗がりを見つめながら、何かを計算するように目を細めていた。


「最後は結局、自分たちで行って見るしかないか」


 王変の兄貴の一言で、室内の空気がわずかに張り詰めた。兄貴が警戒しているのは、ただの屍怪ではない。

 ――変異種。以前の殲滅戦で、報告されたという特異個体。同じ屍怪でありながら、異常なほどの身体能力と攻撃性を持つ存在。もしC棟の中にそれが潜んでいるのなら、突入の一手を誤るだけで全滅もあり得るのだ。



 ***



「これよりC棟――一階および二階の攻略を開始するっ!!」


 C棟の殲滅戦にて最前線に立つのは、やはりこの人しかいない――王変の兄貴だ。


「手順はA棟、B棟と同じだ。まずは入口で集まる屍怪を撃退。その後に内部へ突入し、全面的な殲滅を行う」


 副指揮官として立つのは、冷静沈着な茨田さん。

 二人の前には、武装した五十名の職員たちが整列していた。各々がマンシンガンや散弾銃を携え、黒の防弾防刃ベストに身を包んでいる。まさに、死地へ赴く覚悟の集団だ。


「ベストは……さすがに、俺たちの分までは回らなかったみたいだな」


 そう口にしながら、胸元を軽く叩く。支給されたのは迷彩色の戦闘服で、黒の防弾防刃ベストと比較して防御力は低いだろう。


「仕方ないわよ。簡単に生産できる装備ではないもの」


 隣のハルノは、落ち着いた声で答える。彼女の迷彩服も同様に色が異なり、二人並ぶとまるで別部隊のようだった。


「それでも、この防弾ブーツだけは本当にありがたいぜ。足元だけは特に注意しろって話だし」


 黒いブーツのつま先を軽く蹴る。内部には鉄板が仕込まれ、踏みつけや噛みつきへの防御力は高い。

 屍怪は、頭を撃ち抜かれない限り決して死なない。たとえ床に転がっていても、足を掴み噛みつこうとする。油断すれば、即、終わりなのだ。


「……いよいよ、始まるわね」


 ハルノの声は低く、しかし震えを含んでいた。C棟の殲滅戦――それはもはや単なる任務ではない。生きるか死ぬかの境界線だ。

 前列には、黒いベストに身を包んだクロスプリズンの職員たちが整列している。後方では支援班が構え、今はそのさらに後列。緊迫した空気が張り詰め、誰一人として無駄口を叩く者はいない。

 警報灯が赤く瞬き次の瞬間、隔壁がゆっくりと上昇を始める。隔壁の向こう――その先に、地獄が待っているはずだ。


「ガアアアァァッ!!!」

「アガァァッ!! ギィィィ!!!」

「グガァァァアッ!!!」


 低く重い金属音とともに、咆哮が一斉に響き渡った。

 鉄格子の向こうで、屍怪たちが押し寄せてくる。歪んだ顔面、裂けた口から涎を垂らし、鉄を叩きながら暴れている。


「くっ……!!」


 そのあまりの圧に、思わず一歩退く職員もいた。

 隔壁がまだ半分も開いていないというのに、すでに空気が腐臭と殺気で満たされている。そんな中で喉を鳴らし、黒夜刀の柄を握り直した。鼓動が高鳴る――もう後戻りはできない。


「総員――構えっ!!」


 茨田さんの鋭い声が響く。職員たちは一斉に構え銃口を隔壁の向こう、鉄格子の隙間へと向けた。

 銃火器による制圧、それが今回の作戦の要だ。爆薬や焼夷弾は使えない。施設そのものを、破壊するわけにはいかないからだ。

 だからこそ、必要なのは正確さと集中力。一発でも無駄にできない――そんな緊張が場を支配していた。


「よしっ!! 殲滅戦――開始だっ!!!」


 王変の兄貴の咆哮が響いた瞬間、銃声が爆ぜた。


「下がるなっ!! 撃ち続けろっ!!」


 職員が叫ぶと散弾が飛び、弾丸が鉄格子の隙間から屍怪の頭部を正確に撃ち抜く。

 弾丸が肉を裂き、脳髄を撒き散らす。屍怪たちは怒り狂ったように鉄格子へ突っ込み、倒れてもなお這い寄ってくる。


 ――これが、地獄の開幕。


 銃声と叫び声が入り混じる中、黒夜刀の柄を握りしめながら背中を見つめていた。

 弾倉の交換音が次々と響き、空薬莢が床に散って跳ねる。そんな中でも揺るがない王変の兄貴の姿は、戦場そのものを支配しているように見えた。


「……耳が、痛ぇ……」


 喧しい発砲音が二十分は続いただろうか。耳を塞いでも、鼓膜を震わせる轟音が止まらない。

 だがその音の中で、次第に目前の死体が積み上がっていく。鉄格子の向こうに押し寄せていた屍怪たちは、雨のように降り注ぐ弾丸を浴び次々と崩れ落ちていった。

 硝煙の臭いと、焦げた肉の臭いが入り混じる。それでもまだ、奥には無数の影がうごめいていた。


「鉄格子を開放!! 隊列を組んで、総員展開!!」


 どうやら区切りと見たようで、王変の兄貴による指示が怒号のように響く。鉄格子が開くと前列の職員が一斉に、内部へと踏み込む。

 足元では、まだ息のある屍怪が呻き声を上げている。その頭を狙って槍を持った職員が、容赦なく突き刺す。横陣を維持したまま、退路を確保しつつ、C棟内部へと前進が始まった。


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