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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第355話 クロスプリズン17

「にしても……エレベーターの他に出口が一ヶ所もないのかよ。普通なら避難経路くらい、あってもいいはずなのに……」


 思っていたことを不意に、自然と口にしていた。

 火災でも地震でも、建物には必ず複数の避難口がある。それが常識だ。けれどクロスプリズン地下には、その“常識”が存在しない。ただの閉ざされた箱――まるで、生き埋めにするための棺桶みたいだ。


「出口を一ヶ所としたのは、意図的だ」


 王変の兄貴の声は重く、鋼のような響きを持っていた。


「もし有事が起きて、隙が生じれば――囚人たちに逃げられる可能性が生まれる。そんなことになるくらいなら、地下で死ぬことを望む。それが本部の裁定だ」


 王変の兄貴による説明に、本質をみて思わず息を呑む。有事があれば助けるのではなく、逃さないために閉じ込めて死なせる。そこまで徹底して情報を外に漏らさせまいとする姿勢に、背筋が寒くなった。

 一体どれだけの機密を抱えた人間が、地下に幽閉されているのか。――想像しただけで、喉がひりついた。


「それでもオレは、部下の命を諦めない。信じて付いてくる者のために、できる限り全力で応じるつもりだ」


 だが王変の兄貴の言葉は違い、その横顔は迷いがなく、まるで鋼鉄の意志そのものだった。

 クロスプリズンの所長として、仲間を守る覚悟。誰よりも冷酷な環境で、その姿勢を貫いてきた男だからこそ、職員たちは命を懸けてでも彼に従うのだろう。



 ***



「C棟の状況がわからないって、本当なんですかっ!?」


 監視カメラの映像が見られないとの噂が耳に入り、D棟四階――所長室の扉を勢いよく叩いた。


「ああ、そうだ。電力が落ちているわけではないが……監視カメラそのものが壊れているらしい」


 部屋に足を踏み入れると、王変の兄貴はデスクに肘をつき、頬杖をついたままこちらを見た。

 静かに放たれた言葉が、やけに重く響いた。つまり――誰も、C棟の中で何が起きているのかを把握できていない。


「壊れているって……囚人の暴動?」


 監視カメラで状況を把握できないとなれば、聞いていた話と前提から何もかも異なる。


「可能性はある。あるいは屍怪化した後、混乱の中で破壊されたのかもしれない」


 王変の兄貴は淡々と告げたが、その目の奥には確かな警戒の色が宿っていた。

 他の棟とは違い、C棟だけが“見えない領域”。監視という名の目を奪われた空間――それはまるで、暗闇の中を歩くよう嫌な予感がじわりと膨らんだ。


「だからこれからドローンを放って、状況を確認するつもりだ」


 しかし王変の兄貴は、ただ手をこまねいているような人間ではなかった。

 すでにC棟の現状把握をするため、独自に動いていたらしい。別働隊はすでにC棟の正面に展開し、発進の合図を待機中とのことだった。


「所長。映像が出ます」


 ノートパソコンを操作していた茨田さんが声を上げ、配線を通じて転送されたモニターの映像。やがて大画面に、灰色の床が映し出される。


「よし。始めさせろ」


 王変の兄貴が低く言い放ち、その瞬間にドローンとカメラが上昇。宙を舞うように旋回を始め、C棟内部の光景を次々と映し出していく。

 監視カメラでは届かない角度まで。階層の奥まで見渡せるよう、機体は慎重に角度を調整しながら進む。


「これが今の……C棟の状況かよ」


 映像を目にした瞬間、思わず息を呑んだ。囚人房と思わしき吹き抜け構造の広場。そこにはオレンジ色の囚人服を着た屍怪たちが、まるで群れを成すように蠢いていた。

 画面の端から端まで、ほとんど隙間がない。うごめく肉塊の海。その光景は地獄そのものだった。


 八百人収監の棟。もし防御が破られて、あの群れが一斉に外へ溢れ出したら……


 想像しただけで、背筋がぞくりと粟立った。


「特に変わったところはないか?」


 王変の兄貴は、じっとモニターを見据えたまま低く問いかけた。その声音には、焦りも動揺も感じられない。


 変わったことって……これを見て、何も感じないのかよ。


 胸の奥で思わず、噛みつくように呟く。

 画面の中では屍怪たちが互いにぶつかり合い、呻き声を上げながら蠢いている。八百もの死者が動き続けているというのに、兄貴の横顔は石のように動かない。


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