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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第六章 過去との対面

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第353話 クロスプリズン15

 にしても、あの暗号……どうやったら解けるんだよ。


 アスパラガスにベーコンを巻きつけながらも、頭の中では暗号の紙がちらついて離れない。

 縦長の紙に記された文字列。認証カード、財布、スマートフォン、ペンライト、日記――それにクロスプリズンの規則や、職員たちだけが共有している認識。どれも断片でしかなく、繋ぎ合わせる糸口が見つからない。


「少し手間はかかるけど。巻いて食べると美味しいものよね」


 レイカさんは手を休めずに微笑む。アスパラガスを芯に、ベーコンをくるりと巻き重ねていく。その姿を横目に、同じ動きを手でなぞる。

 繰り返す単純な作業。だが、そこでふと胸にひっかかる。


 ……巻く? そうだ、巻くんだ。


 暗号の紙は妙に縦長だった。あれは、ただの偶然ではない。もしかして――何かに巻きつけることを前提にしているのではないか。

 単なる思いつきだ。だが、頭の奥底で鈍く光る予感があった。それはもう無性に、試してみたくて仕方がない。



 ***



「な、何!? 暗号を……ペンライトに巻く、だと!?」


 写しではなく本物が必要だと判断し、王変の兄貴のもとへ駆け込んだ。


「アスパラのベーコン巻きを作っていて思ったんです。ペンライトって、職員全員が持ち歩いているって言いましたよね? だったら、あの縦長の紙を巻きつければ……文章になるんじゃないかって」


 自分で口にしてみて、荒唐無稽な理屈だと思う。けれど、それでも言わずにはいられなかった。

 暗号を解くには、あの“長さ”を持つ紙そのものが必要。そして、職員に共通しているペンライト――条件が妙に噛み合っている。


「……なるほど。スキュタレー暗号か。面白い。果たして、成立しているのか」


 王変の兄貴が眉をひそめ、しかし目の奥に興味を宿す。そして、無言で暗号の紙をペンライトに巻きつけ始めた。

 ――スキュタレー暗号。古代ギリシアのスパルタ軍が、用いたとされる換字式暗号。円筒にリボン状の羊皮紙を巻きつけ、その上から文字を記して通信した。解読するには、同じ太さの棒に巻き直さなければならない。


「夕食の時間。起床時間。入浴時間。就寝時間――」


 王変の兄貴は呪文のよう、唐突に口にした。


「そう書かれているんだ。暗号には」


 王変の兄貴に促され、覗き込むと確かに言葉が浮かび上がっている。


「夕食の時間、起床時間、入浴時間、就寝時間。クロスプリズンの共通認識……囚人の管理スケジュールだっ!!」

「囚人の管理スケジュールよっ!!」


 連絡調整室で見た光景を思い出し、ハルノと声が同時に重なった。

 夕食は十七時、起床は六半時。入浴は十八時で、就寝は二十一時。規則正しく敷かれたタイムテーブルが、そのまま目の前の暗号と重なる。


「起床時間は繰り上げ、繰り下げ……どちらもあるわよね。それでも四桁に置き換えると……5669、5769あたりかしら?」


 ハルノが即座に数字へ変換する。午前と午後を統一して導き出した答え。もちろん他の組み合わせもあり得るが、ここまで来れば突破は目前だ。


「よし!! パスワードが正しいか、すぐに確認だっ!!」


 王変の兄貴が職員を呼び、A棟へと向かった。

 一通りの数字を試したのち――ハルノが導いた【5669】で電子錠が軽い音を立てて解除された。まさかアスパラのベーコン巻きが、こんな形で暗号解読の突破口になるなんて。予想外の事であり、――思わず笑みが溢れた。



 ***



 それからは、A棟四階の攻略に取りかかった。廊下の中央では、セキュリティロボットが力尽きたように沈黙している。残っていた屍怪も、訓練を積んだ職員たちと連携して速やかに殲滅できた。

 さらに上階を目指し、五階へ到達。そこで配電室のレバーを下ろすと、機械音が低く響き渡り、地下へ繋がるもう一つの問題を突破したことを告げてくれた。


「……意外と、すんなり進みましたね」


 緊張の連続を想像していただけに、あまりに順調すぎて肩の力が抜けそうだった。


「そう事が運ぶよう、入念に準備をしてきたからだ」


 王変の兄貴は淡々と応じ、その言葉に嘘はない。職員たちの動きは見事に統制され、まるで一つの生き物のように滑らかだ。王変の兄貴を頭とする群体が、寸分の乱れもなく戦場を制圧していく。その様は、ただ見ているだけで背筋が粟立つほどだった。


「……だがな」


 ふと、王変の兄貴の表情が曇る。目の奥にかすかな影を落とし、どこか遠い記憶を噛みしめているようだった。


「そう簡単に事が運ばない時もある」


 王変の兄貴が放つ言葉は低く重みがあり、とても浮かない顔をして見える。

 過去のどこかで、失敗と苦渋を味わってきたのだろうか。その横顔を見ながら、胸の奥に不安と期待の入り交じったざわめきを覚えていた。


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